ABTのダンサーたちの華麗なテクニックに会場が大いに沸いたABT『海賊』

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター

" Le Corsaire " Staged by Anna-Marie Holmes, after Marius Petipa and Konstantin Sergeyev
『海賊』アンナ=マリー・ホルムズ:演出、マリウス・プティパ&コンスタンティン・セルゲエフ:振付

アメリカン・バレエ・シアター(ABT)の『海賊』を、6月6日に観劇しました。この日の主なキャストは、コンラッドはコリー・スターンズ(Cory Stearns)、ビルバントはゲーブ・ストーン・シェイアー(Gabe Stone Shayer)、アリはジェームズ・ホワイトサイド(James Whiteside)、ランケデムはジュウォン・アン(Joo Won Ahn)、メドゥーラはヒー・セオ(Hee Seo)。
ABTのプリンシパルは、私がニューヨークで観劇し始めた2002年頃から世代交代して、すっかり入れ替わりつつあります。私が見た懐かしのプリンシパルの面々はすでにABTを去っていて、今では新たな時代が始まっています。過去15年間に渡ってABTを見届けたことは、私にとってかけがえのない良い経験となりました。そのため今回の観劇は、改めて新鮮な気持ちで見せていただくことが出来ました。 やはり、ABTの全幕のバレエを観ると、大きな感動と、観終わった後に残る満足感が大きいです。バレエダンサーたちの世界水準の実力とテクニックは素晴らしいですし、劇場(メトロポリタン・オペラ・ハウス)も大きくて豪華絢爛な舞台セットと衣装で、全体として最高の舞台芸術だと思います。

ヒー・セオ Hee Seo in Le Corsaire. Photo: Rosalie O'Connor.

「海賊」ヒー・セオ
Hee Seo in Le Corsaire. Photo: Rosalie O'Connor.

コリー・スターンズ Cory Stearns in Le Corsaire. Photo: Marty Sohl.

「海賊」コリー・スターンズ
Cory Stearns in Le Corsaire. Photo: Marty Sohl.

このバレエ『海賊』は、海賊船、海賊(コンラッド、ビルバント)とその奴隷のアリ、女性を売る奴隷商人(ランケデム)、人さらい、奴隷商人に捉えられた奴隷の女性たち(メドゥーラ、ギュリナーラ)が織りなす、荒々しいストーリーのドラマティックなバレエです。王子様やお姫様が主人公の明るい夢の世界のバレエとは対極的で、人身売買、男性の荒々しさ、商品として扱われている女性奴隷たちの物語です。今日からみると価値観が前近代的なため、大昔の物語の雰囲気にひたれるバレエでもあります。衣装や舞台セットも含めてエキゾチックで、普段の生活から離れた非日常性のドラマを味わうことも出来ます。
この日は、メドゥーラ役を演じる予定だったヴェロニカ・パート(Veronika Part)が負傷のため、代役のヒー・セオ(Hee Seo)が演じました。
海賊や奴隷など荒々しい役の男性ダンサーのアクロバティックな大ジャンプがしばしば見られ、見所となっています。ABTは回転が得意なダンサーが多く、振りには回転も多く入れられています。他のバレエ団の演出に比べて、ABTでは回転数が多い振付で表現されていて、それぞれのダンサーのテクニックはとても高度です。
一番盛り上がるのは、第二幕の、コンラッドとメドゥーラのパ・ド・ドゥと、奴隷アリの踊りです。このシーンでは客席はすごい拍手が湧き上がり大歓声に包まれました。奴隷アリが空中高くジャンプして、180度開脚して見せてから着地する有名な振付もあります。 ヒー・セオの踊りは、繊細でとても丁寧で、可憐な女性をやわらかく表現するのが得意です。有名なフェッテでは30回転以上を見せ、大きな拍手に包まれました。
第3幕は、殺人事件もあり劇的に展開し、コンラッドと助けた奴隷のメドゥーラなどの海賊たちは船で逃げました。でもすぐに嵐におそわれて、暴風と雷の中、海中へ沈没してしまいました。海底のような青い舞台セットの中、コンラッドとメドゥーラが命からがら抱き合っているところで幕が閉じました。2人は無事に嵐から助かったのか、幻だったのか、これからどうなるのか、ハラハラする気持ちが残っていて、物語の続きをこれからまだ感じられるような終わり方の演出でした。
(2017年6月6日 メトロポリタン・オペラ・ハウス)

ワールドレポート/ニューヨーク

[ライター]
ブルーシャ西村

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