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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2017.08.10]

D.シムキン、S.レーン、S.アブレラ、M.ゴメスなどが素晴らしい踊りを見せたファンタジー、ABTの『ホイップクリーム』

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター
“Whipped Cream” by Alexei Ratmansky
『ホイップクリーム』 アレクセイ・ラトマンスキー:振付

アメリカン・バレエ・シアターの専属振付家、アレクセイ・ラトマンスキーの振付作品、『ホイップクリーム(Whipped Cream)』を見た。この作品のオリジナルは1924年に発表されたハインリッヒ・クルーラー(Heinrich Kröller)振付の『ホイップ(Schlagobers)』で、ウィーン・ステート・オペラ劇場で上演された。ラトマンスキーの製作は今年が初演である。

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Stella Abrera and Marcelo Gomes in Whipped Cream
Photo: Gene Schiavone

ny1708b03.jpg Sarah Lane and Daniil Simkin in Whipped Cream.
Photo: Gene Schiavone.
ny1708b06.jpg Daniil Simkin and Alexei Agoudine in Whipped Cream.
Photo: Gene Schiavone.

ある日曜日、教会で初めて聖体拝領の儀式を受けた少年は、友だちと一緒に街のお菓子屋さんに行ってお菓子をふるまわれる。少年は大好きなホイップクリームを食べ過ぎて、お腹をこわし、病院に連れていかれる。子どもたちが行ってしまうと、お菓子屋さんのお菓子や飲み物が踊りだす。シェフがボールの中のホイップクリームをかき混ぜると、ホイップクリームの世界が広がり、少年の夢に合流する。
一方、病院に入院した少年は、医者と看護婦軍団に囲まれ、大嫌いな注射をされる。病室に一人になった少年を、お菓子の国の仲間たちが助けに来る。頭痛に悩む医者は酒で痛みを紛らわせようとする。すると、酒のボトルたちが踊りだす。看護婦たちは少年がベッドに居ないことに気づき、捜し出して連れ戻そうとする。しかし、酒たちが邪魔に入り、医者と看護婦たちを酔っ払わせてしまい、少年はお菓子たちに救われる。お菓子の国のマスターに歓迎され、少年の夢は叶うのだった。

バレエのあらすじだけを読むと、『くるみ割り人形』の模倣版の様な印象を受けるが、実際にバレエを見ると、思ったより内容が詰まっていて、完成度の高いバレエとなっている。主人公が子どもであることから、キャストのダンサーを子どもに見せるために、大人のキャラクターを巨大な着ぐるみにしたり、セットをやたら大きくユーモラスにして、最初から最後までおもちゃの国に居るような、子どもの視点に基づいた設定になっている。お菓子や飲み物たちに命が通って動き出すお菓子屋さんのキッチンの場面では、棚の砂糖壺やお茶入れの蓋が開いてダンサーが出てくるなど、とても楽しい。

ny1708b05.jpg Daniil Simkin in Whipped Cream. Photo: Gene Schiavone.

主役の少年をダニール・シムキン(Daniil Simkin)が踊った。子どもの役なので、お菓子屋さんでホイップクリームのボールを抱えてクリームをボールから食べるなど無邪気な様子は見せるが、役柄を作りすぎるわけでもなく、不自然には見えない。彼の見せ場は第二幕の方にあり、特に夢の中でお菓子たちと合流したときに、彼の得意のジャンプや回転がさく裂する。相手役のプラリネ・プリンセス(サラ・レーン/Sarah Lane)とのデュエットでは、空中に投げ上げられたレーンの体が錐もみするように回転するなど、スキルフルな場面が見られた。最後のお菓子の国の場面では、シムキンは信じられない程の高いジャンプを何度も見せ、観客を狂喜させた。

もう一人特に印象に残ったのは、お茶のプリンセスを踊ったステラ・アブレラ(Stella Abrera)で、抜群の踊りの巧さに圧倒された。この作品の準主役でコーヒー役のマルセロ・ゴメス(Marcelo Gomes)と踊ったが、テクニックというよりは、踊りと踊り、ステップとステップの繋ぎが実にスムーズで表情に富み、くねくねと手を使いながら挨拶する様子も、単に振付を踊っているのではない、コケティッシュで独特の味わいを出した。役を自分のものにした上でのプラスアルファを感じさせる、ベテランならではの踊りで、「巧い!」と表現するしかない。

ny1708b01.jpg Stella Abrera in Whipped Cream. Photo: Gene Schiavone.

クラシック・バレエであれば欲しい白物のヴィジョンに当たる場面もちゃんとあり、これはホイップクリームの群舞という形で踊られた。大きなボールのセットからホイップクリームが流れ出すようなイメージで、女性のコール・ド・バレエが白いユニタードに薄い軽いショールを肩から腕に付け、とんがり帽子を頭に被って踊った。ステージにスモークを流し、ダンサーの体型を考えてフォーメーションを組み、美しいダンサーたちの体が強調された。クリームが混じって盛り上がって終わるという感じだ。良く出来ている振付である。

内容は非常に単純で、子どもの物語りらしくファンタジーに満ちているが、バレエとしてはとてもよくできており、観客も大喜びで、ラトマンスキーの実力を感じさせた。今後、ABTのレパートリーとしてどんどん踊られていくと思われる。
(2017年6月30日夜 Metropolitan Opera House)

ny1708b04.jpg Scene from Whipped Cream. Photo: Gene Schiavone.