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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2016.11.10]

ABTはサープ、ラング、ミルピエ作品をゴメス、マーフィー、コープランド、シリオ、アブレラ、スターンズなどが踊った

American Ballet Theatre Fall Season アメリカン・バレエ・シアター 秋公演
“The Brahms-Haydn Variations“ by Twyla Tharp、 ” Her Notes“ by Jessica Lang、 ”Daphnis and Chloe“ by Benjamin Millepied
『ブラームス―ハイドン・ヴァリエーションズ』トワイラ・サープ:振付、『彼女の音楽』ジェシカ・ラング:振付、『ダフニスとクロエ』ベンジャミン・ミルピエ:振付

アメリカン・バレエ・シアター(ABT)の秋の公演が行われた。このシーズンは毎年春から夏にかけて行うメトロポリタン・オペラ・ハウスでの公演に比べると小規模で、同じリンカーンセンターの敷地内にあるDavid H Kochシアターで2週間行われ、作品もコンテンポラリー・バレエが多い。

ny1611b_03.jpg 『ブラームス―ハイドン・ヴァリエーションズ』
The Brahms-Haydn Variations.
Photo: Rosalie O’Connor.

トワイラ・サープ(Twyla Tharp)の作品「『ブラームス―ハイドン・ヴァリエーションズ(The Brahms-Haydn Variations)』は、ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms)がハイドン作曲のオーケストラ組曲56番Aをテーマにヴァリエーションを書いた曲に振付けた作品。
ジリアン・マーフィー(Gillian Murphy)とマルセロ・ゴメス(Marcelo Gomes)がリードした。結果から言って、残念ながらあまり印象の残らない作品であった。30人ものダンサーを起用したにも関わらず、人数を利用したダイナミックさを見せるわけでもなく、変わった動きが出てくるが、サープのボキャブラリーと言えるほどの特殊性もなく、音楽の解釈も忙し過ぎて、常に全員が何か違っていることをしているような、わさわさとした作品に終わった。マーフィーとゴメスのカップルも、恋人の関係のような振付かと思われたがそっけなく踊っており、作家の意図は観客に届かなかった。優れた振付家が優れたバレエ団に振付けているだけに、残念な結果であった。

ジェシカ・ラング(Jessica Lang)の『彼女の音楽(Her Notes)』は、フレデリック・メンデルスゾーンの姉のファニー・メンデルスゾーン・ヘンゼル(Fanny Mendelssohn Hensel)作曲のピアノ組曲『歳月(Das Jahr)』からの抜粋5曲に振付けたもの。ちなみに、ファニー生存の時代は、女性は作曲をするものではないとして、彼女の作品のほとんどは弟のフレデリックの名前で発表されたという。ラングがこの作品に「彼女の音楽」と名付けたのは、そうした女性の才能への圧力への抗議も込められているのかもしれない。音楽はピアノのライブソロで、「1月」「2月」「6月」「12月」「後送曲」が演奏された。しかし、振付はその曲名に呼応するものではなく、曲のイメージに振付けられた音楽の視覚化である。

ny1611b_02.jpg 『彼女の音楽』Scene from Her Notes.
Photo: Rosalie O’Connor.

ラングの特徴として、踊りだけでなくセットも重要な要素として組み込んでおり、この作品も個性的なセットが認められた。背景のバックドロップを四角くくり抜いたようなセットの中に、四角いシースルーのスクリーンを吊り、そのスクリーンにさらに四角い窓が付いている。その窓からジリアン・マーフィー(Gillian Murphy)が一人座って外を見ている。スクリーンの向こうにはダンサーたちのシルエットが美しく配置され、スクリーンの前でのマルセロ・ゴメス(Marcelo Gomes)のソロで「1月」は始まった。やがて窓からマーフィーが出てくると、続いて手を繋いだダンサーたちがどんどん窓から出てきて踊る。振付はモダンダンスだが、女性はポアントで踊り、優雅なバレエに見える。
「2月」では照明が変わり後ろのセットは淡いグリーンに変わって、ミスティ・コープランド(Misty Copeland)とジェフリー・シリオ(Jeffrey Cirio)のデュエットがリードした。上手なセットの使い方で別世界となる。この場面では、ジョークも込められ、セットの後ろから真横に飛んでくるダンサーをセットの横に立っているダンサーが受け止める。女性は男性が受け止めるが、最後に男性が飛んできた時は女性が受け止めるものの、そのまま下に落とされ、観客の笑いを買う。動きが多すぎず、すっきりとして見える振付だ。
作品中ダンサーたちが静止して美しいシルエットや群像を作る場面もたくさんあり、作品の印象付けとなった。最後の場面では縦に吊っていたセットのスクリーンを男性たちが水平に持ち、マーフィーが窓の中に立って終わる。恐らくはダンサーのシルエットや群像も、ラングにとってはセットを含めた「絵」として、作品を構成する材料なのであろう。

この日の最後はベンジャミン・ミルピエ(Benjamin Millepied)振付のストーリー・バレエ『ダフニスとクロエ(Daphnis and Chloe)』で締めくくられた。音楽はモーリス・ラヴェル(Maurice Ravel)の同名の曲。
ダフニスとクロエはそれぞれ山羊飼いと羊飼いに育てられた孤児。二人とも元々高貴な家の出で、美しく育った二人は、互いに惹かれ合っている。しかし、クロエには牛飼いのドルコンが思いを寄せ、ダフニスには年上の女のライセニオンが目を付けていた。
ある春の午後、若者たちが集まって精霊の祭壇に祈りをささげていると、ダフニスとクロエも現れる。若者たちは和やかに交流するが、同じく現れたドルコンとライセニオンに、ともすれば若い二人は割り込まれてしまう。クロエを巡ってドルコンとダフニスが踊りで勝負をすると、ドルコンの無粋な踊りは人々に疎まれ、優雅に踊るダフニスがクロエを得る。しかし、ダフニスはそれ以上どうすればクロエと本当に結ばれるのかが分からない。クロエが友人たちと去ってしまうと、ダフニスは孤独と当惑に悩む。そんなダフニスの心境に付け込んだライセニオンは、ダフニスを誘惑して思いを遂げてしまう。一方、クロエは町を襲って来た海賊にさらわれてしまう。ダフニスは助けようと追うが、逆に海賊たちに襲われて倒れる。それをニンフ(精霊)たちが救う。クロエは海賊の首領のブリャクシスの手に渡り、危機に陥っていた。踊れと命じられて彼女は悲しみの踊りを踊る。ブリャクシスに追い詰められて絶体絶命の時、海賊たちはパンの神の力で突然身動きが出来なくなり、ダフニスが救いに来る。再開した二人はごく自然に結ばれ、ニンフたちが祝福するように踊る。二人は人々に祝福されて結婚する。
早い話が、若い恋人たちが初めてセックスをするまでを描いた物語である。クロエをステラ・アブレラ(Stella Abrera)が、ダフニスをコーリー・スターンズ(Cory Stearns)が踊った。二人の踊りは最初は自由な恋人たちのようで、敢えて注目させるものはない。ただ、楽し気に踊っているという印象だ。しかし、海賊から救われた後のアブレラの踊りは一変し、非常に生き生きとした、艶やかなものになる。ダフニスと結ばれ女に成長したことを表現するために、敢えて最初の部分は表現を抑えて踊ったと思われる。ダフニスを誘惑するライセニオン役のカサンドラ・トレナリー(Cassandra Trenary)は、したたかな年長の女を良く表現した。
この作品では、かつてパリ・オペラ座の芸術監督だったミルピエのセンスを反映するかのように、セットが非常にヨーロッパ的なところが面白かった。(セットデザイン:ダニエル・バーレン/Daniel Buren)精霊の祭壇を黄色い円を天井から吊って表現し、それに菱形や長方形のセットを組み合わせ、更に照明の色を変えて様々な場面を表現した。シンプルかつ抽象的でありながら、物語を邪魔することなく場面転換を見事に表現した
(2016年10月21日夜 David H Koch Theater at Lincoln Center)

ny1611b_01.jpg 『ダフニスとクロエ』
Stella Abrera and Cory Stearns in Daphnis and Chloe. Photo: Rosalie O’Connor.