ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.12.10]
From Osaka -大阪-

野間バレエが中村恩恵、野間景の振付作品を上演

 堺市に拠点を据えて40年以上も活動を続け、堺市栄誉賞も受けている野間バレエ団が、定期公演<THE PROGRESSIVE DANCE Part 6>を開催した。野間バレエ団は、クラシック・バレエの名作とともにコンテンポラリー・ダンスのオリジナル作品の上演も意欲的に行ってきている。
 今回は、ネザーランド・ダンス・シアターでイリ・キリアンやマッツ・エク、ナチョ・ドゥアトなどの作品を踊り、自身も振付作品を提供してきた中村恩恵の二つの新作、および野間バレエ団のプリマとして活躍している野間景振付『卒業記念舞踏会』という、3部構成によるじつにフレッシュな企画公演になった。

『卒業記念舞踏会』は、ヨハン・シュトラウスの曲をドラティが編曲した音楽に、当時プリンシパル・ダンサーだったダヴィッド・リシーンがバレエ・リュス・ド・モンテカルロに振付、1940年にシドニーで初演された。
 舞台は、ウィーンの名門女子校に、陸軍士官学校に士官候補生を招いて開かれた卒業記念舞踏会。女校長と将軍、生徒たちの間に巻き起こる様々な恋のさざ波を、華麗なワルツにのせてコミカルに描いている。
 野間景の振付は、女校長を男性ダンサー(桑田充)に踊らせ、芸達者な将軍(岩本正治)とともに少々大袈裟に情感の交流を見せる。また、生徒たちのカップルや、グループには、それぞれ「無垢な彼女に惹かれて」とか「気になる彼女と夢中な3人」などといった軽いテーマを与えて、楽しく初々しい男女の情景を見せた。女校長と将軍のやりとりが生徒たちの若々しい動きとコントラストを際立たせて、全体を恋の香りを漂わせて踊る円舞曲のように演出し、青春のかけがえのない一コマを、観客と舞台が一体となって味わえるように浮かび上がらせていた。

 中村恩恵は、ジョン・ケージやスティーヴ・ライヒの曲を使った『Room』、アルボ・ペルトとバッハの曲を使った『The Well - Tempered』の2作品を創った。
『Room』は、中村自身と野間景の二人が踊った。
 中村は、Roomという言葉からは、人が居場所を必要とすること、自分の余地に「他者の居場所を提供できるという心の動き、もしくは自分も他者の居場所に寄留しているという自覚」を連想し、人間の存在のミステリーに思いがおよんだ、という。こうした本質的な発想から生まれたダンスらしく、作品の背景には、ホローコーストやユダヤとアラヴの抗争といった歴史的なものも込められている。
 淡い紫の衣裳を纏った中村と野間が、独特の大きな確信に満ちた力強い動きで踊り、素の舞台だったが照明に技巧を凝らし、じつに静謐な雰囲気ながら緊張感を漲らせた。

『The Well - Tempered』は、「純正和音を求めると、他の部分にひずみがおこる。単旋律の音楽からハーモニーの音楽へ音楽の歴史が移っていく中で The Well -Tempered がつくられました」ということを、人間社会の個人と集団の中にみて創られている。そこに中村は教育の意味を見いだし、この作品に反映させる。ダンサーがこの作品を踊ることで、個性を他者とのハーモニー中に見つけていくことができれば、という振付家の願いも込められている。また、『Room』は、個々の世界の融和を求めたデュオだが、『The Well Tempered』は集団と個のハーモニーを追求したダンスということもできるかもしれない。
 私はそういう趣旨に知ったためか、バランシンの『セレナーデ』を想い起こした。もちろん、中村作品のグループダンスの変化は、古典的フォーメーションをベースとはしていないので、現代的な感覚に対応して観ることができる。そういった点から、この作品は、これからダンスを目指す人たちに踊り継がれていってもいいのではないか、そんなふうにも思えた。
(2008年11月9日、堺市民会館大ホール)