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桜井 多佳子 text by Takako Sakurai 
[2007.02.10]
From Osaka -大阪-

霧島国際音楽祭で行われたみやまバレエ・ガラ・コンサート

 鹿児島県霧島市牧園町高千穂。緑豊かなこの地に建つ霧島国際音楽ホール=みやまコンセールは、今年第28回を迎える「霧島国際音楽祭」(毎年開催)のメイン会場として、特に音楽ファンに広く知られている。2006年12月28日、このホールで初めてバレエ公演が行われた。それは、やはり国際的で豪華なガラ・コンサートだった。


「コッペリア」
 トップに登場したのは、米国オーランド・バレエで活躍中の安川千晶&牧阿佐美バレエ団の邵恵羽による『コッペリア』のグラン・パ・ド・ドゥ。
安川が所属するオーランド・バレエは、かつての名ダンサー、フェルナンド・ブフォネスが芸術監督をつとめていて(現在の芸術監督はブルース・マークス)、この『コッペリア』もブフォネス版。スピーディでパワフルな振付を、安川は持ち前の愛らしさを加味しながら踊りこなしていた。

 

 続いては、田中千賀子バレエ団(福岡)の『海賊』。中学~高校生7人が登場し、「花園の場」のコールドから次々ヴァリエーションを披露していった。そうそうたるプロのダンサーに混じってのジュニアの演技だったが、テクニックが確かなので見ごたえがある。ピンクのチュチュも可憐だった。

「海賊」

 続いて上演された『Prius(プリウス)』は、矢上恵子振付のコンテンポラリー・ダンス。秋定信哉(フリー)と、矢上に師事する藤岡あやが踊った。アクロバティックなリフトや、細かいカウントのステップが散りばめられた作品は、迫力満点でエネルギッシュ。客席にも熱い空気が流れ込んだ。その余韻を引き受けたとも言えるのが、原健太。『エスメラルダ』からのアクテオンのヴァリエーションは、まだ完成していない部分も見られたが、とにかく若さで踊りきった。新国立劇場バレエ団に入ったばかりの18歳。癖のない動きが将来を楽しみにさせる。


「パ・ド・カトル」
 第一部のラストは、田中ルリ(田中千賀子バレエ団)、長田佳世(K-BALLET COMPANY)、安川そして、グランディーバ・バレエのスー・ナミこと瀬川哲司の『パ・ド・カトル』。リハーサル時間はほとんど無かったというが、さすがに全員プロ。ロマンティック・バレエのスタイルが身についている。田中の足先は優雅そのもので、長田の上腕の柔らかさはさすがロシア仕込み、安川は、やはり軽やか。それぞれが個性を活かしていた。瀬川のポワント使いも滑らか。コミカルな表情でも品を落とさないのがいい。また3人のバレリーナは瀬川の演技に自然に応対していた。なんとも贅沢な『パ・ド・カトル』だった。

 ヴァラエティ豊かな内容で楽しませてくれた今回のガラ公演。日本舞踊が加わったのもユニークな点だ。例えばソウル国際舞踊コンクールなどでは、日本舞踊がバレエととともに上演されるし、またモスクワ・バレエ学校のキャラクター・ダンスで日本舞踊が取り入れられることもあるが、日本では、バレエと日本舞踊の世界はあまりにも遠い。だが、藤間蘭黄が踊った『雨の四季』は、日本舞踊ならではの、ゆっくりとした動きとともにリズミカルな箇所もあり、さらに、「一人の踊り手が、男性になったり女性になったり複数の人間を演じ分ける」という特性も、わかりやすく示したので、バレエ目当ての観客にも興味深く受け入れられていたようだ。

 続いてはパ・ド・ドゥ2曲。まずは田中ルリ&マイアミシティ・バレエのプリンシパル清水健太が、『ジゼル』を格調高く演じた。長田&黄凱(東京シティバレエ団)の『ドン・キホーテ』は、伸びやかでゴージャス。もともとノーブル・ダンサーとして定評のあった黄凱は、大人の男性の甘さと渋さを醸していた。

 ラストは、矢上恵子作『Cheminer-シュミネ-』(世界初演)。矢上を含めた7人の女性-Kチェンバー・カンパニーの生え抜きたちが踊った。音楽はラヴェルの『ボレロ』ほか。柔らかな流れから一転鋭い動きへ変化するなど、ムーブメントは予想がつかない。一見すれば、メロディーを全く無視しているような箇所も、じつはリズムに沿っている、あるいはその逆もある。椅子を巧みに使った動きは一見、無秩序で、観客はどこを見ればよいのかわからなくなるときもあるのだが、全体の流れは、じつは壮大な物語を描いているよう。具体的な内容について矢上は語らないが、観客はそれぞれ物語を受け止めた。かなりハードな振付を見事に演じるダンサーたちは、なんともチャーミングだ。群舞-辻戸香代子、黒瀬美紀、井上裕加里、吉田知智、金子紗也、石川真理子-それぞれのダンサーの個性がくっきり浮かびあがっていた。個々のダンサーがそれぞれの色のエネルギーを放出していて、それが混ざり合って、また違う色が生まれていくようだった。矢上のダンスは、その動きの滑らかさも、なんともいえない間のとり方も絶品。また一つ、矢上の代表作が生まれた。


「ドン・キホーテ」

「Cheminer-シュミネ-」

 これだけのダンサーを集めることができたのは、芸術監督、涌井三枝子の広い人脈と人望。緞帳もないホールで公演を成立させたのは、宮本梧郎らスタッフの熱意だろう。公演の翌・翌々日にはワークショップが行われ、涌井、安川、矢上、藤間らが講師をつとめ、年末だというのに、多くの参加者を集めた。大阪でも開催して欲しいという声もあったが、自然に囲まれ、時間がゆっくり流れるような霧島温泉郷に位置する、このホールだからこそ、より充実した催しとなったような気もする。次回の開催を熱望する声は多い。