ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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小島 祐未子 text by Yumiko Kojima 
[2010.11.10]
From Nagoya -名古屋-

うつつか幻か----日常と非日常のあわいに跳ねた鯉

平山素子 振付・ダンス『Carp with wings,me』
あいちトリエンナーレ2010
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あいちトリエンナーレでは「都市の祝祭」をテーマに掲げ、既成のスペースを飛び出し、街なかでも多彩な発表が行われてきた。そういう企画とくれば、名古屋出身のコンテンポラリーダンサー・平山素子には地の利あり!? 同じく名古屋出身のハープ奏者・神谷朝子とともに新作『Carp with wings,me』を披露する姿は、まさしく“水を得た魚”であった!

彼女たちが公演場所に選んだのは、創業400年という当地きっての老舗・河文。名古屋っ子の多くがその名を知っていても、足を運んだことのある人は少ないであろう高級料亭だ。
おかげで、観客は出掛ける前から晴れがましい気分。しかも当日は開演前に茶菓呈上の時間が設けられ、河文体験を盛り上げる。仲居さんの案内で順番に座敷へと通され、見知らぬ者同士が膝を突き合わせながら座布団の上でお茶とお菓子をいただく。これには、ぜいたくというより厳粛な心地すらした。それから床の間に目をやると、天女のような絵が描かれた掛け軸。これが平山をモデルにしているから心憎い。束の間のひと時は、ゆるやかに、日常とも非日常とも分かつことのできない時空へと私たちを引き込んでいった。

パフォーマンススペースは、廊下と広間の縁側で3方を囲まれた中庭の池。池の水は抜かれている。奥にある小さな石舞台では神谷がハープを奏でると、ギョッとさせられる風貌の平山が池に舞い降りた。着物をベースにしたような和風の衣裳は鯉のウロコや模様にも見えて美しいが、顔は仮面で覆われている。そして足には赤い靴。これは女に化身した鯉の精なのか。水のない池には波紋をイメージさせるハープの音が響き渡り、平山もゆっくりと優雅な動きで観客の目を引きつけていく。
やがて、おずおずと赤い靴を脱ぐ平山。ついには仮面もとると、紅や青や金が大胆に配色された顔が現われる……!! 今回は、資生堂ビューティークリエイション研究所も協力に名を連ねており、メイクにも果敢なチャレンジが見て取れるから面白い。

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そこからは徐々に激しく力強い振りが展開。あらためて平山の手足のしなやかさ、美しさに惚れぼれさせられる。彼女の手足は翼のごとく、アーティスト・平山素子を飛翔させるもの。『翼をもった鯉』という作品名も俄然しっくりくる。そして終幕目前、池の底に少しずつ水があふれ始めた時はもう「待ってました!」の感。平山は身体を水浸しにして激しく転がり、雫を跳ね上げながら舞う。その踊りは、ある種エロティックでもあり、はたまた神々しくもあり。観客もすっかり大喜びだ。それに応えたアンコールでは、神谷も池に降りて演奏。すると、平山はハープちょ
っかいを掛けたり、茶目っ気もたっぷりに踊る。こうして水も滴るイイ女となったふたりには、いっそう熱い拍手が送られたのだった。

ちなみに、平山が子どもの頃「門の向こうはどうなっているんだろう?」と妄想を巡らせた場所が河文だという。そんな思い出の地と歳月を経て再会したことは、平山の時間旅行とも言うべき趣きで、なんともロマンティック。私たち観客は、平山少女が見た夢を追体験したのかもしれない。
(2010年10月3日 料亭 河文にて)

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撮影:上田和則
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