ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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ブルーシャ西村 text by BRUIXA NISHIMURA 
[2017.11.10]

NYCBの若手振付家とファッション・デザイナーの華やかなコラボレーション「21世紀の振付家たち」

New York City Ballet “21st Century Choreographers”
ニューヨーク・シティ・バレエ「21世紀の振付家たち」
“The Chairman Dances” by Peter Martins、”Not Our Fate” by Lauren Lovette、”Pulcinella Variations” by Justin Peck、Composer’s Holiday” by Gianna Reisen、”The Wind Still Brings” by Troy Schumacher
『ザ・チェアマン・ダンシーズ』ピーター・マーティンス:振付、『ノット・アワー・フェート』ローレン・ラヴェット:振付、『プルテイネラ・ヴァリエーションズ』ジャスティン・ペック:振付、『コンポーザーズ・ホリディ』ジャンナ・ライゼン:振付、『ザ・ウィンド・スティル・ブリングス』トロイ・シューマチャー:振付

ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)の秋のニューヨーク公演のシーズンは、ピーター・マーティンスの『白鳥の湖』で幕を開け、続いて9月28日のガラ公演があり「21世紀の振付家たち」が始まりました。私は10月4日に見ましたが、ここでは4作品が世界初演されました。

ny1711a_12.jpg 「Pulcinella Variations」photo/Paul Kolnik

今回新作の振付家として、NYCBのメンバーで振付家でもある3名と、スクール・オブ・アメリカン・バレエ(SAB)の学生が抜擢されました。
この日は1回の休憩をはさんで、全部で5つの作品が上演されました。演奏はニューヨーク・シティ・バレエ・オーケストラです。
若き振付家たちによる新作の振付とともに、衣装デザインをファッション界の気鋭のデザイナーたちがデザインする企画となっており、この新作の衣装を見るのも楽しみにしていました。
新進気鋭の才能のある若い振付家を次々に抜擢して起用する、NYCBの芸術監督であるピーター・マーティンスには、いつも感心しています。マーティンスは、振付の才能を見抜き、自分の監督としての責任の下に振付作品を作る機会を若者に与え続けていて、人材を育てる指導者として力量があると思います。バンジャマン・ミルピエ(前パリ・オペラ座バレエ舞踊監督)も、マーティンスが最初はNYCBで振付家として起用しました。
こういったマーティンスが行う若き才能の発掘は、人種や生まれ育った環境などの出自は関係なく、その人の才能と実力を評価してオープンに受け入れる、アメリカらしい、ニューヨークらしいことだと感じます。

1作目は、『ザ・チェアマン・ダンシーズ( The Chairman Dances )』、初演1988年、芸術監督のピーター・マーティンス ( Peter Martins ) による振付から始まりました。音楽はジョン・アダムス、衣装と舞台セットデザインは、Rouben Ter-Artunianです。
これは以前、何度か見たことがある作品です。速いリズムに乗っての、軽快なダンスです。(プリンシパルはキャストにいませんでした。)
その後、舞台上の大きなスクリーンにドキュメンタリー映像が流れました。今回のNYCBの新作たちを製作している様子、それぞれの作品に起用した衣装デザイナーたちと振付家とのコラボレーションの様子、それぞれのクリエイターへのインタビューなどです。起用された日本人デザイナーの津森千里のコメント映像もありました。そしてその映像の後、実際に新作ダンスが上演されました。

2作目は、『ザ・ウィンド・スティル・ブリングス』( The Wind Still Brings )、振付はトロイ・シューマチャー( Troy Schumacher )、音楽はウィリアム・ウォルトンです。
シューマチャーは2005年にNYCBのメンバーになってから12年間在籍しており、今年2017年にNYCBのソリストに昇進しました。ジョージア州アトランタ生まれで、バレエはアトランタ・バレエで始めました。彼はNYCBには2014年から振付作品を提供しています。”Clearing Dawn” (2014), “Common Ground “(2015)”などです。
シューマチャー自身が2010年にニューヨークで設立したダンス・カンパニーのバレエ・コレクティブ( Ballet Collective )の芸術監督と振付家としても活躍しています。そして彼は、NYCBでフルタイム・ダンサーを続けながら、平行して自分のダンス・カンパニーを持って活動を続けています。
http://balletcollective.com/
衣装デザインは、イギリス人の人気ファッション・デザイナーのJonathan Saunders(ジョナサン・サンダース)です。
http://saundersstudio.com/
この作品の衣装は、シンプルなブルー系のもの、ななめボーダーの太めのストライプ柄のシャツ、レオタード、タイトなパンツ、ミニパンツやミニスカートなどでした。
振付は、次々に早い展開で速いリズムに乗って、様々な違う踊りが続いていきました。クラシック・バレエ・ベースですが、現代的な印象の踊りです。振付には、少し軽い駆け足が入っていたり、急に止まったり、パッとみんな床に寝転んだりするところもありました。男女のパ・ド・ドゥやリフトもたくさんあり、飛び跳ねて踊りました。途中、ダンサーたちが2人ずつくらい床を引きずられて出てきたところでは、笑いが起こりました。最後は、みんなダンサーたちが舞台袖に入っていって、終わりました。

ny1711a_07.jpg 「The Wind Still」photo/Paul Kolnik ny1711a_08.jpg 「The Wind Still」photo/Paul Kolnik
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「Composer's Holiday」photo/Paul Kolnik

休憩後、3作目の作品は、『コンポーザーズ・ホリデー』( Composer’s Holiday )。 振付はジャンナ・ライゼン( Gianna Reisen )、音楽はルーカス・フォスです。
これは、18歳のSABの生徒のライゼンが振付家として抜擢され、注目されています。もちろん、ライゼンが初めてNYCBに提供した振付作品ですが、ダンサーとして起用したのは、若いコール・ド・バレエのメンバーたちです。ライゼンとはSABで一緒に学んでいたダンサーもいるそうです。18歳の若者を振付家として起用したのは、NYCB始まって以来、初めてのことです。将来の活躍が楽しみです。
衣装デザインは、OFF-WHITE (オフホワイト) の Virgil Abloh (ヴァージル・アブロー) です。建築家、グラフィックデザイナー、DJ、クリエイティブ・ディレクターという、複数の肩書きを持ち、そのどれもが高いクオリティーで結果を出しています。シカゴ出身のヴァージル・アブローは元々、大学院で建築学の博士号を取得して建築関係の仕事に就いていたというバックボーンを持ちますが、同時にカニエ・ウエストのアルバムカバー、舞台デザインなどを全て行い、クリエイティブ・ディレクターとして活躍しつつ、自身のファッションブランドも作っていて、ファッションのセレクトショップも手掛けています。オフホワイトとNikeのコラボレーションでシューズや、MonclerやLevi’s、Umbro、Louis Vuittonとのコラボレーション・デザインも発売されています。ナイトクラブでDJとしても活動しています。ヒップホップの影響を取り入れた、ラグジュアリー・ストリート・スタイルのファッション・デザイナーとして成功しています。アメリカで今が旬のデザイナーなのです。アメリカのヒップホップのブラック・カルチャーの影響を受けて育った世代のデザイナーが、NYCBの作品の衣装をデザインすることも、新鮮で面白い試みです。
https://www.off---white.com/
この演目は、舞台の上手にピアノが置かれ、ピアニストとバイオリニストが出て生演奏しました。ダンサーは男性6名、女性6名ずつくらいでした。速くて変わったテンポの音楽で、現代的な曲を使っていました。
黒、淡いピンク、白が基調の衣装でした。ストリート・スタイルのファッションのデザインとは程遠い感じで、バレエっぽい柔らかくて上品なイメージの衣装となっていました。男性の黒パンツが現代のストリート風の普通のパンツで、シャツは薄く透ける素材のタイトなものだったので、バレエの踊りにふさわしいデザインの中に素材と形に少し現代風な感覚を取り入れている仕上がりでした。
踊りは、女性ソロがあり、大勢のダンサーに女性が1人リフトで支えられて前のほうへ行ったり上に上がったりしていました。ダンサーたちは踊りだけではなく、顔や表情で演技の要素もありました。1歩ずつふみしめて3歩くらい歩いて移動したりしていました。そこで、サッと照明が消えて、終わりました。

ny1711a_01.jpg 「Composer's Holiday」photo/Paul Kolnik ny1711a_02.jpg 「Composer's Holiday」photo/Paul Kolnik
ny1711a_04.jpg 「Not Our Fate」photo/Paul Kolnik

4作目の作品は、『ノット・アワー・フェート』( Not Our Fate )、振付ローレン・ラヴェット( Lauren Lovette )です。カリフォルニア出身で、飛びぬけて美しい美貌に恵まれている、可憐な役が似合うダンサーです。2015年6月からNYCBのプリンシパルに昇進しました。ラヴェットはNYCBには2014年から振付作品を提供しています。(”For Clara(2016) ”など)
衣装デザインは、Garcia and Laura Kim of Monse、Oscar de la Renta(ガルシア&ローラ・キム、オブ・モンス、オスカー・デ・ラ・レンタ)です。モンスとオスカー・デ・ラ・レンタのクリエイティブ・ディレクターであるフェルナンド・ガルシアとローラ・キムが手掛けました。
http://www.monse.com/
衣装は、男性は、下は黒いパンツと上は白いシャツでとてもシンプルでした。女性は、上は黒い長袖シャツ(ブラウス)と下は長めの丈のフワッとしたパニエのような白っぽいスカートでした。女性の黒いシャツは、ウエストがシェイプされて身体のラインが出ていて、スソが広がっているデザインで、エレガントなイメージでした。カジュアルに仕上げていますが、デザインはドレス風なので、オスカー・デ・ラ・レンタらしさが垣間見られるものでした。
プリンシパルは、アスク・ラ・コールと、テイラー・スタンレーです。作品は3つのパートから構成されていました。
ダンサーたちは、最初、舞台上を横へ次々に出てきてそのまま通り過ぎていきました。それが繰り返され、やがてダンサーは通りすぎる時に少し踊って走り去るようになっていきました。そして同時に何名もが舞台上を通り過ぎて、少し踊って、違う動きを重ねていました。ビュンビュンと音が出ていそうなほど、走って踊っていて、スピード感がある縦横無尽に舞台上を走り抜ける踊りでした。
男女ペアの踊りもあり、その間、同時に周りで何名かが別の動きで踊っていました。リフトで女性が上に上がり、そのままパタッと前に倒れこんで皆でそれを支えるところもありました。男性が女性をリフトして、上でぐるぐると回すところもあり、踊りの展開が次々に速かったです。舞台上の空間を、同時にいくつもの平面で別々の踊りを入れていて、踊りのシーンが何重にか重ねられながら進んでいくような印象のダンスでした。パッと動きがとまって急に照明が消える、劇的でメリハリがある終わり方でした。

ny1711a_05.jpg 「Not Our Fate」photo/Paul Kolnik ny1711a_06.jpg 「Not Our Fate」photo/Paul Kolnik
ny1711a_10.jpg 「Pulcinella Variations」photo/Paul Kolnik

最後の5つ目の作品は、『プルチネルラ・ヴァリエーションズ』( Pulcinella Variations )。振付はジャスティン・ペック( Justin Peck )、音楽は、イーゴリ・ストラヴィンスキーです。衣装デザインは、日本人ファッション・デザイナーの津森千里です。
http://tsumorichisato.cc/
ペックは、カリフォルニア出身です。2013年からNYCBのソリストです。2012年からNYCBに振付作品を提供してきました。
”In Creases” (2012), “Year of the Rabbit “(2012), “Paz de la Jolla” (2013), “Take-Offs and Landings” (NYCB MOVES, 2013), “Capricious Maneuvers “(2013), “Everywhere We Go “(2014) などです。
2012年から6つの振付作品をNYCBのために作った後、2014年7月からは、NYCBのレジデント・コレオグラファーとして任命されました。振付作品は、“Belles-Lettres “(2014), “Rodeo: Four Dance Episodes “(2015), “NewBlood” (2015), “The Most Incredible Thing “(2016), “The Dreamers” (2016), “The Decalogue “(2017) )などです。NYCBの他には、パリ・オペラ座バレエ、サンフランシスコ・バレエ他にも振付作品を提供してきました。
作品は9つのパートで構成されていました。プリンシパルは、スターリン・ヒルティン・、サラ・マーンズ、ジャード・アングル、ゴンサロ・ガルシア、タイラー・ペックです。
衣装は、津森千里らしいカラフルで童話の世界に出てきそうな大きめの柄のついたものでした。白を基調とした楽しいメルヘンチックな雰囲気のデザインで、なおかつ、バレエっぽくタイトなもので、短いチュチュもついていました。体の半分にチュチュがついていて体の半分がタイツという変わったデザインもありました。頭に飾りもつけていて、おとぎの国の妖精のような印象で、おしゃれでとても良いデザインの衣装だと思いました。
音楽は、バロック調で、ゆったりとしたリズムの曲でした。バレエベースですが、ストーリー性があり、女性がソロで踊っているところを男性たちが別のほうからそっとのぞき観していたり、コミカルでした。全体的に軽やかで楽しそうな踊りでした。男性のソロで早いリズムで道化のような踊りもありました。
大勢が出てきて踊ったり、ソロがあったり、交互にメリハリがあって盛り上がるところもありました。男女ペアが同時に3組、舞台上に出てきて踊り、舞踏会のようなシーンもありました。
最後は、ソロで順番に踊って見せ場があり、そしてフィナーレで9名全員が踊りました。
(2017年10月4日夜 デイビッド・H・コック・シアター)

ny1711a_09.jpg 「Pulcinella Variations」photo/Paul Kolnik ny1711a_11.jpg 「Pulcinella Variations」photo/Paul Kolnik