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唐津絵里 text by Eri Karatsu 
[2007.03.10]
From Nagoya -名古屋-

バレエグループ「あすなろ」第7回公演

 名古屋で精力的に活動をしている舞踊家の岡田純奈と川口節子の研究生たちによる合同ダンス公演「あすなろ」が第7回を迎えた。隔年での開催になるので、今年で創立14周年を迎えたことになる。
 「あすなろ」は、すでに各バレエ団の単独公演ではできないような新たな冒険を可能とする貴重な機会として定着し、この公演を楽しみにしている舞踊関係者も多い。

「パキータ」

「パキータ」

 今回の公演は3部から構成され、メイン作品の配役は、バレエ団合同でのオーディションで決定された。第1部は、岡田純奈の指導による古典バレエ作品『パキータ』。主役を務めたベテラン桐村真理と大寺資二の2人が、大人の雰囲気と存在感をみせ、がっちりと組んで全体をリードする。バリエーションでは、両バレエ団の若手、加藤亜弥、内田茜、桑嶋麻帆、河野茉衣が順に登場し、それぞれに成長を感じさせる踊りと溌剌とした表情で作品の華やかさを一層引き立てた。


太田一葉
「SPIRITURE」

太田一葉
「SPIRITURE」

 第2部は「若い芽のコンサート」と題し、両バレエ団のジュニアへの創作作品2作が上演された。『SPIRITURE』は太田一葉の振付、チャイコフスキーの名曲が並ぶ『フックト・オン・チャイコフスキー』は岡田真千代の振付で、いずれも川口、岡田の各バレエ団を担う次世代の子女2人だ。優れた踊り手が多く輩出されているにもかかわらず、創り手の不在が叫ばれる日本のバレエ界。若い頃から創作の場を提供していくことも重要だ。ジュニアにとっても、多様な動きのヴォキャブラリーを学ぶ良い機会になったことだろう。創作の喜びや、踊りの楽しさを感じさせる勢いのある2作品だった。


岡田真千代
「フックト・オン・チャイコフスキー」

岡田真千代
「フックト・オン・チャイコフスキー」

 第3部は川口節子振付による新作『サロメ』。これまで川口はこの公演を通して、数々の名作を発表してきた。前回のシェーンベルクの『浄夜』や、ストラヴィンスキーの『結婚』、そしてマーラーの音楽を使用した『奇跡の人』など。これまでもこうした多数の作品や音楽の選択に、川口の審美眼と創作に対する意欲を感じさせられてきた。そして、今回選んだのは、オスカー・ワイルド作の『サロメ』だ。なんと挑戦的な作品ではないか。
『サロメ』は、戯曲よりもむしろ、シュトラウスのオペラ上演が一般的であるが、耽美主義的な至高性や、サロメの7つのベールの踊りのシーンなど、ダンス作品としての可能性を感じさせる魅力的な題材である。
思いのほか物語はオリジナルの戯曲に沿って展開する。王の義理の娘であるサロメは、幽閉されている預言者ヨカナーンに魅了されてしまい、王への献上の踊りの代償としてヨカナーンの首を乞う、という大方の筋書きだが、舞台中央の迫りにしつらえられた地下牢から登場したヨカナーンは、原作どおりとても魅惑的だ。ヨカナーン役のウィルフリッツ・ヤコブスの肉体美と妖艶な佇まいにはサロメでなくても息を呑む。
舞台右手奥には、大寺資二演じるヘロデ王と鈴木和佳枝演じるヘロディアス王妃が並び、さらに王の登場では、暗転幕を上手く利用して椅子が空中に浮かぶ演出など、この作品でも川口の卓越したアイデアが顔を覗かせている。


 

川口節子
「サロメ」

 

サロメに情欲を感じているヘロデ王に懇願されて踊るサロメの7つのベールの踊り。ここでは、沼田眞由み、岩室小百合、川本知枝、桐村真理、桑嶋麻帆、高木美月といった大人の女性たちが、王を魅惑するかのごとく、怪しく激しく踊る---そう、まるで「死の舞踏」の音楽に導かれるように。そして見向きもしないヨカナーンに追いすがるサロメの絶望的な舞い。そのサロメを振り払い、嘲笑するかのうような、ヨカナーンの舞踏を髣髴とさせる、緩くしなやかな動きが秀逸だった。
所々、多数の奴隷・兵士役(過去から現代までに自然淘汰された人々)のコロスが登場。押し寄せては引く波のように、淡々とした物語の展開の中に、全身の動きで感情の起伏を表現していく。
終幕直前、ヨカナーンの血の滴る生々しい首が、銀盆にのって現れる。生々しさに目を覆いたくなるような、この悲惨な光景の中に、正義という名の社会倫理を超えた、純粋な愛の形を刻もうとしたのだろう。そしまた、ヨカナーンを手に入れたサロメも死ぬ。川口はこの血なまぐさい物語の進行役として、サン・サーンスの音楽を選ぶことで、静かに、しかし着々と死に突き進んでいく主人公たちの愛の悲劇を描き出した。


川口節子
「サロメ」

川口節子
「サロメ」
(名古屋市芸術創造センター、2007年2月12日)