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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2017.01.10]

クラシック・テクニックを使った動きも身体も美しい、ネザーランド・ダンスシアターのニューヨーク公演

Nederlands Dans Theater ネザーランド・ダンス・シアター
“Safe as Houses” 、“Stop Motion” by Sol León & Paul Lightfoot)、”Woke up Blind” by Crystal Pite
『セーフ・アズ・ハウス

オランダのコンテンポラリー・バレエ・カンパニーのネザーランド・ダンス・シアターがニューヨーク公演を行った。クラシック・テクニックの基本を厳しいまでに守りながら、普通のバレエ団とは全く違う作品を上演するこのカンパニーは、ダンスの歴史に新しいページを加えると同時に、コンテンポラリー作品が抱えるリスクにも果敢に挑戦する存在である。

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このカンパニーで長年振付に携わるソル・レオン(Sol León)とポール・ライトフット(Paul Lightfoot)の『セーフ・アズ・ハウス(Safe as Houses)』は日本語に訳すと、「家の様に安全(な状態)」と言えるだろうか。このタイトルが、この作品を解釈するヒントだ。プログラムノートとして、この作品は中国の易経(I Ching)にインスピレーションを得たもので、物質的な環境への依存性、そしてやがては魂の生存性を反映するとある。易経(右図参照)は変化を意味するとも考えられているという。

3人のダークスーツのような衣裳を着たダンサー(マーン・ファン・オプスタル/Marne van Opstal、サラ・レイノルズ/Sarah Reynolds、ジョルジュ・ノザール/Jorge Nozal)が客席に背中を向け、まだ幕が上がっていない舞台前面に立っている。幕が開くと、舞台の3面を大きなパネルで覆い、舞台の中央にスペースを二つに割る様に白い大きな壁が上からつりさげられている。
バッハのチェンバー音楽に3人が大きな曲線を描いて踊り出す。すると中央の壁が回転し、その後ろから白い衣裳を来た男性、ジャンフイ・ワン(Jianhui Wang)が現れてソロを踊る。壁はコンスタントに回転し、壁が斜めになって舞台を囲むパネルの隙間に近づいたときに、ダンサーが出入りしている。そうして白いレオタードのミルタ・ファン・オプスタル(Myrthe van Opstal)が出て来て、ワンとのデュエットになる。今度は黒人の男性プリンス・クレデル(Prince Credell)がいつの間にか壁の後ろに立っている。非常に美しいダンサーだ。壁は回転し続け、壁の動きを計算した振付となっている。メンケ・ウー(Meng-Ke Wu)が現れ、クレデルとデュエットを踊る。次々と白い衣裳を着たダンサーが加わるって、奇妙なフォームのダンスがどんどん展開する。それを壁が覆うと、目に染みるような黒い衣裳を着た最初の3人が現れて踊る。
白と黒のグループが代わる代わる踊るが、白と黒のダンサーのデュエットや群舞はない。つまり、易経のマークの白と黒が円になって回転する様がダンスで表現されていると思われた。クラシック・テクニックを使うが、身体の可能性をぎりぎりまで追求した振付だ。また曲に忠実な振付なので、違和感なく見ていられる。ダンサーはいずれも強いクラシック・テクニックを持っており、動きも身体も非常に美しい。最後には最初の黒い衣裳の3人のダンサーが前に進み出て、最初と同じ形で終わった。見ていてうっとりするほど美しいが、動きが非常に変わっているため、そちらの方に観客の意識が流れて、振付家が意図した、精神的なところまでのメッセージは、今一つ届かなかったと思われる。

ny1701b_02.jpg SAFE AS HOUSES © Rahi Rezvani ny1701b_03.jpg SAFE AS HOUSES © Rahi Rezvani
ny1701b_04.jpg WOKE UP BLIND © Rahi Rezvani

マルコ・ゲッケ(Marco Goecke)の『目が覚めたら盲目だった(Woke up Blind)』は、フラストレーションをテーマにした作品と言える。いらいらしている様な動きが最初から最後まで続く。奇妙な顔をしたり、額を指でつついたり、手をくねくねと使ったり、ときには滑稽な、体中の関節を使うような不思議な動きだ。時々、ダンサーが動きのイメージと思われる音を無声で出して踊ったりもする。
基本になるボキャブラリーはあくまでもバレエで、そこからどこまで崩せるかという挑戦も感じる。そして、ダンサーたちが分かりにくい動きをしっかりとものにしているのも驚異的だ。作品からはストーリーは全く見えず、感覚のみが伝わってくる。そのフラストレーションは何なのか? 日常生活で突然起こる思いがけない出来事。それは観客それぞれが自分の経験に当てはめればいいのだろう。作品は最後に残った男性が観客を指さして「Good night(お休み)」と言って、爆笑させて終わった。今度目が覚めた時は、目は見えているだろうか?

この日、一番受けた作品が『ステートメント(The Statement)』だった。振付家クリスタル・パイト(Crystal Pite)は劇作家のジョナサン・ヤング(Johnathan Yang)が書いた台詞だけを使ってダンスに仕上げた。
場所は会議室。中央に長いテーブルがあり、一組の男女が寄りかかっている。「God, oh god, god, god,,,(参った、参った、参った、、、、)」というセリフが流れ、女性が頭を抱える動きで始まる。このカップルともう一組のカップルが、何かをステートメントに書き込むかどうかを話し合うという設定だ。
分かったような分からないようなセリフのやり取りで、観客は自分に身に覚えがある設定を思い出して爆笑する。「ステートメントが必要だ」「これはオフレコードで、、」「コンフリクトがある」「状況が、、、」「これはステートメントに載せるか?」「ちょっと待て」「どうしてこうなったんだ!」「上の指示が、、、、」と、話の要点に触れず、こうした台詞が延々と続く。その台詞に忠実に動きが展開し、演劇並みにクリヤーにメッセージが観客に伝わってくる。動きそのものは抽象的だが、日常の動きを発展させたもので、ダンサーたちはフルに体を使って登場人物の心理の絡み合いを表現している。
必ずしも美しい動きでないだけに、観客はかえって現実生活に重ねることができる。しかし、しっかりしたダンスだ。また、テーブルという道具を100パーセント使った作品でもある。互いに攻め合い、駆け引きをし、仲間割れもし、最後に残った男が、「大丈夫、何とかなる。大丈夫。」と一人合点して終わる。もちろん、観客に大歓声で受け入れられた。素晴らしい出演者たちは、クロエ・アルバレット(Chloé Albaret)、アラム・ハスラー(Aram Hasler)、チェザー・ファリア・フェルナンデス(César Faria Fernandes)、ロジャー・ファン・ダー・ポール(Roger Van der Poel)であった。

ny1701b_05.jpg THE STATEMENT © Rahi Rezvani

この日の舞台はソル・レオンとポール・ライトフットの振付による『ストップ・モーション(Stop Motion)』で閉じた。この作品では舞台にスクリーンが設置され、映像が照射される。その映像には二人の振付家の娘、ソウラも登場している。プレイビルによると作品のテーマは「別れと変化」とある。「ストップモーション」というタイトルからして、亡くなった我が子を偲ぶ親の心を描いた作品と思われる。
まだ緞帳が降りている舞台前面右上に設置されたスクリーンに、女性の後ろ姿が照射される。ダイアローグが流れて、ゆっくりと映像の美女が振り返る。緞帳が半分開いてステージの上でダンサーたちの群舞が展開する。また緞帳が下りると、男性(ジョルジュ・ノザール/Jorge Nozal)が外に残り、悲し気な女性の映像の前で、切ないようなソロを踊る。

ny1701b_06.jpg STOP MOTION ®Rahi Rezvani

再び幕が開くと、黒い裾を長く引っ張るガウンを着た女性(クロエ・アルバレット/Chloé Albaret)の横で、男性(ロジャー・ファン・ダー・ポール/Roger Van der Poel)がしなやかにもがくように踊る。黒人のダンサーのプリンス・クレデル(Prince Credell)が現れて踊る。その脇で両親(パヴァナー・シャラファリ/Parvaneh Scharafaliとノザール)がデュエットを踊り、やがて黒ガウンの女が母親と重なる様に横たわる。黒ガウンの女はやがて不吉を示唆すると消える。東洋人のカップル(ジナフイ・ワン/Jianhui Wangとメングケ・ウー/ Meng-Ke Wu)が現れて踊る。そして、娘のウーと母親のシャラファリの踊りとなる。スクリーンに水に粉が落ちるような映像が、そして舞台後ろのスクリーンに人が落下するような映像が投影される。ステージではワンとウーの何かを試みては倒れるような動きが繰り返される。そしてダンサー達が舞台を覆う布を取り去ると、床の上に白い粉が敷き詰められている。クレデルがその上で踊ると、彼の黒褐色の体の周りを白い粉が舞い上がり、美しい別世界が作られた。これは天国を意味するのであろう。舞台前方ではシャラファリが倒れており、立ち上がるとノザールの前で激しい感情を表現するかの様に踊る。両親はお互いを労わるかのようにデュエットを踊る。舞台中央ではクレデルとポールがデュエットを踊って、白い粉が宙に舞い、ステージが雲の中のようになった。ウーが現れてクレデルとデュエットを踊り、痛みや切なさが表現される。シャラファリが粉を両手ですくって、ステージ前に小さな山にしていくつも盛っていく。スクリーンには粉を手からこぼす美少女の映像が映される。時に痙攣を起こす妻を抱きかかえるようにする夫の姿が繰り返えされるが、だんだんと母親の顔にわずかな微笑が見えるようになる。陶酔するような二人の表情。映像にはフクロウが飛ぶ。二人のデュエットが続く中、設置されていた周囲の幕がおろされて舞台が裸になり、照明セットも降りてくる。二人の動きが止まって終わる。バレエをボキャブラリーとし、コンテンポラリーダンスを使った、ストーリーバレエであった。
(2016年11月18日夜 New York City Center)

ny1701b_07.jpg STOP MOTION ®Rahi Rezvani