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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2005.02.10]
From Nagoya -名古屋-

●石井小浪生誕100年記念現代舞踊作品展「心から心へ」

 現代舞踊の礎を築いた舞踊家のひとり、石井小浪の没後27回忌、そして生誕100年を記念した現代舞踊公演が開催された。
 この企画は、石井漠舞踊団のスター・ダンサーとして活躍をしていた石井小浪に師事し、モダンダンスの普及につとめてきた静岡県磐田市の舞踊家・佐藤典子によって企画され、 現代舞踊の黎明期を知ることのできる稀な機会とあって、全国から多くの観客が訪れ、会場は熱気に包まれていた。

現代舞踊の創始者、石井漠の義理の妹だった石井小浪は、1905年に生まれ、11歳で兄の石井漠に師事、 15歳にして、漠のパートナーとして海外公演を行った。当時は、「象牙の優美さ」と、褒め称えられたといわれているが、28年には漠より独立、自らの創作活動に没頭し、数多くの作品を創った。 一方で、児童教育の創始、発展に勉め、その斬新さをもって、児童舞踊を芸術にまで高めたと共に、現日本バレエ協会会長の谷桃子など、現在も第一線で活躍している数多くの後進を育てている。

この公演では、石井漠と小浪についてのゲストトークと、復元作品の上演、そして小浪生誕100年に想いを込めた記念公演として、 2004年に社団法人全日本児童舞踊協会賞(チャコット賞)を受賞した『モモと時間どろぼう』(佐藤典子振付)が特別上演された。

まず第1部「心から心へ」では、石井漠と小浪を知る3人のゲスト出演者がこの兄妹について語った。ゲストは、9歳の時に石井漠舞踊団に入所し、小浪に師事した谷桃子。 また石井漠門下で、漠について詳しい緑川潤、そして小浪門下の佐藤典子。司会の舞踊評論家・山野博大が、ゲスト3人から現代舞踊を築いた兄妹の舞踊への真摯な姿勢、 そしてそれぞれの生き様について、おだやかでしかし巧みな話術で聞き出し、各々が当時への思いを語った。なかでも、小浪について、「常に人間的生き方を問い続けていた人だった」、という言葉が印象的だった。 まさに自身を反映しての「現代」の舞踊だったのだろう。

『浜辺の歌』


『サンタルチア~ローレライ』

『月の砂漠』
第1部の後半では、漠と小浪のそれぞれの作品を復元した作品上演を行った。 まず、石井漠作品では、大正から昭和初期に創作され、小浪をパートナーとして踊られた『ゴリウォークのケークウォーク』『アニトラの踊り』『山を登る』が、黒澤輝夫の指導によって復元された。 いずれの作品も想像していた以上に、力強い踊りで心に迫ってくるものがあり、例えシンプルな動きであっても、踊り手の魂のある踊りには、多くの動きを使用した多弁な動きよりも、かえって心に強く残ることを実感した。

 また、石井小浪作品としては、昭和4年~22年の間に、児童舞踊・学校舞踊としてテキストに残されている6作品『ダニューブの森』『なかよしこみち』『証城寺のたぬきばやし』 『サンタルチア~ローレライ』『月の砂漠』『浜辺の歌』が、佐藤典子によって復元された。小浪は、多くのソロを発表しているが、本人のみが踊った作品を復元することは困難ということから、 この企画では児童舞踊の復元に取り組んでいた。
 復元に取り組んだ佐藤の話によると、現代の子供たちと昔の子供たちとでは、体内のリズムや身体の骨格がまるで異なっているため、そのままの振付ではなく、 現代の子供たちに合わせるかたちで、テンポを速めて編曲を加え、振付も適宜創りなおしたという。

小浪は、幼児から中学生くらいまでと、それぞれの子供の発達に応じた作品を創作しているが、『なかよしこみち』や『証城寺のたぬきばやし』では、子供たちが生き生きと、 そしてとても愛らしくみえるように創られている。このあたりは佐藤の再振付の手腕によるところも大きいのだろう。適切な動きと明確なポーズ、巧みな構成は、今でも十分に通用する作品であると思う。

優れたものは、その価値を認めながらも、常に今に疑問をもちながら新しいことに向かって突き進む。どの分野でも時代をつくり上げた先人たちの生き方には共通のものがある。 「時代は絶えず流れております。新しい時代には、新しい舞踊が生まれなければなりません。その為には、新時代にふさわしい動きや表現の技法を案出しなりません。」という、 小浪の言葉には、今言うところの<コンテンポラリーダンス>の理念がそのまま生きているかのようである。 今回の公演で、「現代舞踊」はその時代の<同時代のダンス>であったと確認すると共に、この企画は、現代に生きる舞踊家たちにとっても、今後の活動を考える示唆に富んだ内容であったと思う。
(1月16日 磐田市民文化会館)



『ダニューブの森』

『なかよしこみち』

『証城寺のたぬきばやし』
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