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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2017.06.12]

スターンズがセオを頭上高くリフトすると、ジゼルの霊が空中を飛んでいるかのように見えた!

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター
“Giselle” by Jean Coralli, Jules Perrot and Marius Petipa
『ジゼル』 ジャン・コラーリ、ジュールス・ペロー、マリウス・プティパ;振付

ABTの公演から古典中の古典、『ジゼル(Giselle)』を見た。この作品の様に非常によく知られているレパートリーの見どころは、踊るダンサーの解釈とテクニックが焦点となる。今回はABT唯一の東洋人プリンシパル、ヒー・セオ(Hee Seo)とコーリー・スターンズ(Cory Sterns)の舞台を見た。

ny1706c_01.jpg Hee Seo and Cory Stearns in Giselle. Photo: Gene Schiavone.

第一幕では、ジゼルとアルブレヒトのロマンチックな盛り上げと、アルブレヒトに裏切られたジゼルの狂乱が見どころだ。最初に現れる重要な役のヒラリオン(パトリック・オーグル/Patrick Ogle)の演技が非常に良く、ジゼルへのせつない思慕や強引に彼女を求める様子を活き活きと表現した。
セオのジゼルは清楚なイメージで、可愛らしさが強調されている。アルブレヒトへの思慕や恥じらいの表現は非常に東洋的で、内にこもった感だ。スターンズのアルブレヒトも、どちらかというと内にこもった表現で、マイムがもう一つ曖昧に見え、最初の二人の芝居とデュエットは比較的おとなしいものとなった。しかし、だんだんとロマンチックなムードを高め、体調を崩したジゼルを庇うアルブレヒトの様子に心がこもっていて、演技というよりはスターンズの人柄が現れた感じだ。

貴族の休息の場面では、皇太子の娘でアルブレヒトの婚約者バチルダ(Alexandra Basmagy)との会話が明確に伝わった。ペザントのパ・ド・ドゥ(Lucinana Paris, Joseph Gorak)では、特に男性のジョセフ・ゴラックの端正なテクニックが目を引いた。身体も動きもラインがすっきりとして美しく、きちんとテクニックを決める。音楽的な情緒を持ったダンサーで、華もある。その後に来るヒラリオンがアルブレヒトの正体を暴き、ジゼルが狂乱する場面では、スターンズのアルブレヒトは困惑するものの、男のずるさはあまり感じなかった。セオは一気に幽霊のようになり、白く華奢な身体が痛々しい。狂気の滲む演技をするセオをスターンズのアルブレヒトは愛おしくも苦し気に思いやるが、村人たちに背を向けられ呆然とする。

ny1706c_02.jpg Luciana Paris in Giselle. Photo: Gene Schiavone.

第二幕は墓にする十字架を結わえているヒラリオンの姿で始まる。(ABTのヴァージョンでも昔は墓があったのだが、批評家からロシア風だと批判されたことがあった。)この場面をまずきりりと絞めるのがウィリーの女王、ミルタだ。滑るようなブレーで舞台を横切るミルタを演じたヴェロニカ・パート(Veronika Part)はベテランの貫禄と威厳がある。白い靄のようなコール・ド・バレエは、これまでになく良く揃っていて美しかった。アメリカのバレエの泣き所は群舞が揃わないことで、自由な国の国民性と諦める部分があったが、非常に改善されている。最も、ダンサーはアメリカ人だけで構成されている訳ではないので、これは演出の方針が変わったと言えるだろう。

ny1706c_03.jpg Veronika Part in Giselle. Photo: Gene Schiavone.

第二幕では、亡霊を演じるジゼルのテクニックが焦点となる。白い衣裳に身を包んだセオは他のウィリーたちに比べ、さらに白く華奢に見えた。しかし、一番最初の早い逆アティチュード・ターンを力強く、見事に決めた後は、ふわりと軽くジャンプしたと思うと、超高速シェネターンで風のように消えた。アルブレヒトとのデュエットでは、セオは非常に柔らかく軽く、白く光る線の様で、はかなさがあった。スターンズがセオを頭上高く、軽々とリフトすると、ジゼルの霊が空中を飛んでいるかのように見え、印象的な絵となった。
ウィリーからアルブレヒトを庇うジゼルのソロでは、セオは柔らかく繊細で、スターンズと良く息の合った美しい絵を創った。スターンズも非常に繊細でクリーンな踊りを見せた。セオの後ろ向きに跳ぶ有名なジゼルのジャンプ・コンビネーションでは、非常に軽く美しく、ジャンプの連続で心臓破りの振付であるにもかかわらず、ポアントの音も聞こえず、まさに綿毛が飛び去った感じだ。ミルタやウィリーたちに許しを請いながら踊るスターンズがセオを低くリフトして移動すると、白いもやが床の上をふわふわと跳ぶようであった。最後は、ぎりぎりのところで命拾いをしたアルブレヒトにジゼルは花一輪を落として消え、アルブレヒトが呆然と歩く姿で幕が降りた。

主役のいずれも正確で強いテクニックが光り、第二幕は非常に端正に踊られて圧巻であった。第一幕では演技の部分でもう一つと思われ、このカップルの場合は演技というよりは本人たちの人柄がより前面に出た感が強かった。しかし、わざとらしさが無いのは好感され、これも観客の受け止め方次第と言えるだろう。
(2017年5月25日夜 メトロポリタン・オペラハウス)

ny1706c_04.jpg Scene from Giselle. Photo: Gene Schiavone.