機知に富んだ様々なアイディアによるダンスが、次々と繰り広げられるペンドルトンの『サボテン組曲』

Momix モミックス

"Opus Cactus" by Moses Pendleton
『サボテン組曲』 モーゼス・ペンドルトン:着想、演出

ユニークな作風で世界的に知られるモミックス(Momix)の公演が、ニューヨークで行われた。今回は3週間という比較的長い公演期間に、『サボテン組曲(Opus Cactus)』一作のみを上演した。なぜ一作のみなのか不思議に思いながらジョイス・シアターに足を運んだが、舞台を見て納得。なんと一晩に18もの作品モチーフを休憩を挟んで連続して見せるという、ダンスカンパニーの公演としては珍しい企画だったのだ。『サボテン組曲』というだけあって、アメリカ中部の砂漠に舞台を置き、動物や昆虫、そしてそこに住む人々の精神生活を楽しい音楽にのせて舞台の上に再現したような企画であった。その中から印象に残った場面の数々を紹介する。

真っ暗な舞台に風の音が流れ、いくつもの光の輪が走り出して、この「組曲」はスタートした。「砂漠の嵐 (Desert Storm)」と名付けられたこの場面は、おそらくダンサーが傘の様なプロップに蛍光塗料を塗ったものを持って回しながら演じているのだろう。輪は大きくなったり小さくなったり、高く浮いたり、他の輪を食べたりする。やがて五つの輪が組み合わさって、人間の形になったかと思うと、またバラバラになる。そのうちに二つの輪の戦いになって、一つが残り、その輪もゆっくり消える。意表を突くアイデアと表現方法、かつ公演のタイトルを如実に語る、力強いオープニングだ。

SUN DANCE   Jennifer Chicheportiche,  Jenna Marie Graves, Catherine Jaeger  Photo CHARLES AZZOPARDI

SUN DANCE Jennifer Chicheportiche,
Jenna Marie Graves, Catherine Jaeger
Photo CHARLES AZZOPARDI

「ポールダンス(Pole Dance)」は、いわゆるポールダンスではない。暗い空の雲を背景に、3人の男性による棒を使ったダンスだ。長い棒を回転させたり、てこの原理を使って走高跳びに似た演技をするが、彼らは高さを競うのではなく、強靭な筋肉とテクニックを駆使して、たった一本の棒で空中で美しい象形をいくつも作ること。実にアスレチックなダンスだ。棒を使ったあらゆる遊びを試してみた、という感じだ。

「砂漠の花(Desert Blooms)」は暗闇の中に、布を被った物体がいくつもうごめきながら浮かび上がって始まった。その塊がそれぞれ立ち上がり、布をたくし上げると、長いスカートを被っていた女性たちだった。彼女たちは長いスカートを回転させて華やかな色彩を舞台いっぱいに散りばめた。回転のみのシンプルなダンスだが、「砂漠の花」というタイトルがぴったり当てはまるものだ。

「想像上のダチョウ(Ostrich of the Imagination)」は、異様な昆虫の出現で始まる。一人の男性ダンサーが後ろ向きに歩みでる。お尻に大きな頭を着けて爬虫類に見えるような衣裳で、四つ這いで後ろ向きに歩くことで巨大なキリギリスかカマキリの様に見える。このユーモラスな生物が消えると、その向こうからそれぞれ女性をリフトした男性が3組現れる。女性が上半身、男性が下半身となり、カウンターバランスを使って、二人で一匹の背の高いダチョウに見える。ラインが非常に美しく計算されている。最後に一組が残って上下逆に組み合ってピストン運動をして見せたのは、繁殖を意味するのだろうか。もちろん、一匹が雌雄に分かれて繁殖活動をするわけはないので、その点が「想像上」の動物ということなのだろう。

GILA MONSTER  Steven Ezra Photo by Charles Azzopardi

GILA MONSTER Steven Ezra
Photo by Charles Azzopardi

「ギラ・ダンス(Gila Dance)」はアメリカ毒トカゲをテーマにしたと思われるダンス。4人の男性で一匹の巨大な尺取り虫のような生物となっている。身体がくねるタイミング計算されて振付けられていて、全員が手を出すとムカデの様になる。男性たちが重なって連なり、前の人の股間に頭を突っ込む形で構成されていて、思わずおぞましいようなリハーサル風景を想像してしまったが、ユーモラスかつ頭の良い振付だ。やがて一人が抜けて、腕と胴体でそり跳びをする。これはトカゲのしっぽ切りの様なイメージで、そのしっぽが個体に変化した様子を表現している。それに対して、本体のトカゲが尻尾を立てて威嚇する。頭役のダンサーがほぼ立ち上がり、しっぽ役のダンサーが倒立して、凄まじい威嚇の様子を表現した。最後にはダンサーたちがばらばらに別れ、トカゲは4つに分かれて終わる。

「ドリーム・キャッチャー(Dream Catcher)」は巨大な曲がりくねったパイプのセットに乗った男女による空中演技。ビデオでこれを見て、このカンパニーはサーカス団だと思い込んでいた人もいるくらい非常に印象の強い作品といえる。ダンサーが自分の体重を使ってこのセットをシーソーのように動かしたり、回転させたりして、様々な動きと象形を作り出す。ゆったりと動くセットの上でダンサーたちが力の具合を調整しながら様々なポーズを取って、スローモーションで動くように見える。非常に良く出来ているセットで、セットだけを回転させることもあるが、セットの弧が良く計算されていて、ダンサーが床の上に居ても下敷きになることは無かった。

Dream Catcher  Steven Ezra, Rebecca Rasmussen  Photo by Eddy Fernandez

Dream Catcher Steven Ezra, Rebecca Rasmussen
Photo by Eddy Fernandez

TOTEMS   Amanda Hulen & Morgan Hulen,  Rebecca Rasmussen & Steven Ezra,  Catherine Jaeger & Jason Williams  Photo CHARLES AZZOPARDI

TOTEMS Amanda Hulen & Morgan Hulen,
Rebecca Rasmussen & Steven Ezra,
Catherine Jaeger & Jason Williams
Photo CHARLES AZZOPARDI

「トーテム(Totems)」では、空中に浮き上がる3人の女性の姿で始まる。ポールの中央に引っ掛かりを作ってあり、女性たちはそれに座るようにしてポールに捕まっている。この振付には明らかにポールダンスの導入が感じられた。それぞれのポールを男性が支えて、女性たちは様々な美しい形を空中で作った。踊る方も支える方も、強い筋力を要するテクニックだ。アメリカンインディアンのコンセプトを基にした作品とも受け止められた。

この舞台最後の作品、「初めての接触(First Contact)」は明らかに精神生活を物語るものだ。舞台中央の空中に、巨大な骸骨が浮いており、その衣の下に3人の女性が揺れている。骸骨のセットも女性たちも上からワイヤでつられているのだ。アメリカインディアンの音楽で、現地民の崇拝する霊を祭る儀式がテーマと分かる。女性たちが前後に走り出し、舞台の縁を跳んで観客の頭上を飛ぶ。やがて3人の男性が出てきて空中と地上のパートナリングとなる。男性が回して女性の身体が空中で回転し、美しい色彩が三つ回転しながら終わった。

FIRST CONTACT   Jennifer Chicheportiche, Rebecca Rasmussen, Catherine Jaeger Photo CHARLES AZZOPARDI

FIRST CONTACT Jennifer Chicheportiche, Rebecca Rasmussen, Catherine Jaeger
Photo CHARLES AZZOPARDI

非常に賢い振付で、すべての場面はシンプルな動きで構成されているが、良くデザインされ、観客をあっといわせながら、ちゃんとしたダンスになっている。人間の身体はこんなことができるのかと思う場面がたくさんあった。振付家であるペンドルトンの頭の良さを感じさせたのは、一つ一つの作品が非常に簡潔で短いこと。それぞれの場面は3分前後の長さで、観客に飽きを感じさせる前に次の場面に移る。ダンサーたちは非常に洗練されており、この舞台では比較的シンプルな動きをしているが、どんな踊りにも対応できる筋力とラインを持っている。美しい照明と人間のラインのハーモニーも素晴らしかった。そしてこの舞台は、振付の本質=(イコール)遊びであることを思い出させてくれた。この製作はブロードウェイで上演しても生き残れる娯楽性も備えていると思われた。
(2017年7月6日夜 Joyce Theater)

ワールドレポート/ニューヨーク

[ライター]
三崎 恵里

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