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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2017.03.10]

快適な物語の展開で楽しいバレエが繰り広げられたNYCBのマーティンス版『眠れる森の美女』

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ団
“Sleeping Beauty” choreographed by Peter Martins (after Marius Petipa) ; The Garland Dance choreographed by George Balanchine
『眠れる森の美女』 ピーター・マーティンス:振付(プテイパ版に基づく) 「ガーランド・ダンス」ジョージバランシン:振付

ニューヨーク・シティ・バレエの冬のシーズンで公演された、芸術監督ピーター・マーティンス(Peter Martins)振付けの『眠れる森の美女(The Sleeping Beauty)』を見た。
幕が開くと、もう一枚紗幕が下りており、それに木立の中のゲートの絵が照射されている。ゲートの向こうの方には宮殿が見える。絵は次々と変わって、観客はだんだん宮殿に近づき、ついには宮殿の居間に入る。紗幕が上がると、着飾った貴族たちが集まり、生まれた王女の洗礼式を待っているという具合にバレエは始まった。物語や構成はオリジナルのマリウス・プティパ版にかなり忠実に組み立てられていたので、物語の紹介は省略する。

ny1703b_01.jpg Ashley Laracey in "Sleeping Beauty" Photo : PaulKolnik

招待されてお祝いに訪れた5人の妖精たちとリラの精は、それぞれ踊りで幼い王女へのプレゼントを表現するが、リラの精を踊ったアシュリー・ララシー(Ashley Laracey)以外は全員、少々リスクをかけた踊りに見えた。振りが速いヴァリエーションもあり、ダンサーたちに力が入り過ぎているようにも見受けられた。一方、リラの精のララシーは一貫して安定した踊りであった。魔女のカラボスはプリンシパルのレベッカ・クローン(Rebecca Krohn)が踊ったが、リリカルなダンサーで最初は少し上品で柔らか過ぎるようにも見えたが、持ち前の豊かな表現力で、踊りが進むにつれ凄みのあるカラボスとなった。王女に呪いをかけるが、リラの精に介入されて激怒する様子も非常にリアルに演じた。

オーロラの誕生日の場面では花輪を持ったコール・ド・バレエの踊りが、明るいイメージを与えた。NYCBの養成校SABの子供たちも加わり、美しくシーンを仕上げた。この場面で現れたオーロラを演じたタイラー・ペック(Tiler Peck)は、快活でピンク色の爽やかなイメージだ。回転に強く、恐れを知らない、強いピルエットを見せ、外国からの王子たちを相手としたローズ・アダージオも安定し、しっかりしたテクニックで仕上げた。この場面でも花束に仕込まれた糸巻きで指を刺してオーロラが倒れると同時に正体を現すカラボスのクローンは、全身を使った大きな演技を見せた。

ny1703b_02.jpg Lauren King Photo : PaulKolnik ny1703b_03.jpg Rebecca Krohn Photo : Paul Kolnik

場面は一転して100年後となり、デジレ王子(タイラー・アングル/Tyler Angle)の登場となる。このヴァージョンでは彼に思いを寄せる女性のちょっかいに対し、怒りを隠さない。少々短気な若者となっている。そして現れたリラの精に見せられたヴィジョンの中で、コール・ド・バレエの間を縫って逃げるオーロラをデジレが追いかける、ここは美しい場面になっていた。バランシンとは全く違うコール・ド・バレエの使い方で、クラシック・バレエに手慣れた振付と思われた。マーティンスは全体に非常に解りやすく振付けており、余計な演出がなく、さくさくと進むという感じがした。

ny1703b_04.jpg Tiler Peck & Tyler Angle Photo : Paul Kolnik

第二幕はスモークの中を進む、リラの精とデジレが乗った船を紗幕越しに見せて始まった。ただ、生い茂った森の中を歩く王子とリラの精を追ってカラボスと化け物従者たちが現れるが、それだけで終わってしまい、特にデジレが彼らをやっつけるわけでもなく、あれ?と思わせたのは事実。
宮殿の中央のベッドに眠るオーロラを見つけると、デジレはすぐにキスをして、全員が目覚める。まさに、さくさくとスピーディーに展開する。デジレが国王夫妻に挨拶をすると、すぐに結婚の許可がおり、すぐさま婚礼の場に進む。『眠れる森の美女』の婚礼の場では、全員が白い鬘を付ける演出もあるが、このヴァージョンでは大臣のみで他の登場人物は鬘を使用していない。

ディヴェルティスマンの出演者たちの踊りで印象に残ったのは、猫のデュエット、ブルーバードのパ・ド・ドゥ、赤ずきんと狼の踊りであった。猫のデュエットは白猫をクリステン・セジン(Kristen Segin)が、長靴を履いた猫をショーン・スオッジ(Sean Suozzi)が踊った。美しい足を触ろうとするスオッジの手をセジンがぴしゃりと叩いて観客を笑わせながら、可愛くユーモラスな振りが良く踊られた。ブルーバードのパ・ド・ドゥでは、小柄だが強いテクニックのトロイ・シュマチャー(Troy Schumacher)が複雑なジャンプと強いターンを誇示した。相手役のローレン・キング(Lauren King)は無難に踊ったが、少々力が入りすぎているように思われた。赤ずきんと狼では、赤ずきんを演じたアレッシア・ライラ(Alessia Riera)がまだ小さく、その可愛いさと、オーバーに足を震わせる愛嬌のあるしぐさが観客の笑いを買った。SABの子供たちが木のセットを持って山の中を表現した。狼を演じたダニエル・アップルバウム(Daniel Applebaum)の貢献は言うまでもないが、残念ながらこの場面は完全に子供の出演者に食われてしまった。
オーロラとデジレのパ・ド・ドゥは、プティパの振付を基本にした典型的なものであった。オーロラを演じるペックは安心して見られる踊りで、相手役のアングルと共にほぼ完璧に仕上げた。欲を言えば冒険がないが、満足させる演技であった。最後に国王と王妃がそれぞれのマントを若い二人に譲って、新しい時代の到来を告げる。楽しませる、良い舞台であった。
(2017年2月17日夜 David H. Koch Theater)

ny1703b_05.jpg Tiler Peck & Tyler Angle in "Sleeping Beauty" Photo : Paul Kolnik