坂東玉三郎の演出による鼓童の『打男/DADAN 2017』がニューヨーク公演で喝采を浴びた

鼓童

『打男/DADAN 2017』 坂東玉三郎:演出

3月1日から4日まで、ブルックリンのBAMで、鼓童の『打男』の公演が行われました。3月11日から25日までのアメリカ公演ツアー(ニューメキシコ州サンタフェ公演は完売)に先駆けての、ニューヨーク公演でした。私が観劇したのは3月2日。休憩を1度はさんで2時間の作品でした。
人間国宝であり、世界的な歌舞伎役者(立女形)としてだけではなく、舞踊家としての活動にも力を入れてきた坂東玉三郎が、演出を手掛けた公演ということで、「ニューヨークの観客の反応も知りたい」と思い観に行きました。
坂東玉三郎は6歳から舞踊を学び始め、10代後半からはクラシック・バレエの鍛錬も積まれてきたのでダンサーとしての評価も高く、実力派の舞踊家です。バレエに造詣が深く、振付家の故モーリス・ベジャールとは30年以上の親交があり、バレエ作品で共演なさったことも興味深いです。歌舞伎の出演と平行して、現代劇や舞台の演出家としても評価が高いです。
公演後、私の席の近くに座っていた方が真っ暗な中、すぐ早めに立ち上がりさっと移動されて客席から去っていかれた姿にオーラを感じてましたが、なんと坂東玉三郎ご本人でした。

鼓童は創立30年以上の太鼓芸能集団で、1981年にベルリン芸術祭でデビュー、49の国と地域で5,800回を越える公演を行なってきました。日本の古典的芸能である和太鼓演奏を芸術にまで高めて、長く世界的に活躍しています。2006年、結成25周年を記念し歌舞伎俳優・坂東玉三郎との共演による舞台『アマテラス』を開催。2012年より2016年まで坂東玉三郎を鼓童の芸術監督に招聘しました。2011年11月1日より公益財団法人として始動。

Photo:Rebecca Smeyne

Photo:Rebecca Smeyne

『打男』" Dadan 2017 " は、選りすぐられた男性太鼓奏者だけが出演していました。鼓童には女性メンバーもいますが、この作品は男性のみです。この作品の初演は2009年、ヨーロッパツアー、ブラジル公演、そして2017年はアメリカツアーです。
観劇するにあたって、坂東玉三郎ならではの演出の違い、舞台構成、舞台上でのメンバーの配置や移動など、太鼓演奏以外にも、ダンスと太鼓演奏との関連性に注目していきました。
ダンサーを目で追うような視点で鼓童の演奏、舞台全体を注意して観てみると、舞台作品として美しく完成されていることが分かり、新鮮でした。今回は、男性だけが出てきて和太鼓の演奏のみを続けて、叩き続け、エネルギーを爆発させてパワフルな舞台です。でも強い男性的な太鼓演奏というだけではなく、舞台隅々まで気を配られて完成度を高めていることを感じました。
例えば、舞台の配置転換は、舞台上でシーンや演奏者、楽器が変わるごとに次々に、その場で行われていきましたが、そのやり方がとても工夫されていました。メンバーが数名で太鼓を動かしているところ、その最中に別のメンバーが小さな打楽器を持って演奏しながら通り過ぎたり、別のところでも太鼓を鳴らしていたり、配置転換中にも観客が何か芸術的な鑑賞ができるように気遣いが感じられました。流れるように配置転換もスムースに行われていて、大きな太鼓も数名で絵になるように支えて動かしたり、鍛え上げられた肉体の男性奏者達が美しく舞台シーンの一部として映えていました。

Photo:Rebecca Smeyne

Photo:Rebecca Smeyne

演奏中の舞台構成も見事で、ソロ、2〜3名の演奏も時々間にはさみながら盛り上げ、大勢が舞台に一度に出てきて美しく配置され、分厚い音を全員でかもし出して迫力のある演奏を行っていました。そのメンバーの舞台上での配置も、絵になっていて美しかったです。舞台中央を中心にして大きく置き、縦横に広がり、斜めの対角線上にも奏者と太鼓が並べられたり、左右対称になっているところが多く、舞台両端にいくにつれて小さくまばらに配置されているようでした。その配置された大き目の太鼓の間をぬうようにして、手に小さめの楽器を持ったメンバーが演奏しながら通り過ぎたりしていました。
和太鼓の演奏を舞台芸術として高めてきた印象がありました。
演奏はすごい迫力、大きな力強い音で、圧巻でした。和太鼓だけではなく、小さな木琴のような楽器や、ティンバルなど西洋の打楽器も使っていました。
太鼓を演奏中のメンバーたちの姿は皆さん、身体の軸が安定していて動かず、背筋がビシッと伸びていて重心が取れているので、一挙手一挙動がちゃんと舞のように美しく保たれながら叩いていました。その姿を見ていると、バレエの基本である2番ポジションのグランプリエに近い体勢だなと発見して、もしかして和太鼓演奏の基本もバレエや格闘技と似ているのかもしれないなと思いました。少し揃っている振付もありました。太鼓の演奏も、良い音を出すためには、身体の重心をしっかり取って安定させること、体軸を動かさないように固定しておくものなのかなと感じたので、その点も含めて、メンバーにインタビューを取らせていただきました。
(2017年3月2日夜 BAM, Howard Gilman Opera House)

Photo:Courtesy of Kodo

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住吉佑太(鼓童 サウンドメーカー)=インタビュー

Q ニューヨークの観客の反応は?

A ちゃんと「聴いてくれている」という緊張感を保ちながら、なおかつ、しっかり反応してくれる、そんな素敵なお客様でした。

Q 歌舞伎の坂東玉三郎が演出をされていますが、どういう点で、演出の仕方に特色がありますか。
Q 歌舞伎役者ならではの目線や感覚、舞や振付があるのでしょうか。
Q どんなところが勉強になりましたか?

A 本当にたくさんのことを学ばせていただいております。お話しきれないほどです。
まず大きなところとして、とにかく「固定概念」を打破するところからいつも始まります。歌舞伎のように、やはり何百年も続いている伝統を守るというのは「維持する」ことではなく、常に前進、固定概念を打ち破り続けることが大事だと常々おっしゃっています。そうすることによって、新しい世界も見えるし、これまで何となくやっていたことも再認識できます。

住吉佑太

住吉佑太

鼓童にとっては、まず見た目から大きな変化がありました。これまでずっと衣装として着ていた鼓童の半纏、ハチマキ、ふんどしを全部取っ払って、全く新しい衣装を着ました。それはある意味「鼓童の半纏を着ていなくても、鼓童だと言えるか、証明できるかどうか」ということを試されているような感覚もありました。鼓童である、ということが衣装に頼っていないか。それぞれ1人1人の演奏や表現で、自分たちの魂やスピリットをこれまでと同じように発揮できるか。どんな衣装を着ても、その人自身の核となる魂のようなものが衣装に隠されない、そういう意味で「どんな衣装も着こなせる」舞台人であること。私たちにとって、衣装が変わるというだけでも、たくさんの学びがありました。
その最たることでは、太鼓すら取り上げられることもあります。太鼓ではなく、ティンパニや西洋のドラムスを叩く演出です。
もちろん西洋のパーカッションを通して、技術的な学びも多々あります。しかし一番大切なことは、先ほどと同じく、自分の魂を表現するのに太鼓に頼ってないかどうか。太鼓でなくても、舞台人としてそこに立っていられるか。そんな挑戦でもありました。
歌舞伎で使われる舞や振付という、具体的なディティールを演出に反映させるということよりも、玉三郎さんはもっと大きなところから、いわゆる「かぶく」視点を常々お持ちでいらっしゃるなと感じています。

Q 坂東玉三郎は、佐渡(新潟県)へ、演出をしにいらっしゃったのでしょうか?

A 玉三郎さんが初めて佐渡に来られたのは14年ほど前で、そこから演出家として作品を作っていただくたびに、佐渡にお越しいただいております。玉三郎さん自身も、佐渡という場所や環境がお好きでして「東京に疲れたら、ここに来てリフレッシュする」といつもおっしゃっています。もちろん、クリエーションも相当たいへんかと思いますが・・・・。

Q 日本のダンスファンの方々へ、鼓童のどんな公演がおすすめか。読者の方々へメッセージがあれば、お願いします。

坂東玉三郎の演出による鼓童の『打男/DADAN 2017』がニューヨーク公演で喝采を浴びた

A 「たたく」という行為と「踊る」という行為は、とても人間の根源的なところで強く結びついているように感じます。太鼓の音を聴けば、きっと踊り出したくなる感覚になると思います! それはどんな作品の公演でも。ただ、実際に踊り出すことができる環境というのは、普通の劇場公演ではなかなかありません。
そこで私がお薦めしたいのは、毎年夏に佐渡で行われる「Earth Celebration 地球祝祭」というフェスティバル・イベントです。鼓童が世界中で出会った、様々なアーティストを佐渡に呼んで、セッションライブやコンサートを行ったり、その他、佐渡を満喫できるイベントがたくさんあります。お客様も一緒になって踊る、歌う、たたく! 感じる! そういう参加型フェスティバルです。夏の佐渡島で 青空の海辺で 真夏の祭典を一緒に楽しみましょう。

Q 稽古は、毎日のように積んでいらっしゃるのですか。

A 佐渡にいるときは基本的に、時間にすると1日に6〜8時間ほど稽古します。日曜日はお休みです。しかしツアーとなると、公演のための準備やリハーサルの合間を縫っての稽古となります。移動日やオフには太鼓は叩けませんが、太鼓を叩くことだけが稽古ではないので。
メトロノームを聴いて練習したり、体を動かしたり、曲を書いたり、そういう意味では常に稽古です。常に太鼓のことを考えているかもしれません。でも、結局自分の好きなことを仕事にするっていうのはそういう厳しさもあるなと思っています。かと言って、それが嫌で仕方ないというわけではありません。みんな楽しみながら、時には苦しみながら、日々研鑽を積んでいます。

Q メンバーの方々は、太鼓を演奏中には、クラシック・バレエの2番ポジションのグランプリエに近い体勢で、ずっとその姿勢を保っていらっしゃいますよね。皆さん、背筋がビシっと姿勢が正しかったですが、太鼓をたたくうえでも姿勢が正しいことが重要なのでしょうか。 足を外側に開いてヒザを深く曲げるほうが、重心が安定するとか、大きな良い音が出るとか、太鼓をたたきやすい姿勢なのでしょうか。そうだとすると、太鼓を演奏するための基本も、舞やバレエ、格闘技と同じだと思いました。その基本は、姿勢が正しいこと、体の軸を安定させることです。

A とてもマニアックな質問ですね。基本的に私たちの構えや姿勢、太鼓の打ち方というのは、外見的な視点から見た目を揃えたり、こうでなくてはいけない、というものはありません。常にそこには必然があって、型が先行することはありません。
最も大きな要素としては「重力」を使って打つ、ということかと思います。自分の「筋力」だけでは、いずれ限界がきますし、表現としても少しエゴイスティックな雰囲気になってしまいがちです。

Photo:Courtesy of Kodo

Photo:Courtesy of Kodo

例えば、「打つ」という行為ひとつにしても、バチにかかる位置エネルギー、もっと言えば自分の腕や体にかかる位置エネルギーを感じながら打つ瞬間に力を「入れる」のではなく「抜く」感覚。そうすることによって、さらにバチの先に遠心力をかけて加速させる。いろいろな要素があって、初めてあの鼓童の大きくて芯のある音に繋がります。
そのためにもしっかり「立つ」必要があります。でも、私たちの「しっかり」というのは、力を入れて踏ん張ることではなく、なるだけ重力に逆らわないように、骨格のバランス感で立つこと。肩が上がってないか、膝に力が入りすぎてないか、後ろ重心になってないか、骨盤の角度はどうなっているかなど、探求していくことで体軸も自然と整い、「重心」も安定してきます。
「重力」と「垂直抗力」、この2つの力の流れを素直に体で感じること、そしてそれを無理なくバチ、末端に伝えることで、自分の筋力だけでは発揮できない力を発揮する。そういう必然があっての構え、姿勢、バチの軌道です。合気道や太極拳的な要素も、多く含まれているかもしれませんね。

Q 鼓童は、ただ太鼓をたたいているだけではなくて、舞の要素も加えて、美しい立ち居振る舞いをしていて、舞台全体として視覚でも楽しめるように作品を作っているように感じましたが、いかがでしょうか?

A 先ほど言いました通り、立ち方、歩き方、座り方、その基本理念には常に必然性があります。その上で玉三郎さんの舞台は、視覚的なものも大切にしていらっしゃいます。動きや舞台転換を観ていても楽しい舞台。ただの音楽のコンサートとしてだけではなく、パフォーミングアーツとして、観て聴いて感じて、すべての要素が詰まっている舞台作りを目指しています。
(インタビューはNY公演終了後、メールで行いました。)

Photo:Courtesy of Kodo

Photo:Courtesy of Kodo

坂東玉三郎(5代目)

1950年生まれ。歌舞伎役者、日本の俳優、映画監督、演出家。屋号は大和屋。定紋は花勝見(はなかつみ)、替紋は熨斗菱(のしびし)。歌舞伎名跡「坂東玉三郎」の当代。
1988年、ヨーヨー・マらの演奏によるラヴェル『ピアノ三重奏曲』で創作舞踊を上演。1988年、モーリス・ベジャールの振付により、パトリック・デュポン、ジョルジュ・ドンらと共演。1991年、フランス芸術文化勲章シュバリエ章。1994年、ベジャールとの共演で『リヤ王〜コーデリヤの死』を初演。1996年、ヨーヨー・マの演奏によるバッハ『無伴奏チェロ組曲』を映像収録した『希望への苦闘』がダンススクリーン96(リヨン)でグランプリを受賞。
2012年、和太鼓集団鼓童芸術監督就任。重要無形文化財保持者に各個認定(人間国宝)フランス芸術文化勲章コマンドゥール章。紫綬褒章

サウンドメーカー、住吉佑太(すみよし・ゆうた)

1991年生まれ、香川県三豊市出身。小学校2年生より和太鼓を始める。2010年研修所入所、2013年よりメンバー。「大太鼓」やソリストに抜擢される。「混沌」公演ではドラムを担当。客観的な視点を持ち、作品作りにあたって自由な発想で、新しい表現を提案、演奏内容を音楽的にも充実させた。舞台では主に、太鼓、笛を担当。軽やかなバチ捌きを得意とし、また「結」「炯炯」など舞台の要となる数々の楽曲を生み出す、鼓童のサウンドメーカー。

鼓童 ウェブサイト http://www.kodo.or.jp/

アース・セレブレーション 2017
開催日:2017 年 8 月 18 日(金)〜20 日(日)
開催場所:小木地区および佐渡各地
主なイベント、EC ハーバーライブ(鼓童、他)【小木みなと公園】、  EC シアター(鼓童)【宿根木公会堂】、ハーバーマーケット、フリンジ【小木みなと公園】、ワークショップ【小木】、佐渡体験プログラム【佐渡各地】、EC プレイベント「佐渡薪能公演」(8/17(木))【相川春日神社能舞台】など
■主催:佐渡市、(公財)鼓童文化財団
※最新情報は以下EC公式サイトで随時お知らせします。
http://www.kodo.or.jp/ec/

ワールドレポート/ニューヨーク

[ライター]
ブルーシャ西村

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