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ブルーシャ西村 text by BRUIXA NISHIMURA 
[2017.04.10]

へスース・カルモナの圧巻のサパティアード、フラメンコフェスティバル2017

“ GALA FLAMENCA ” Flamenco Festival 2017
「ガラ・フラメンカ」フラメンコ・フェスティバル2017

「フラメンコ・フェスティバル2017」のメインイベントのフラメンコ公演が、3月9日から12日まで、ニューヨーク・シティ・センターにて行われました。ニューヨークでは重要なフェスティバルの一つとされていて満員御礼です。本場スペインからやってくるフラメンコ公演をニューヨークで観ることができる貴重な機会です。
フラメンコ公演は、演目が2つありました。複数のアーティストたちが出演する「ガラ・フラメンカ」と、コンパニーア・オルガ・ペリセットの「ピサーダス」です。私は両方とも観劇しました。今月は、「ガラ・フラメンカ」のレポートをお送りします。

ny1704e_3476.jpg Photo:Stephanie Berger

「ガラ・フラメンカ」は3月9日から11日まで3日間ありました。小品集です。選りすぐりの出演ダンサー(バイラオール、バイラオーラ)は女性3名、男性はカルモナ1人でした。メインのカンタオーラはロシーオ・マルケスです。ギタリストは2名、パーカッションは1名、歌手(カンタオール、カンタオーラ)は3名です。
プログラムは、休憩なしで、4名全員、各自のソロ、2名、3名で踊る小作品が、順番に続いていきました。短い作品が次々に上演されるショーケースの構成でした。休憩なしでしたが、一気に盛り上がって熱く激しいフラメンコが続き、エネルギーが爆発して圧倒されて、あっという間に終わってしまったという感じでした。文末で主な出演者たちの簡単なプロフィールを紹介します。

ゲストアーティストのカンタオーラとして出演していたエルミニア・ボルハは年配の女性ですが、ずば抜けて歌が上手くて、フラメンコらしい力強い迫力のある深い歌声でしたので、印象に残りました。セビージャ生まれです。彼女が歌いだすと客席はピンとはりつめて、魅了されていました。
ダンサーたちは、どの方も素晴らしい踊りを見せてくれて、さすがにレベルは全体に高かったです。
全員、順番に、ソロ作品で長く踊り、一人一人の踊りをじっくり観ることができました。そのように順番に1人ずつ出てくると、その中で特に印象に残った踊り手のことが浮かんできます。
今回、断然踊りが上手く、圧倒されたのは、男性のへスース・カルモナでした。出演した男性が1人で、他は女性3人ということもあったかもしれませんが、フラメンコのように歴史が長くて肉体の鍛錬を必要とする踊りにとっては、最終的に身体能力の差も踊りに表れるのかなと感じました。スペインの本場のフラメンコは、世界最高峰レベルになると、ダンスというよりも格闘技かアスリートのような肉体の使い方だと思います。その鍛錬はとても厳しい世界だろうと思います。
サパテアードの爆速スピード、その強烈に大きな音、動きのキレ、身体能力の高さなど総合で含めて、圧倒的な迫力とテクニックでした。カルモナは現在、世界一の実力と言っても過言ではない高度なテクニックを持ち、年齢的にも肉体的にもバイラオールとして全盛期に差し掛かっていて、これからもまだ伸びていける方です。今後、ますます世界的に活躍するであろう、まだ余裕のある伸びしろが感じられるので、期待して注目しています。
カルモナは、バレエや他の舞踊も含めて大学で学び、スペイン舞踊とフラメンコ舞踊の両方の学位を取得した裏打ちがある実力があり、正統派のフラメンコの踊りをします。土着的なフラメンコだけを修行したバイラオールとは一線を画していて、カルモナの踊りはもっと科学的に人体を理解して使って踊っているような印象を受けました。本能的肉感的踊りとは正反対で、知性が高いイメージの踊り方です。バレエにも共通する踊りの基礎が、徹底的に積み上げられて完成したダンサーの踊り方なのです。
重心がビシッと取れていて、びくともしないため、クラシックのバレエダンサーが踊るように回転が余裕で出来るので、振付に回転をよく取り入れているフラメンコでは珍しいバイラオールです。回転があまり得意とは言えないバイラオールのほうが多いので、回転が得意というのはカルモナの個性となっています。もともとは、フラメンコの歴史の始まりの昔は、足で床を踏み鳴らしてリズムを刻むバトルが中心だったと想像するので、基本はサパテアードだと思われます。フラメンコ界に、正統派ながらも新しい風を送っていると思いました。

ny1704e_3980.jpg Photo:Stephanie Berger

カルモナは重心がびくともせずに取れているので、その肉体のお陰もあるのでしょう、フラメンコ独特の速打ちが、「人間がこんなに速いスピードで大きな音で足を打ち続けることができるなんて信じられない!」と見ているほうが息を止めてしまうほど。おそらく私が観たフラメンコの中では一番スピードが速く音も大きく、迫力があって正確なリズムです。これは体幹を頑強に鍛え上げていなければ、出来ないです。そして力を抜くところでは抜いて、工夫して鍛錬を積まなければならないと思いますし、もともとカルモナが持っている身体能力の圧倒的な高さにも恵まれているからこそ、習得できたのでしょう。
しかも、カルモナは、ぜんぜん息を切らせることなく、余裕で簡単そうにそれだけのことをやってのけるので、あまりにも余裕が感じられて安定している踊りなのです。どんな鍛錬を積んでいるのか興味津々でした。
へスース・カルモナ自身のカンパニーの公演が、ニューヨークにも招聘されて上演される日は近いのではないかと思いました。すでにマイアミなどでは先駆けてカルモナのカンパニーの公演が実現しているので、早くニューヨークにも来てもらいたいと熱望しています。

ny1704e_4534.jpg Photo:Stephanie Berger

もう一人、印象に残ったバイラオールがいます。オルガ・ペリセットです。ペリセットはとても小柄なダンサーなので、体格的筋力的に、順番に1人ずつダンサーが出てきて踊りを披露すると、どうしてもサパテアード音量と迫力が小さく聞こえてきていましたが、それは体格の差だろうなと思い、気になりませんでした。でもペリセットの賢いところは、その本人の持ち味、自分の得意なことを伸ばしていて、得意不得意と肉体的条件を分かっていて、生かして勝負しているという印象を持ちました。同じ土俵で同じことで勝負しないで、自分らしさ、自分にしかできない自分の中から湧き出てきた表現をしていらっしゃることが分かったので、さすが、人真似をしない誇り高いスペイン人らしいなと感心しました。
ペリセットは、ソロの時には、両手にカスタネットを持って、長い間、それでリズムを刻み続けていたのです。私は、バイラオーラによるこんなに長い間カスタネットの演奏と踊りが続くのを見たことがなかったので、これは彼女独特の個性だと思います。そのカスタネットの演奏が見事で、今まで見た中で、一番上手でしたから、驚きました。リズムは完璧、合いの手みたいにカスタネットを鳴らすタイミング、間合いは完璧、強弱、かゆいところに手が届くような音の入れ方は全て完璧だったので、感心しました。カスタネットが大得意なバイラオーラなのですね。
この姿を見ていて、フラメンコは、それぞれの個性を大事にしていて、フラメンコの枠の中で自分にしか出来ない表現を追及していく文化なのだなと理解しました。
全員が登場して、もちろん土着的な昔ながらのフラメンコのシーン、歌手とギタリストたちに囲まれてあおられて盛り上がり、皆のエネルギーを全身で受けて熱く踊りまくるバトルもありました。これですごく盛り上がって、幕が閉じました。
(2017年3月9日夜 ニューヨーク・シティ・センター)

ny1704e_4167.jpg Photo:Stephanie Berger

主な出演者
◯フアナ・アマヤ(本名フアナ・ガルシア・ゴメス)は1968年セビージャのモロン生まれのヒターナ。フランシスカ・アマヤ・アマヤの孫で、パコ・デル・ガストール(ギタリスト)の母親の姪で、フラメンコ・ファミリーに生まれました。1983年にマリオ・マヤ舞踊団に第一舞踊手として入団。1984年から94年まで「クンブレ・フラメンカ」に出演。ホアキン・コルテス、アントニオ・カナーレスとも共演。1999年に、プラシド・ドミンゴのオペラ作品『エル・シド』に出演。

◯オルガ・ペリセットは1975年コルドバ生まれ。多数の舞踊団公演にゲストダンサーとして参加。2004年、ボレロ・ダンス『カルタ・デ・アモール・イ・デスアモール』で初の振付を手掛けた。2007年、コルドバ全国フラメンコ・コンク-ル“ピラール・ロペス”受賞、2016年スペシャルACEアワード受賞など、受賞歴多数。

◯へスース・カルモナは1985年バルセロナ生まれ。2004年、コンダル都市芸術大学(バルセロナ)にてスペイン舞踊、フラメンコ舞踊の学位を取得。16歳でグラン・テアトロ・デル・リセウにて、プロ・デビュー。その後、アントニオ・カナーレス舞踊団に参加。2006〜09年にスペイン国立バレエ団に在籍し、第一舞踊手として活躍。2011年、第20回 スペイン舞踊・フラメンコ振付コンクールで最優秀舞踊家賞受賞。2012年にフラメンコ界で権威のあるコンクール、ウニオン国際カンテ・フェスティバル、舞踊部門で優勝。現在、自身のカンパニーを持ち、世界各地で活躍中。

◯パトリシア・ゲレーロは1990年グラナダ生まれ。2歳から舞踊家である母親のアカデミーでフラメンコ舞踊を学び始めました。15歳でマリオ・マヤと共にショー“ディアロゴ・デル・アマルゴ”のツアーに出演。カルロス・サウラ映画監督の『フラメンコ、フラメンコ』とショー『フラメンコ・トゥデー』に出演。2011年にアンダルシア舞踊団にプリマとして参加。セビリアの「ビエナル・デ・フラメンコ」2012年でヒラルディージョ新人賞受賞、2016年でヒラルディージョ・ベストショー賞受賞。

◯ロシーオ・マルケスは1985年ウエルバ生まれ。幼少時からファンダンゴを歌って育ち、9歳ですでにコンクールで最初の受賞。3枚のアルバムを録音し、現在、4枚目のアルバムを制作中。