ラヴェットとフィンレイのうっとりとするようなロマンティックなデュエット、マーティンス振付『ロメオとジュリエット』

New York City Ballet  ニューヨーク・シティ・バレエ

"Romeo + Juliet" by Peter Martins『ロメオとジュリエット』ピーター・マーティンス:振付

ニューヨーク・シティ・バレエはバレエ・リュス出身のジョージ・バランシン(George Balanchine)がアメリカ人のリンカーン・カースティン(Lincoln Kirstein)と共に設立して以来、コンテンポラリー・バレエを主な演目として製作してきた。バランシン振付の『くるみ割り人形』や『コッペリア』(アレクサンドラ・ダニロワと共同振付)、『真夏の夜の夢』、『放蕩息子』など、そしてバランシンの死後、芸術監督に就任したピーター・マーティンス(Peter Martins)が振付けた『白鳥の湖』が、20世紀のNYCBの数少ない全幕もののストーリーバレエだった。これに加える形で、2007年にカースティンの生誕100年を記念して、マーティンス振付の『ロメオとジュリエット(Romeo + Juliet)』の全幕ものが発表された。音楽はもちろん、セルゲイ・プロコフィエフ(Sergei Prokofiev)の曲だ。今回はこの作品をご紹介する。

Lauren Lovette and Chase Finlay in Peter Martins' Romeo + Juliet Photo by Paul Kolnik

Lauren Lovette and Chase Finlay in Peter Martins' Romeo + Juliet Photo by Paul Kolnik

舞台の天井には赤い天幕、袖幕や後ろのホリゾントも赤に設定され、舞台正面奥にはシンプルな石の建物のようなセットが設置されている。バレエはいきなりロメオの出現で始まる。彼の友人のマキューシオとベンボリーノが現れ、出だしは著名なケネス・マクミランの振付とは全く違う趣向だ。基本的にストーリーはシェイクスピアの原作を再現しているので説明を省くが、この舞台には特筆すべきものがたくさんあった。
まずは、たった一つですべての場面を作り上げた、仕掛けたっぷりのセット。一見、石造りの建物の様に見え、その前で街の人々が踊る。人々が消えると、ジュリエットの乳母が椅子を持って入ってきて、セットにさりげなくかけられているカーテンを引くと、一瞬にしてジュリエットの部屋になる。そのカーテンを開いてジュリエットが中央から飛び出して、観客をあっと言わせる。このセットは三つのパネルで構成されており、それぞれのパネルを左右に開閉したり、中央が開いて台がせり出してきたりして、どんどん次の場面を作って行く。街の風景からジュリエットの部屋、キャピレット家の大広間、教会の中、果ては3つの壁のうち、左右の壁が大きく舞台の両側にまで移動して、クライマックスの墓地となる。見せ場のバルコニーの場面では、セットの上にジュリエットが立ち、セットの脇に取り付けられている階段を降りてきて、ロメオとのデュエットとなる。シンプルかつ効率的、しかも情景をしっかりと伝える、非常に頭のいいセットだ。(美術:パー・カークビー/Per Kirkeby)

Lauren Lovette and Chase Finlay in Peter Martins' Romeo + Juliet Photo by Paul Kolnik

Lauren Lovette and Chase Finlay in Peter Martins' Romeo + Juliet Photo by Paul Kolnik

次に特筆すべきは、ジュリエットを踊ったローレン・ラヴェット(Lauren Lovette)と、ロメオを踊ったチェイス・フィンレイ(Chase Finlay)。新しい体制の下だからだろうか、これまでスター制を取らなかったNYCBのダンサーたちが、このシーズンではそれぞれのイメージを明確に打ち出している。別の舞台でこんなにカリスマ性のある、素敵な男性ダンサーが居たのかと思わせる華を見せたフィンレイは、この作品では情熱的な若者を自然に演じた。そして、ラヴェットは華奢で可憐なジュリエットだ。初めて二人が出会うキャピレット家での舞踏会でのデュエットは、ためらいながらも、どんどん燃え上がる様子が表現され、わくわくする若い二人の心情が伝わった。また、バルコニーのデュエットでは、建物の上に立つジュリエットはロメオが走り込んでくると、すぐに気が付く。そして彼女が階段を駆け降りると二人は軽くキスをして、流れるようなラインのデュエットとなる。情熱的で美しい、鳥肌だつような興奮を観客に届けた。燃える気持ちを表現するフィンレイに対し、ジュリエットのラヴェットは本当に可憐で美しい。お似合いのカップルによる、非常にロマンチックなデュエットとなり、うっとりさせてくれた。最後に激しい熱いキス、そして何度もキスを繰り返し別れる二人。わくわくする、非常に惹きつける場面となった。
その他のダンサーで特筆すべきは、マキューシオを演じたアンソニー・ヒュクスレイ(Anthony Huxley)の強いテクニック。強い回転やジャンプをした時の空中での足技がピシリと決まり、小気味が良い。女性たちにちょっかいをかけて嫌われる、陽気で腕白なマキューシオを良く演じた。
また、街中の芸人役でマンダリンダンスを踊ったSABの生徒たちの踊りが素晴らしかった。まだ小さい者からティーンエージャーの者までで構成されたが、きびきびとして快活な、大きな見せ場を作った。
最後の良く知られた墓場の場面の、悲劇のすれ違いデュエットで、フィンレイが仮死状態でぶらぶらの人形の様なラヴェットの身体を抱いて踊る場面は、旨いと言うしかなかった。思わず涙が出そうになる熱演であった。降りた幕が上がっても、まだイメージの中にいるダンサーたちの姿は本当に素晴らしかった。
(2018年2月15日夜 David H Koch Theater)

New York City Ballet Photo by Paul Kolnik

New York City Ballet Photo by Paul Kolnik

ワールドレポート/ニューヨーク

[ライター]
三崎 恵里

ページの先頭へ戻る