ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2011.03.10]
From Nagoya -名古屋-

武藤天華が踊った市川透の新作『カルメン』ほか

振付:市川透『パキータ』『グラウンド』『カルメン』ほか
BALLET NEXT2011「ROUTE1」
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名古屋を中心に活動しているダンサー誰もが参加できるオーディション・システムによる登録制カンパニーのBALLET NEXT。2005年の『ジゼル』から年一本のペースで芸術監督の市川透が振付けた新作を発表してきたが、今年は古典の定番『パキータ』市川透の新作『グラウンド』『カルメン』と、トリプル・ビル・3演目を上演した。
久嶋江里子、清水健太(Kバレエカンパニー)が主役の『パキータ』は、ヴェテランダンサーの胸を借りて、当地域のダンサー育成を目的に、オーディションで抜擢された若手が取り組んだ古典作品だ。やはりプロとして最前線に立っている清水健太の存在感は段違いというしかなく、若手の中に入るとなお一層違いが際立ってしまう。若手ダンサーにはさらに献身を積んでこの素晴らしい経験から少しでも多くのことを掴み取って欲しい。
続く『グラウンド』は、市川透の大自然のすべての営みへの感謝と、地球の平和への祈りが込められた自然讃歌だ。BALLET NEXTファースト・メンバーの安藤亜矢子、加藤愛美の2名のソリストと6名のアンサンブルによるシンプルな群舞で展開されている。
日本と同じ島国のアイルランドの、市川が類似点をもつと感じているケルト音楽のリズムと日本の音階に2つの文化の風景を重ね合わせたという。ソリスト2人の長い肢体を存分に生かし、捻りを効かせた振付が音楽にシンクロして心地よい。黄色のドレスに身を包んで踊られるアンサンブルは、温かな日差しの中で観客も共に踊りだしてしまいそうな陽気な高揚感に満ちていた。

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メイン作品『カルメン』は、これまでの市川の創作作品と同様、ベースとなる物語には大きく手を加えていないものの、市川独自の視点で登場人物を個性的に描きだし、新たな演出・振付作品として再構成されている。カルメン、ホセ、ミカエラという3名の主要な登場人物のキャラクターから浮かび上がる個性を縦糸に、劇中に3人の関係性を横断的に織り込みながら、生まれもった宿命を具現化しようとしているかのようだ。
冒頭は太縄が2本、天井から象徴的に降りてきて、後半のカルメンの監獄のシーンを暗示させるカルメン逮捕の場面が出現。全体は20の章に分けられ、シーンは足早に展開していくが、後半の重要な場面を暗示させるような印象的なシーンが時折挿入されることで、作品に奥行きが与えられている。
主人公の運命を急かすかのように次から次へと変化するオペラ「カルメン」の音楽が、登場人物の逃れられない宿命を暗示していて、作品の主題を強く意識させていく一方で、カルメンの音楽が本来持っている味わいを平坦にしているようにも感じられた。強烈な個性をもつ音楽を使用する場合、時にその音楽の本質と作品のテーマ性を両立させることが困難になる場合がある。そんなアンビバレントな状況を逆手にとるような演出を工夫できるとよかったと思う。
またカルメン役の山田繭紀、ミカエラの亀田晴美、ホセの武藤天華(貞松・浜田バレエ団)はいずれも伸びやかな踊りで大変好感をもった。カルメンとホセのパ・ド・ドゥでは、階段をベットに見立てた粋な演出、また乱反射する照明の中でのカルメンのソロなど、翻弄される登場人物の宿命を強烈にフォーカスするような激しいダンスが繰り広げられる。
山田、武藤共に繊細で透明感のある一途な踊りが印象的だが、日本的な容姿と慎ましやかな動きのラインが『カルメン』というより、昨年の『春の雪』の配役が思い起こさせてしまう。カルメンの気持ちの変化や無償の愛を注ぎつつも裏切られたミカエルの寂しさなど、場面ごとの役づくりが、作品全体のスピーディな展開に追いついていないことも影響したのかもしれない。
BALLET NEXTにおける市川の継続的な創作意欲や新しい切り口への目のつけどころは地域のバレエ界にとって貴重な存在である。さらにBALLET NEXTのオープンマインドな姿勢には敬意を払いつつ、より緻密かつ挑戦的な創作を期待したい。

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撮影:中川 幸作
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