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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2017.07.10]

エルマン・コルネホ、スカイラー・ブラント、ジェフリー・シリオ、サラ・レーン、ダニエル・シムキンが踊ったABTの『海賊』

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター
“Le Corsaire” Choreography by Konstantin Sergeyev, after Marius Peptipa, Staged by Anna-Marrie Holms, after Petipa and Sergeyev
『海賊』 コンスタンチン・セルゲイエフ;振付(マリウス・プティパに基づく)、アンナ=マリー・ホルムズ:演出(セルゲイエフ、プティパに基づく)

アメリカン・バレエ・シアターの『海賊 Le Corsaire』を見た。これはバイロンの同名の詩を原作にしたバレエでジュール=アンリ・ヴェルノワ・ド・サンジョルジュとジョゼフ・マジリエがバレエ台本にしたもの。オリジナルはマジリエがパリ・オペラ座バレエに振付け1856年に初演されたが、その後マリウス・プティパが再振付けしてマリンスキー・バレエ(当時のレニングラード・キーロフ・バレエ)が1899年に発表したものが今日の『海賊』の土台となっている。アメリカン・バレエ・シアターの『海賊』の初演は1998年であった。私もこの時の舞台を見たが、主演はニーナ・アナニアシヴィリ、ホセ・マニュエル・カレーニョ、アンヘル・コレーラ、ウラジミール・マラーホフという、まさに当時のスターを満載した顔ぶれだったのを覚えている。演出は、プティパ振付の後、コンスタンチン・セルゲイエフの振付に基づいたアンナ=マリー・ホルムズだった。今回もそのヴァージョンが上演された。

ny1707c_01.jpg Skylar Brandt and Herman Cornejo in Le Corsaire. Photo: Rosalie O’Connor.

トルコへ向かう海賊船にはコンラッド、彼の友人のビルバント、奴隷のアリが乗っている。街の市場に到着したコンラッドたちは、女性を売る奴隷商人たちに遭遇する。輿に乗って連れてこられた美しいメドゥーラを認めたコンラッドは彼女に薔薇の花を投げ、メドゥーラもそれに応じて、二人は強く惹かれ合う。しかし、奴隷商人の首領ランケンデムは二人の間に割って入り、この女は高いんだとコンラッドに言う。そして現れたパシャ(オスマン帝国時代の高官)に早速女たちを売り始める。なかなか気に入らないパシャに、ランケンダムはメドゥーラの友人のギュリナーラとメドゥーラの最も美しい二人を売る。コンラッドはメドゥーラを取り戻そうとするが、金の力に及ばず、女性たちは連れていかれる。コンラッドはアリに密かにメドゥーラをさらってくるように指示し、アリはメドゥーラとランケンデムを誘拐してくる。海賊の隠れ家に落ち着いたコンラッドはメドゥーラとアリと踊って仲間たちを労う。メドゥーラは自分を愛しているなら、奴隷の女たちを解放して欲しいと懇願し、コンラッドはそれを受け入れる。しかし、ビルバントはそれに反発し、他の海賊たちと一緒に彼を陥れようとする。ビルバントはランケンデムに、眠り薬を使ってコンラッドを殺してメドゥーラの誘拐を指示するが、企みは途中でアリに見つかり、メドゥーラの誘拐だけに終わる。コンラッドはビルバントにランケンデムの仕業と言いくるめられて、奴隷仲間と一緒にメドゥーラ奪還にパシャの館へ向かう。パシャの館では、メドゥーラが戻ったことに喜んだパシャが、昼寝をして女たちの夢を見ていた。目が覚めたところで托鉢僧に扮したコンラッドら海賊が現れ、無事メドゥーラとギュリナーラを始めとする奴隷の女性たちを救出するが、その過程でメドゥーラがビルバントの計略をコンラッドに話し、コンラッドはビルバントを殺す。海賊たちは船に逃げおおせるが、海に出た船は嵐に遭い、結局沈没してしまう。コンラッドとメドゥーラは命からがら海岸に泳ぎ着く。

ny1707c_02.jpg Jeffrey Cirio in Le Corsaire. Photo: Rosalie O’Connor.

コンラッドをエマン・コルネホ(Herman Cornejo)、メドゥーラを本来はマリア・コシェトコワが踊る予定だったが、負傷のためスカイラー・ブラント(Skylar Brandt)が踊った。強い回転を売り物とするコルネホには、コンラッドは役不足と思われる。何故なら、コンラッドの役は回転よりはジャンプが中心の振付けだからだ。そのため、コルネホはアティチュードターンの後半をピルエットに繋げたり、随所に独自の解釈で強い回転を入れながらも、非常に大きな、凝ったジャンプ技を取り入れて踊った。
ブラントは美しい存在感がこの役柄にぴったりで、メドゥーラの最初のソロは美しくコケティッシュだ。特に首の線が綺麗で、大きな劇場で遠くから見ても独特の存在感がある。動きがきびきびとクリスプで、回転も得意で、コルネホとのデュエットでは、安定した彼女の胴体をコルネホがまるでコマのようにくるくると12回ほども回すのは、これまたヴァリエーションのテクニックの水準を上げてしまったと思われた。テクニックだけではなく、二人のデュエットは非常にロマンチックで、ムードを盛り上げることも忘れない。
第二幕の最初の、コンラッドとメドゥーラ、そして奴隷のアリの踊りは、どのヴァリエーションもコンクールでよく使われるものだ。アリを踊ったジェフリー・シリオ(Jeffrey Cirio)はABTきっての回転技を得意とする人気ダンサーの一人。非常にシャープなラインと動きで、自信たっぷりの余裕のある演技は安心して見ていられる。シリオのテクニックは非常に丁寧でのびやかで、ジャンプをした空中でも身体がのびのびとストレッチする様が分かる。難しいヴァリエーションを素晴らしくきっちりまとめて、会場に大歓声が沸いた。対してコンラッドのコルネホは大きなジャンプで勝負、跳んでいる空中で回転しながらアラベスクになったりアティチュードになるなど、工夫を込めた技を組み込んだ。ブラントも素晴らしく、32回のフェッテターンも非常に安定しており大きな見せ場を観客の大歓声とともに収めた。

ny1707c_03.jpg Sarah Lane and Daniil Simkin in Le Corsaire. Photo: MIRA.

もう一人、忘れてはならないのが奴隷商人を演じたダニール・シムキン(Daniil Simkin)。第一幕の幕が上がるその瞬間から素晴らしいマルチ・ピルエットで活気づける。彼のシャープな動きが市場の活気を印象づけた。メドゥーラの友人のギュリナーラを演じたサラ・レーン(Sarah Lane)とのデュエットが、第一幕では最初の大きなデュエットとなるが、空中高くリフトされたレーンの脚が180度以上に開いて美しいラインの高いエクステンションが印象的な絵となった。シムキンのソロはストレッチの効いた大きなジャンプとマルチ・ターンの連続で、人間技に見えないほど。大きなバレルターンから膝立ちになる着地は、身体が床に落ちるかと思うほど大きく反る、リスクをかけた演技だ。レーンもそれぞれのポジションが正確で、強いピルエットコンビネーションを見せ、素晴らしい場面になった。
第3幕のパシャのビジョン(夢)の場面ではABTの養成校JKOの子供たちもたくさん組み入れられて、大人のコール・ド・バレエと共にピンクと黄色の華やかな場面になった。ここでリードを務めたのはギュリナーラのレーンとメドゥーラのブラントで、ブラントはソロの最後の斜めの回転の場を、通常シェネターンで行われる所をステップピルエットを全部ダブルで行うという難しい技でこなして見せた。レーンは一見柔らかく軽い踊り方だが、セカンドターンが途中からアラベスクターンになったり、イタリアン・フェッテの連続を見るからに軽く見せるなど、技術の強さを見せた。この場は花の台や花輪を入れ、ピンクに始まりピンクに終わって、夢を見ているパシャの頭の中のおめでたさが表現されている。
バレエではすらりと描いているものの、『海賊』という物語そのものは快楽と性的虐待をテーマにしていて、女性として決して気持ちがいい物語ではない。しかし、バレエ作品として成功しているのは、振付だけでなく音楽の素晴らしさ(アドルフ・アダム、チェザレ・プーニー、レオ・ドリーブ、リカルド・ドリゴ、オルデンブルグ公爵)もあると思われる。バレエ・テクニックの競演の代名詞のようなこのバレエは、深く考えずスポーツを見るような感覚で見て、すっきり楽しく劇場を後にするものかもしれない。そういう意味で、100点満点中200点の舞台であった。
(2017年6月5日夜 Metropolitan Opera House)