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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2006.12.10]
From Nagoya -名古屋-

第5回ナゴヤ・テアトル・ド・バレエ公演『ダフニスとクロエ』ほか

 ナゴヤ・テアトル・ド・バレエ公演は、塚本洋子バレエ団が中心となり、バレエ団のしがらみに縛られることなく他の所属あるいはフリーのダンサーも参加できる場として定着し、今回で5回目をむかえた。今年は名古屋出身の振付家・深川秀夫を芸術監督に迎え、3つの演目を上演した。

『White Suites』は、山本美樹子がアダンの音楽で、26名の女性ダンサーを振付けたロマンティックなバレエ。白い衣裳を身にまとった若きバレリーナの卵たちが溌剌としたエネルギーを放ち、踊ることそのものを楽しんでいるかのようだ。



『White Suites』

『White Suites』

『White Suites』

 続く『コンチェルト』は、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」を使用した深川振付のシンフォニック・バレエ。音楽に忠実に、次々と流れるような動きを紡ぎ出していく振付は優美だ。ダンサーたちはラストまで、ほんの少しの休みも許されず、音楽に寄り添いながらひたすら動き続ける。音とダンスが一体となった美しいバレエ作品である。


「コンチェルト」

「コンチェルト」


『ダフニスとクロエ』
 そして、メインは深川の新作による『ダフニスとクロエ』。使用音楽は、バレエ・リュスのプロデューサー・ディアギレフが、ギリシァに伝わる『ダフニスとクロエ』の物語を元に、ラヴェルに作曲を依頼したバレエ音楽で、初演は1912年、フォーキンの振付だったが、当時の作品は成功とはいえなかったようだ。典型的なギリシャの恋愛物語とラヴェルの情景音楽のバランスが、次の年に誕生したストラヴィンスキー名作『春の祭典』などに比べると、ちぐはぐな印象をもつ。しかしラヴェルの作曲した音楽の中でも最高傑作といわれるだけあって、その後も多くの振付家が様々な趣向を凝らしたバレエ化に挑戦している。深川も以前から取り組んでみたいと思っていた題材だという。あえて現代的な解釈で作品化するのではなく、オリジナルの物語に沿った振付に挑戦した。
 ダフニスはヤコブス・ウィリフリッツ、クロエは植村麻衣子が演じ、そこにクロエを誘惑するドルゴン(アンドレイ・クードリャ)やダフニスにちょっかいを出す美女リセイオン(山本美樹子)、クロエをさらう海賊の首領ブリュアクシス役の大寺資二と個性的なダンサーを投入、いずれもベテランダンサーとあって、粋な演技を見せ、作品のを確固たるものにした。ここに海賊たちやコロス、光といった群舞が関わりながら横恋慕の物語が進行していく。
『コンチェルト』で、正確かつ美しい踊りを見せた後藤彩水や辻晴香がこの作品では海賊に扮し、汚れ役という新しいキャラクターに挑戦した。美術の宮崎秀人は、縄で編んだレリーフで舞台の左右額縁を彩り、さらに主人公を助けるパンの神が、スクリーンに映し出される巨像で表現されたり、場面ごとに抽象的な背景画が写しだされるなど、ヴィジュアルでも随所に細やかな工夫がなされていた。
 特筆すべきは、ラストのダフニスとクロエのパ・ド・ドゥ。ギリシャのフレスコ画から抜け出てきたかと思わせるヤコブスの鍛えられた肉体、隅々まで神経のいき届いた植村の流麗な動き。久しぶりの舞台となった植村だが、怪我という辛い経験を経たからこそ、さらに表現に深みが出てきたように思う。キャストの情感と動きが一体となった深川の振付は、2人の優れた主演ダンサーを得て、あますところなくバレエそのものの魅力を発揮した。
(10月27日 愛知県芸術劇場大ホール)



『ダフニスとクロエ』

『ダフニスとクロエ』

『ダフニスとクロエ』