ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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小島 祐未子 text by Yumiko Kojima  
[2010.12.10]
From Nagoya -名古屋-

彼方から聴こえる「さようなら」の声の方へと......

ニブロール『THIS IS WEATHER NEWS』
あいちトリエンナーレ2010
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あいちトリエンナーレも大詰めに差し掛かる頃、ニブロールが〈未来〉をモチーフに『THIS IS WEATHER NEWS』を発表した。これが世界初演。ニブロールにとっては、首都圏外で新作の初日を迎えること自体、初めての経験だったという。しかも、彼女らが今後を見据えて新たに踏み出した第一歩。というのは、中心である5人、振付家・ダンサーの矢内原美邦、映像作家の高橋啓祐、衣裳デザイナーの矢内原充志、音楽家のスカンク、ジャーナリストでプロデューサーの伊藤剛が、あらためてフラットな関係に立ち返り、創作したからだ。その分、近作と違う緊張感があったことは想像に難くない。そして私たちが目撃したステージは、様々な意味で“未来志向”の大作だった。

未来を想う時、現在や過去というものと切り離して考えることはできない。ダンサーは男性2人、女性も矢内原を含めて2人。振付は、時の上をただただ進む人間の歩みを感じさせたかと思えば、欲望や満たされない苛立ちからか、無闇に他人も自分も傷つけようとする現代人の暴力性をイメージさせていく。やがて舞台は、私たちが辛うじてリアルな感触を残している20世紀の記憶へ。国内外で起きた社会事件や災害のこと、そして、戦争の時代と言われた20世紀の悲劇が、映像や音響からもヒリヒリとした痛みをもって伝わってくる。そう感じ出すと、うずたかく重なりオブジェと化した衣裳の山や投げ放たれる黒衣、山積みされた赤い靴からも、幾多の死を連想せずにいられなかった。

『THIS IS WEATHER NEWS』は〈死〉を扱った作品でもある。考えてみれば至極当然。命あるものにとって未来とは、行き着く先、死であるから。身近な人の日常的な死から、戦争の大量殺戮による非日常的な死まで。矢内原が前述の赤い靴を履き、床を強く鳴らして踊る場面では、ひとの血の上を踏み越えて今に至った人類の歴史を見ているような想いがして、胸が苦しくなった。幾千年もの歴史に刻まれた、多くの人間の死。

演劇プロジェクトも含め、矢内原の舞台を観ているといつも、時間のたい積というのか、歴史が層になっているように映る。それには、高橋の映像にしばしば登場する“飛来するもの”の影響も大きい。今回で言うと、蝶や紙ヒコーキなど。はるか成層圏から眺めたり、超低空から凝視したり。観る側はいつしか飛来するものと同じ目線になって地上を鳥瞰しながら、世界と、世界を支えてきた時の断層を見ている感覚におちいるのだ。そうして矢内原は近いもの遠いものを等しく浮かび上がらせながら、壮大な歴史観を突きつけてくる。

今年の春に横浜で発表した『あーなったらこーならない』の進化系あるいは深化系である『THIS IS WEATHER NEWS』では、データ社会で予定調和を安易に受け入れがちな現代人に疑問を投げかける。例えば、天気予報も、電車の時刻も絶対ではない、と。現代人は未来に漠然と不安を抱えながら、思いどおりにならないと怒ったり、時にはキレたりする。そのくせ、正面から向き合うと何も言えなかったり……。同作には台詞も多用されているが、何を尋ねられても「イエス」とばかり返す女、「何も答えてないじゃないか!」と絶叫する男の場面は、こっけいでもあり哀しくもあった。
私たちは文明の発達と引き換えに、何か大切なものを失ってしまったのだろうか。終盤、葉の枯れ果てた大木の映像を観た時、私は薄寒い心地さえして泣きそうになった。人類は巨大なだけの、丸裸の木なのか——。

しかし、私はそうではないと信じたい。なぜなら、この『THIS IS WEATHER NEWS』を観ているという現実からは、まぎれもなく豊かで熱いものを感じずにいられなかったからだ。
そして矢内原たちが、未来を悲観しているわけでも楽観しているわけでもないことを知る。舞台全体が白いベールで覆われた終幕、ダンサーたちが「さようなら!」と大きく手を振る。過去にではない。彼らは、未来の先っぽのようなところから“いま”に向かって別れを告げている。その声のする方へと、私たちは進んでいくしかないのだ。
(2010年10月22日 愛知芸術文化センター・小ホールにて)

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(C)あいちトリエンナーレ2010 撮影:南部辰雄
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