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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2017.04.10]

ハンブルク・バレエ団の初めてのニューヨーク公演は美しく整えられたステージだった

Hamburg Ballet “Old Friends” ハンブルグ・バレエ団「古い友」
“Overture” “Old Friend 1- Chopin Dialogues” “Dangling Conversation” “Old Friends II – Opus 100 – for Mauris” by John Neumeier
『序曲』『古い友1』『とりとめのない会話』『古い友2』 ジョン・ノイマイヤー:振付

アメリカ出身のジョン・ノイマイヤー(John Neumeier)率いるハンブルグ・バレエはヨーロッパでは大きなバレエ団だが、ニューヨーク公演は意外にも今回が初めてだという。そのせいか、今回の「古い友(Old Friends)」公演は比較的小規模で、ニューヨークの舞台の登竜門とも言われるジョイス・シアターでの公演となった。振付はすべてノイマイヤーによるものである。

ny1704b_01.jpg OLD FRIENDS Photo by Holger Badekow

まずはバッハのオーケストラ組曲第3番に振付けられた、『序曲(Overture)』が踊られた。女性はポアントを履き、ミニドレスの衣裳、男性はユニタードで、古典スタイルの美しい振付が展開した。日本人の菅井円加(Madoka Sugai)も混じっている。リードのシュエ・リン(Xue Lin)とアレクサンドル・トゥルッシュ(Alexandr Trusch)を始め、非常に美しいダンサーたちだ。しっとりとしたデュエットや、支え合う信頼関係、楽し気な群舞などが、華やかに踊りあげられた。それぞれが確かなテクニックを持っており、良くリハーサルされオーガナイズされている。一人で踊っていても、時に会話を感じさせるような、表現力豊かな踊りが次々と展開した。音楽の視覚化を目的とする、特に物語の無い作品だが、普段クラシックを踊り慣れているダンサーたちの演技力が生きた幕であった。

『古い友1(Old Friend 1- Chopin Dialogues)』は切ない男女関係を描いた場面。男(カレン・アゼチャン/Karen Azatyan)と女(アンナ・ロウデア/Anna Laudere)によって踊られた。男が並んでいる二つの椅子を見つめながら、去った恋人を思うという設定だ。サイモン&ガーファンクルのポップス曲で始まるが、女が現れた時点でピアノの生演奏(ショパン曲のバリエーション)に変わる。
二人の間に起こったことを物語るようなデュエットは非常に美しい。寂しげな二人の間には意見の違い、葛藤、悲しみ、愛情などを感じさせる。女性が楽し気に踊る。恐らくは自分の夢を語ったのであろう。しかし、しょげている彼を見て、しょんぼりと椅子に座る。男が強い回転を見せながらソロを踊る。俺が君を守って見せる、とでも言いたげだ。二人の間に苦悩が走る。愛し合っているが、うまく行かない。それぞれが求めるものが違うのか? 表現に富んだ演技だ。それぞれの自分の前の壁を感じさせる動き、そしてぎこちなく社交ダンスをするような動きが素晴らしいリフトを交えながら展開する。男が女を抱きしめるようにして歩き、場所を与えるかのように女を椅子に立たせる。しかし、女はそこから飛び降り、お互いに主張し合って、ついにいさかいになる。「Why don’t we stop fooling ourselves?」もう、ゲームはやめようというサイモン&ガーファンクルの歌が流れる。メロドラマの様な、甘い美しいダンスだ。椅子に座る女の肩に男がジャケットをかけ、彼女に差し伸べた手に女が顔を埋めて終わる。

ny1704b_02.jpg OLD FRIENDS. Photo by Holger Badekow ny1704b_03.jpg OLD FRIENDS. Photo by Kiran West

『とりとめのない会話(Dangling Conversation)』は、前の場の最後の場面にカフェの様な風景が重なって始まる。前の場の男女の周りに、コーヒーカップを持って立っている人々がいる。女が床に置いてあったカップを拾い上げると人々が動き出してダンスが展開する。美しいクラシックの動きのパターンにコンテンポラリーの動きを交えた、実に洗練された動きだ。そして、この場では最初のカップルも混じった、様々な人間関係が描かれる。調和の取れたデュエットを踊る熱愛のカップルは観客をうっとりさせておきながら、最後にそれぞれ別の相手と抱き合う。二組の男女のカップルと一組の男性同士のカップルの群舞では、人々が交差して、やっと正しい相手を見つける。
この場で特に記憶に残るのは、シルヴィア・アッツォーニ(Silvia Azzoni)のソロと、その後に続くアレクサンドル・リアブコ(Alexandre Riabko)とのデュエット。アッツォーニのソロは活き活きとして、ストーリーはないが完全に動きを自分のものにして、自分でニュアンスを出して踊った。本を読みながら出てきた眼鏡の男(リアブコ)とのデュエットになると葛藤が始まる。二人の人間の協調の難しさを物語る様だ。激しく対立しながらも、一緒に何かに立ち向かう様子も見せる。しかし、結局女が男の本を破って走り去る。
その後3人の男性による、男友だち同士の戯れ合いのようなトリオや、それに関わる女たち、人間関係に苦しんでコーヒーカップを床にたたきつけて割る女性、愛し合っている人が居るのにそんな彼女にが気になる、別のカップルの男性。様々に入り乱れる人間関係が描かれる。通りすがりの恋のようなデュエットもあれば、親密になるが、成り切れないなどなど、ノイマイヤーは複雑な人間関係を表現する名人だ。

『古き友2 (Old Friends II – Opus 100 – for Mauris)』は二人の男性のデュエット。黒いコートを着て後ろ向きに座った男(イワン・アーバン/Ivan Urban)が振り替える。その後ろから同じく黒いコートを着たもう一人の男(Alexandre Riabko)が現れる。二人はサイモン&ガーファンクルの歌の「Old Friends」と「Bridge Over Thousand Water」で男の友情を描いた。やがてコートを脱ぎ、上半身裸で肩を組んだ二人は、同じ方向を向き、助け合い、支え合う、人間同士の真の友情が伝わってきた。明確なストーリーがある訳でもなければ、男性の踊りだからと力強さを強調するものでもないが、確かな信頼と助け合いを感じさせる、心打たれる作品であった。
ハンブルグ・バレエの粒の揃ったダンサー、優れたテクニックと演技力、徹底したリハーサル、理知的な振付は非常に魅力的なカンパニーであることを証明したと言える。次回はもっと大きな舞台で古典作品も見て見たいものである。
(2017年3月24日夜 Joyce Theater)

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