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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2018.03.12]

音楽に乗って独特のスタイルのアフリカン・ムーヴメントを展開したロナルド・K・ブラウンのカンパニー、エビデンス

Ronald K. Brown EVIDENCE  ロナルド・K・ブラウン エビデンス
“Come Ye”, “Lessons: March”, “Den of Dreams”, “Dancing Spirit” by Ronald K Brown.
『汝ここに来たれ』、『レッスン:3月』、『夢の巣』、『踊る魂』 ロナルド・K・ブラウン:振付

ニューヨークで長年活動するアフリカ系振付家、ロナルド・K・ブラウン(Ronald K Brown)のカンパニー、エビデンス(Evidence)の舞台を見た。ブラウンはメアリー・アンソニー・ダンスシアター(Mary Anthony Dance Theater)、ジェニファー・マラー/ザ・ワークス(Jennifer Muller/The Works)など、ニューヨークを代表するモダンダンスカンパニーで踊った後、1985年に自らのカンパニーを立ち上げた。彼のスタイルは、アフリカンダンスとアメリカモダンダンスを融合したものだが、非常に社会性の強い作品を創ってきた。今回の公演の出品作は全てブラウンの振付である。

ny1803d01.jpg Arcell Cabuag and Ronald K. Brown in Exotica.
Photo © Julieta Cervantes
※写真は記事の公演のものではありません

今回の公演は『汝ここに来たれ(Come Ye)で幕を開けた。板付きでシルエットで現れたダンサーたちは、音楽が入ると一人ずつ踊りだす。それはアフリカンダンスの要素が大きく、水の中で働く様なイメージだ。彼らは一見ダンサーというよりは普通の人々といった感じで、動きも土臭いような粗いラインだが、何か惹きつけるものを持っている。
背景はオレンジ、赤、ブルーとアフリカの風土を思わせる色が使われる。作品を通じていたるところにアフリカン・ムーブメントがちりばめてあり、音楽の歌詞に触発されたような振付だ。動きの中にはターンがたくさん含まれるが、ピルエットとかアラベスク・ターンといったテクニカルなものではなく、動きの流れや勢いで回っているという感じだ。歩くこと、音楽に乗ることを主にした、プリミティブ・ダンスという表現が当たっているだろうか。ダンサーたちは楽し気に踊っているが、やがてこぶしを宙に挙げて歩いて、アフリカ系アメリカ人へのアメリカ社会の圧力への抗議のイメージや、宗教的なニュアンスが強くなる。苦労を宗教と楽しい音楽で生き抜いた人々を賞賛するダンスという意味だろうか。
音楽はリズミカルだが、ダンサーたちの表情は終始暗い。決して幸せな歴史ではなかったことを示している。これこそがアフリカ系の人々の踊りの原点だったのだろう。振付は型にこだわらないスタイルで、音に乗ること、発散することに重きを置いている。後ろのホリゾントに黒人人権運動の映像が次々と照射される。その中には暗殺されたマーティン・ルーサー・キング牧師の映像も含まれている。その前で、ダンサー全員がユニゾンのダンスを物凄いエネルギーで踊る。社会的な映像と振付を効果的に組み合わせて見せていた。ブラウンは踊りだけではメッセージが届かないと知っていて、こういう形にしたのであろう。正直で賢い演出だ。作品は映像に映し出される一連の黒人民権運動の功労者たちの映像の前にダンサーが一列に並んで終わる。最初は普通の人たちに見えた出演者たちが、最後には立派なダンサーとなっていた。

その次に踊られたのはブラウンの『レッスン:3月(Lessons: March)』という作品からの抜粋であった。二人の男性(デミトリアス・バーンズ/Demetrius Burnsとケオン・サウルイス/Keon Thoulouis)によるデュエットだった。キング牧師の演説が流れる。それに対して一人が踊る。もう一人がステージの上を歩く。踊っていた男性がうずくまると、もう一人が踊りだす。流れているのは人種差別の不公平を訴える演説だ。深刻な演説のサウンドに触発された振付なのだ。ブラウン独特の動きとサウンドのメッセージを合わせて、観客に解釈を任せる賢い作品であり、優れた芸術作品だ。やがて音楽が入り、キング牧師の演説は続く。男たちは抱き合い、手を繋ぎ、サポートし合いながら踊る。やがて演説は消え、音楽のみとなる。踊ること以上に、人間として主張を伝えることに焦点を当てて踊るダンサーたち。独特のスタイルと主張を持ったカンパニーの姿勢が見えた。

『夢の巣(Den of Dreams)』は、芸術監督のブラウン自身と副芸術監督のアーセル・カブアグ(Arcell Cabuag)のデュエットであった。カブアグのソロで始まり、やがてブラウンが加わる。初老のブラウンの動きには、スムーズで何とも言えない味がある。二人が一緒に動き出すと、それぞれの違いはあるが、呼吸がぴったりと合った踊りだ。儀式的なイメージや宗教的なイメージもある。二人が歩み寄って握手。音楽が変わり、二人が激しく踊りだす。即興も交えてあるのか、お互いの呼吸を読みながら動く様子もあった。バラバラに動いているようで一つになっている。やがて楽しいユニゾンのデュオになる。それぞれ自分の動きをぶつけ合いながら、踊りの純粋な楽しさを見せるようだ。恐らく、こうして作品の製作が行われているのであろう。カンパニーを代表する二人が、創造の源を見せたかのような作品だ。

この日の最後を飾ったのは『踊る魂(Dancing Spirit)』だった。上手奥から出てきた男性のソロで始まり、舞台を斜めに横切るように、次々と男女カンパニーメンバーが一人ずつ出てきて踊りの列が続く。全員白い衣裳だ。途中で音楽がジャズに変わり楽しい雰囲気になる。ブラウン独特のスムーズな動きで、まずは歩くことから始まり、音のリズムに乗り、ターンやジャンプを入れ、だんだんダンスらしくなる。そしてアフリカ音楽にアフリカンダンスが始まる。伸び伸びと踊るダンサーたちは、アフリカ人ならではの感性を発散して踊っている。ジャズダンスでもファンクでもない、独特のスタイルだ。ここでも水を想像させる動きが出てきた。アフリカ系の人々には水がとても神聖な意味を持つという。この作品は踊ることの素晴らしさを表現したものであろう。ダンサーたちはエネルギッシュに、会場を楽しく盛り上げて終わった。
(2018年2月11日午後 Joyce Theater)

ny1803d02.jpg Arcell Cabuag in Upside Down.
Photo © Ayodele Casel
ny1803d03.jpg Ronald K. Brown in On Earth Together.
Photo © Julieta Cervantes
ny1803d04.jpg Annique Roberts and Ronald K. Brown in TORCH.
Photo © Ayodele Casel
ny1803d05.jpg Shayla Caldwell, Annique Roberts and Arcell Cabuag in Four Corners. Photo © Lelund Durond Thompson
※写真は記事の公演のものではありません(すべて)