ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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桜井 多佳子 text by Takako Sakurai 
[2007.02.10]
From Osaka -大阪-

第31回宮下靖子バレエ団クリスマス公演『コッペリア』

 構成・演出・振付、そしてコッペリウスを演じたのは深川秀夫。黒い燕尾服に赤い蝶ネクタイ、裏が赤いマントという格好は、とてもスタイリッシュだが、かすかに不気味。『ファウスト』に登場する悪魔メフィストフェレスを連想した。
コッペリウスは孤独のなかで研究にふけっている、「人嫌い」の博士のようだが、ドラマの展開のなかで、「実は愛すべき人物像」がだんだんと明らかになっていった。

 大まかなストーリーは従来どおりだ。スワニルダ(鈴木祐子)とフランツ(大寺資二)は恋人同士。だけど、最近、フランツは、コッペリウスの屋敷にいる美少女のことが気になって仕方がない。

1幕「むぎの穂の踊り」
 

その様子を見たスワニルダはイライラし、それをフランツにぶつける。二人のケンカは、かなり激しい。ひっぱたいて、殴って、友人までも巻き添えにする。スピーディで面白く、だが決して「どたばた」にみせないのは深川のセンスだろう。
 第2幕は、コッペリウスの屋敷の中。普通なら様々な人形が登場し、それぞれ踊りを披露するが、深川版は、コッペリウスとスワニルダ扮する「コッペリア」の「掛け合い」だけで見せていく。第一幕では少し緊張気味だった鈴木が、ここでは歯切れの良い動きを見せ、スペインやジークなどをリズミカルに踊っていた。やがて、酔いつぶれていたフランツが目覚め、コッペリウスは、スワニルダがコッペリアに化けていたことを知る。本当のコッペリアは、もちろん、人形のまま。そんなコッペリアを抱きしめて、コッペリウスは倒れこんで泣き出してしまう。


 


2幕

2幕ラストシーン


 40年近く前に、モスクワ、ヴァルナの両国際バレエコンクールで銀賞を受賞した深川秀夫は、まだバレエ後進国だった日本に突如現れた天才ダンサーといえるだろう。その足先の美しさ、脚さばきの見事さ、優雅な身のこなしは今も健在だ。バレエをこよなく愛し、ダンサーたちを慈しむ人。コッペリア(じつはスワニルダが扮している)に命を吹き込み、さらに一緒に踊るシーンでの、コッペリウスの彼女に対する憧れや畏敬、そして愛情は、深川のバレエに対する気持ちそのままにも思えた。純粋で、ひたむきで、一生懸命。だから、物言わぬ人形を抱き涙する場面が、なんとも切なかった。

 


3幕

3幕ラストシーン


 しかし、涙で終わらないのが深川ヴァージョン。第2幕に続いて上演された第3幕では、「戦い」や「仕事」といった従来版のタイトルは消え、純粋にダンスの楽しさで見せていく。可愛らしい女性コール・ドが全体を盛り上げ、ベテラン・プリマ原美香の登場が美しいアクセントとなっていた。フランツ役、大寺資二は素晴らしい演技力でドラマを引張ってきたが、最後のヴァリエーションでも見事な軽やかさを見せた。コッペリウスも楽しそう。おしゃれで華やか。幸せな気持ちにさせてくれた『コッペリア』だった。
(12月23日、京都会館第一ホール)