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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2017.06.12]

L.T.コルベット、J.エロ、P.マーティンス、J.ペック作品による現在のNYCBを表す公演

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ
“Chiaroscuro, The Play of Light and Shadow” by Lynne Taylor-Corbett,、“Slice to Sharp” by Jorma Elo、”Stabat Mater” by Peter Martins、“The Decalogue” by Justin Peck.
『キアロスクーロ(明暗)/光と影の遊び』 リン・テイラー・コルベット:振付、『シャープにスライス』 ヨルマ・エロ:振付、『スターバト・マーテル』 ピーター・マーティンス:振付、『モーゼの十戒』 ジャスティン・ペック:振付

ニューヨーク・シティ・バレエの春の公演から、「Here/Nowフェスティバル」を見た。このタイトルは、現在シティ・バレエに存在する振付家たちによる作品集と言える。
オープニングを飾ったのは、リン・テイラー・コルベット(Lynne Taylor-Corbett)の『キアロスクーロ(明暗)/光と影の遊び』であった。6人のダンサーによって踊られ、その中にはこの日のプログラムに振付家として含まれ、現在注目されているジャスティン・ペック(Justin Peck)も含まれていた。彼は今もNYCBのソリストとして踊っている。
3人二組に分かれ、デュエットとトリオ、そして全員で踊るが、大きなリフトの多い作品だ。リフトされた女性が空中で作る美しいラインが印象に残る。また、モダンダンスのような振りがあちらこちらに織り込まれている。床にダンサーたちが横になって転がって、その上に横になった女性ダンサーの身体が転がされて移動するなど、ユーモラスなアイデアも含まれている。フランチェスコ・ジェミニアニ(Francesco Geminiani)の『コンチェルト・グロッソ、ラ・フォリア』の曲に忠実に振付けられた作品で、見ていて違和感はないものの、特に作品のタイトルを思い当たらせる印象は残らない作品であった。

ny1706d_03.jpg Giovanni Villalobos and Andrew Veyette in Lynne Taylor-Corbett's Chiaroscuro. Photo (C) Paul Kolnik

フィンランド人振付家、ヨルマ・エロ(Jorma Elo)の作品、『シャープにスライス(Slice to Sharp)』は、私には予期せぬプレゼントだった。出演したダンサーたちの半分が、私の好きなダンサーだったからだ。幕が開くと出演者の4組の男女全員がステージの上で踊っている。ダンスのタイトル通り、シャープな直線の多い振りだ。
まず驚いたのは、最古参のホアキン・デ・ルズ(Joaquin De Luz)とマリア・コウロスキー(Maria Kowroski)が混じっていること。デ・ルズはかつてアメリカン・バレエ・シアターで強い回転を売り物にデビューしたが、その後シティ・バレエに転向して話題を呼んだ。相手役のアシュリー・ボーダー(Ashley Bouder)とのデュエットで、シャープな動きと、10年以上前から全く衰えていない強いターンを見せた。難しいバイオリン曲をきちんと解釈して、まるで疾風の様な踊りだ。その後続いたのがレベッカ・クローン(Rebecca Krohn)のカップル。非常に丁寧に踊るクローンは美しいラインを作り出した。それにテレサ・ライクレン(Teresa Reichlen)のカップルが加わる。クローンの長いアティチュード・ターン、そしてライクレンの早い、ポアントでステージを滑るような動きが印象的だった。振付にはコンテンポラリーな要素が多く組み込まれ、腕をひねったり、くねらせたり、顔を叩く様な動きが入っているが、ダンサーたちは違和感なく、美しく踊りこなしている。コウロスキーも全く変わっておらず、美しい容姿とラインで、この進化した振りを柔軟に踊りこなした。どのダンサーの踊りも非常に優れていたが、特にデ・ルズの卓越した回転がこの作品の意味合いを印象付けたと言える。

ny1706d_04.jpg Taylor Stanley in Jorma Elo's Slice to Sharp. Photo (C) Paul Kolnik

この日、最も優しく、バレエを見たという印象が残ったのが、芸術監督ピーター・マーティンス(Peter Martins)の作品、『スターバト・マーテル(Stabat Mater)』だった。使われた曲はジョバンニ・バティスタ・ペルゴレージ(Giovannni Battista Pergolesi)のヴァージョン。本来は聖母マリアのキリストが処刑された時の悲しみを歌う曲だが、マーティンスは全く新しい解釈で音楽の視覚化を試みたと思われる。作品はギリシャ神殿を連想させるセットに寄りかかって佇む3組の男女ダンサーたちの姿で始まる。まずは全員で踊り、薄いシースルードレスの女性たちがふわり、ふわりとリフトされて、美しく舞って始まった。歌曲の一つ一つに振付けられていて、主にそれぞれのカップルのデュエットで構成された。若い男女の人間関係を描く様な内容で、端正なクラシック・スタイルで振付けられている。
あるカップルは、苦悩する男性を女性が力づけるようなイメージ、あるカップルはロマンチックな甘いダンス、あるいは若々しい爽やかな人間模様など、見ていて様々なイメージが伝わってくる。特に印象に残ったのが、ローレン・ラヴェット(Lauren Lovette)のたおやかな踊りで、ジャレッド・アングル(Jared Angle)とのデュエットはとても美しかった。また、ジョセフ・ゴードン(Joseph Gordon)とチェイス・フィンレイ(Chase Finlay)は、本当にクラシック・ダンサーらしい男性ダンサーで、古典作品で彼らを見て見たいとすら思えた。
この作品ではいつものシティ・バレエ作品で使われるような衣裳ではなく、男性は質素な村人の様な衣裳、女性は薄いシースルーのドレスが使われたが、衣裳が違うだけでこれほどにもダンサーのイメージが変わるのかと思うほど、それぞれの個性が良く出ていた。しかし、それはダンサーたちの作品の消化が深いということかもしれない。形としてもクラシック・ラインを多く取り入れた美しい絵が多い。この作品が発表された頃はモダンと見なされたものだが、今はクラシック作品に見え、時の流れを感じずにはいられなかった。

ny1706d_05.jpg NYCB in Peter Martins' Stabat Mater. Photo (C) Paul Kolnik

最後は現在最も注目されている若手振付家、ジャスティン・ペック(Justin Peck)の作品、『モーゼの十戒(The Decalogue)』であった。この作品のために特に作曲された、スファン・スティーブンス(Sufjan Stevens)作曲のオリジナル曲がライブピアノで演奏された。幕が開くと、大勢のダンサーが板付きになっている。サラ・ミアムズ(Sara Mearns)のソロで始まった。まるで万華鏡かモザイクの絵を見るようなダンスで、早くてせわしない。細かい振りが速いペースで連続するのだが、見ていながら、ダンサーたちが自分の振りのテクニックを確認できているのか疑問に思われた。流れるように動くが難しい振りだ。ダンサーたちが両側に別れて倒れ込んで終わるのは、モーゼが海を別ける様を表現したと思われるが、見ていてそうした具体的なイメージを得るのは困難だった。
その後、レベッカ・ックローン(Rebecca Krohn)のリードで女性の踊りとなるが、女性たちはポアントで踊っているのでテクニックは確認していると理解できるが、これもせわしなく難しい。音楽も同様で、早く困難なものだ。全体に、テーマの表現というよりはテクニックで固めて作った作品で、ダンサー同士の会話が無い、テクニックと形があるだけの作品だ。困難な振りのせいか、しりもちをつくなどの大きな失敗も見られた。フォーメーションの取り方と流れはうまいと思われたが、作品としてはむしろ乱暴でガチャガチャして見えた。
このようなテーマは宗教的な内容を含むこともあり、非常に文化的に偏るので、観客が知っていることを前提にして作ると、全く意味をなさない結果にもなる。真に自分の意図を伝えたいのであれば、全く異文化の観客の立場に身を置いて創作する慎重さと丁寧さ、優しさが作家には求められるのではないだろうか。他にもこの作家の作品を見たが、世間で言われるほどの評価には値しない、というのが私の正直な意見である。
(2017年5月12日夜 David H. Koch Theater)

ny1706d_01.jpg Gonzalo Garcia and Company in Justin Peck's The Decalogue. Photo (C) Paul Kolnik
ny1706d_02.jpg NYCB in Justin Peck's The Decalogue Photo (C) Paul Kolnik