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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2017.07.10]

ミスティ・コープランドのエキゾティックな美しい踊りが注目された、ABTの『金鶏』

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター
“The Golden Cockerel” by Alexei Ratmansky
『金鶏』 アレクセイ・ラトマンスキー:振付

アメリカン・バレエ・シアターの公演から、ABT専属振付家、アレクセイ・ラトマンスキー(Alexei Ratmansky)によるバレエ『金鶏 (The Golden Cockerel)』を見た。このバレエはプーシキンの叙事詩を基に1914年にミハイル・フォーキン(Michel Fokine)の振付でパリ・オペラ座で初演されたもの。ラトマンスキーが新たに振付け、2012年にコペンハーゲンのロイヤル・デニッシュ・バレエで初演した。ABTでの初演は2016年である。

ny1707g_01.jpg Misty Copeland in The Golden Cockerel. Photo: MIRA.

舞台には中世ロシアの絵画の内幕が降りている。ロシアの民族衣裳を着た占星術師(コリー・スターンズ Cory Stearns)が出てきて手にした遠眼鏡で覗く。すると絵幕の後ろに空中に浮かぶ女性の姿が現れる。その姿が消えると星占いがおまじないの様な動きをして、美しい金の鶏(スカイラー・ブラント Skylar Brandt)が現れる。幕の後ろに現れたのはシェマハンの女王(ミスティ・コープランド Misty Copeland)で、星占いの憧れの女性。星占いは計略を企てた様子で金の鶏と共に消える。絵幕が上がるとドドン皇帝(Gary Chryst)の宮中。皇帝が中央に座って悩んでいる。他国からの攻勢に王冠を脱ぎたくなるほど苦しんでいるのだ。皇帝の二人の息子の一人は穏健派だが、もう一人は武具を着けて戦いを示唆する。しかし主席相談役のポルカン大臣が不吉な発言ばかりをするので、皇帝は機嫌が悪い。そこへ金の鶏を連れた星占いが現れる。金の鶏が啼いて予言をすると言って、占い師は皇帝に鶏を貸し、戦いに勝った暁には何でも望むものを貰えるという契約を取り付ける。晩餐の後、皇帝がうたた寝をしていると金の鶏が敵の攻撃のお告げをする。目覚めた皇帝は息子二人に軍隊を着けて戦場へ送り出す。それと入れ替わる様に4人の芸人たちが現れ、皇帝の宮殿で演奏する。それを聞いて再びうたた寝する皇帝はベッドの上に美しい女性の幻を見る。シェマハンの女王だ。芸人たちが立ち去ると、金の鶏が彼らの後を追うように飛び去る。大臣や相談役が現れ、まだ夢見心地の皇帝に戦場からの伝令が息子たちの敗戦を伝える。皇帝は助太刀に自ら戦場に向かう。戦場に着いてみると、二人の息子が刺し違えて死んでおり、皇帝は悲嘆にくれる。しかし、華やかな宮殿から夢に出てきたシェマハンの女王が現れるのを見て、皇帝の悲しみは霧散する。美しい女性たちの踊りや女王の嫋やかな踊りを見て、皇帝はすっかり女王の虜になる。大臣が止めるのも聞かず、皇帝は女王に勧められるままに酒を飲み、宮殿に入っていく。女たちは闘う意図は全くなく、皇帝は骨抜きになって、女王に遂に自分の国も与える約束をする。皇帝は女王を連れて凱旋するが、星占いが契約に基づいて褒美としてシェマハンの女王と金の鶏の返却を求めると、皇帝は怒って星占いを殴り殺す。途端に女王は皇帝を突き放し、金の鶏が皇帝を突き殺す。星占いが起き上がり、これは全て作り話だと観客に示唆して、絵幕の向こうに現れたシェマハンの女王の姿を追うように消える。

ny1707g_03.jpg Scene from in The Golden Cockerel. Photo: Rosalie O’Connor.

さて、上記の物語はプログラムに書かれてあるあらすじを基に紹介したもので、踊りだけを見ていてここまで理解するのは実は難しかった。あまり知られていないバレエであるため観客側の知識も乏しく、勢い振付(Ratmansky)とステージング(Anne Holm-Jensen Peyk)の仕上がりが結果に繋がる製作だ。
例えば全幕を通じて、皇帝の息子たちや大臣が女性を誘惑する場面が出てくる。息子たちが戦場に出る時や、皇帝が凱旋するときに息子たちの戦死を知った恋人たちが悲しむ場面もあるが、こうした場面は物語に全く幅を与えていない。第一幕で現れた4人の芸人たちの存在はいったい何だったのか、という疑問も残った。彼らが現れてシェマハンの女王のイメージが出てきたため、彼らはシェマハンの人間かとも想像させたが、あらすじにもこの4人への言及はなく、振付でもそうした説明が認められず、結局この疑問への答えはなかった。また、金の鶏とシェマハンの女王以外は、皇帝を始めとして出場人物のほとんどを滑稽な存在に仕立ててあり、随所で笑いを取ろうとする意図が見られるため、作品そのものに厚みが感じられない。例えば、星占いを普段は古典のプリンスを踊るコーリー・スターンズが演じたにも拘わらず、彼のダンサーとしての良さが見られる場面は認められなかったのは残念だ。

ny1707g_02.jpg Skylar Brandt in The Golden Cockerel.
Photo: Rosalie O’Connor.

さて、この舞台での一番期待されたのが、ミスティ・コープランドの踊りだ。ABTで初めてのアフリカ系プリンシパルとして、アメリカでもテレビコマーシャルに出演して大きな話題を呼び、一躍有名になった。実際に舞台の上で見るコープランドは、小柄でエキゾチックで美しく、異国の女王という設定にぴったりだ。彼女の本格的な踊りは第二幕で見ることができたが、嫋やかな上半身の使い方、非常に正確な技術が印象に残った。マイムや演技もうまく、きちんとメッセージを観客に伝える。ABTという大きなカンパニーを背負って立つにふさわしい、立派なプリンシパル・ダンサーと見受けられた。

金の鶏を踊ったスカイラー・ブラントは現在はソリストだが、ABTでもいくつも主役をこなしており、将来が期待されるダンサー。非常に美しいラインを持ったダンサーで、この金の鶏の役も、きらびやかだがレオタードとタイツに近い、動きの誤魔化しが効かない衣裳であった上に、踊りも少し変わっていて難しい振りと見受けられたが、美しく踊りこなした。

初演の時はさんざん酷評されたが様々な振付家やステージングの手を経て、グランド・バレエと言われる大作に成長し、人々に愛されるようになった作品は『白鳥の湖』を始めとして多くある。バレエも人々の心に沁み込むまでには、いくつもの試行錯誤が必要なのだろう。ラトマンスキーを始めとする新しい振付家たちによって、このバレエも試行錯誤を重ね、洗練を重ねて良い作品に育ってほしいものである。
(2017年6月2日夜 Metropolitan Opera House)