ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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亀田 恵子 text by Keiko Kameda 
[2011.06.10]
From Nagoya -名古屋-

「あいちトリエンナーレ2010」のその後を感じさせた『1Day Cafe』

パフォーミング・アーツを大きな柱の1つとして取り入れ、話題となった「あいちトリエンナーレ2010」。閉幕後の現在も、市民のダンス・パフォーマンスに対する関心は非常に高い。これまでは「難解」というイメージが強く、敬遠されがちだったコンテンポラリー・ダンスの劇場公演にも多くの観客が来場するようになってきている。市民がアートとダンス・パフォーマンスに同じような関心を寄せる動きは、非常に興味深いことだと思う。
『1Day Cafe』は、こうした機運をうまく捕えたイベントになった。「あいちトリエンナーレ2010」で長者町プロジェクトのメイン会場となった「万勝S館(元ATカフェ)」で開催された1日限りのアートイベントは、さながらトリエンナーレの復活祭といったところ。B1Fから4Fまでビルを丸ごと使い、トリエンナーレに縁のある作家や愛知県立美術大学の在学生や卒業生の作品展示、出来るだけ電気を使わない1組10分の即興ライブ、地域を拠点に活動する団体によるプレゼンテーション、ワークショップなどが行われた。ダンス・パフォーマンスもこうした流れの中に組み込まれ、名古屋出身・在住の若手パフォーマー3組がソロダンスを披露している。
1組目は2007年の「アーツ・チャレンジー新進アーティストの発見 in. あいち」に選出された後、伊藤キムの「輝く未来」や「プロジェクト大山」などで活動している三輪亜希子。
この日のパフォーマンスは地下で行われ、空間的にはやや閉塞した雰囲気が漂う場所だったが、三輪は会場壁面にプロジェクターを使って映像を投影。花や液体のようなものが解像度を下げてぼやかされたような映像は、ピンクや紫といった色調をベースに変化していく。刻々と移り変わる映像の前で踊る三輪は、黒の長袖シャツ・黒いダンスシューズにショートパンツ姿。無表情で淡々とした様子で踊る三輪だが、スラリと露出された脚に色香が漂う。こうした雰囲気はプロジェクト大山にも共通したトーンかも知れない。

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2組目は名古屋出身で、現在は神戸を拠点に活動をするアンサンブルゾネに所属している伊藤愛がミュージシャンの聖澤聡との即興作品を披露した。伊藤と聖澤はこの日までに打ち合わせなどは一切行わず、当日になって初めて顔を合わせたという。文字通り、フタを開けてみるまで何が起こるか分からない作品だったようだ。作品は静かな立ち上がり。伊藤は観客には背を向けるかたちで会場の左はしからジリジリと右に向かって移動していく。目線は壁を貫き、ここではないどこかを凝視しているかのようだった。高い集中力は会場の左はしから右はしを3往復ほどする間に徐々に高まっていき、やがて臨界に達する。伊藤は四肢を大きく開いては閉じるというような大胆な動きで踊り、音楽は即興とは思えないほど伊藤の動きに鮮やかなエッジを与えていた。激しさと大胆さの中でも凛とした上品さを失わないスタイルは、アンサンブルゾネの作品にも通底しているように思う。

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3組目は名古屋を拠点に活動するafterimageから服部哲郎。服部は昨年、京都国際ダンスワークショップフェスティバルが行った交換研究生制度から渡仏。数カ国をツアーする経験をしている。afterimageは、演劇的な要素やメジャーなダンス作品をパロディ化するなどエンターテイメント性も重視しているカンパニーだが、今回の服部もその路線を踏襲。ポップな音楽にのせて前ふりでトークを入れたり、会場の2本の柱に「YES」「NO」と書いた紙を貼り、観客に作品中の動きが面白ければ「YES」へ、面白くなければ「NO」へ移動するよう促すなどした。こうした新たなフォーマットを導入する姿勢に加え、「元気で楽しい」雰囲気以外に静謐さの中で己の身体を提示するシーンが垣間見られたのは、服部のダンサーとしての成長を示すものだろう。今回のパフォーマンスでは、それぞれが所属するカンパニーの個性がダンサーに反映されていると感じられる機会だった。日頃から親しんでいる環境(ここでは所属カンパニー)が作品に影響を及ぼすのだろう。そういう意味では、こうした美術とダンス・パフォーマンスが近しい関係のイベントが継続されることで、ジャンルを横断した新たな影響力が生まれるのではないだろうか。「あいちトリエンナーレ」が残した種は、新たな「次」に向けて根を張りはじているようだ。
(2011年4月23日 万勝S館)

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撮影:羽鳥直志
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