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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2016.09.12]

カニングハムの『ファブリケーションズ」を再構築、洗練された動きで美しいラインを描いた

Merce Cunningham Trust マース・カニウングハム・トラスト
"Fabrications" choreographed by Merce Cunningham, reconstructed by Patricia Lent and presented by Merce Cunningham Trust.
『ファブリケーションズ』 マース・カニンガム:振付、パトリシア・レント:再構築

マース・カニンガム(1919-2009)はマーサ・グラハム、アルヴィン・エイリーなどと並んで、アメリカ・モダンダンスの第二世代と言われた、アメリカを代表する振付家の一人だ。彼が最も多く共同制作したのは、抽象作曲家のジョン・ケージ(John Cage)だったが、彼の作品の特徴は全く音楽を無視したかのような作風だった。つまり、音楽とダンスは同じ場所と空間に存在しうるが、必ずしも共鳴しなければならないのではなく、それぞれが独自に創造するものだという、普通のダンスの発想とは全く違ったものの考え方だった。よってカニンガムの作品は、美しいダンサーたちによって織りなされる、見事な幾何学模様の展開で、しかし音楽(通常、カニンガムが選ぶ音楽にはリズムもメロディーと呼ばれるものも無かった)と呼応するわけでもなく、だが最後にはいつも一緒に終わるというものであった。その度肝を抜く発想が、新しいものを求める現代の観客とアーティストに受け入れられ、独自の芸術観を築き、アバンギャルドの先駆者としてもてはやされた。しかし、2009年にカニンガムが他界してからは、カンパニーは縮小・解散され、現在はマース・カニンガム・トラストがカニンガムの作品を保存・維持している。今回は、1987年に初演された作品『ファブリケーションズ Fablications』をパトリシア・レント(Patricia Lent)がビデオやカニンガムの製作メモなどを基に再構築し、発表したもの。

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作品が踊られる前と後に、レントによる再構築の解説が行われた。黒いタイツにカラフルなタンクトップというシンプルな衣裳のダンサーたちが出てきて、レントの説明に沿いながらデモンストレーションを行った。最初に作品の部品ともいえる、主な動きのモチーフがいくつか紹介された。音楽なしで3組のカップルが踊る。非常に美しい。バレエとリモーン・テクニック、グラハム・テクニックを想像させる動きだ。確かにカニンガムの時代には、その三つの舞踊スタイルがメジャーを占めていた。カニンガム自身はマーサ・グラハム・ダンス・カンパニーで踊った人だが、自身の作品には当時の主流なダンススタイルを取り入れたと理解できる。全く音楽なしで呼吸のみで動くようなダンサーたちは、全員非常に洗練された動きで美しいラインを持っている。動きのタイミングをリズムよりは、それぞれの動きのタイミングと呼吸を察知しながら動いている。レントの解説の中に何度も「Ambiguity(曖昧さ)」という言葉が出てくる。まさに、このAmbiguityこそがカニンガムの作品のテーマだったのではなかっただろうか。

『ファブリケーションズ』は低い飛行機の様な音で始まった。先ほどのデモンストレーションの場面が次々と現れる。話し声が被ったような音楽が入ったりして、カニンガムが好んで使う抽象的な音楽は、Emanuel Dimas de Melo Pimentaの作曲。時にコマーシャル音楽の様なものや、効果音の様な音がランダムに入る。ダンサーたちは全く音楽には沿わない振りを、整然とそれぞれが連携しながら踊っている。カニンガムには珍しく、音楽にはリズミカルなポップスの断片も入っているが、同時にずっと低い耳障りな音が続く。

 

 

 
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ダンサーたちはきちんとフォーメーションを保ち、美しいラインで乱れなく踊り続ける。グラハム・テクニックの歩き方やジャンプも見られる。カニンガムの作品では、通常ダンサーたちは能面のように無表情に踊るが、今回は時折ダンサー同士の間で表情の交換があったのが珍しかった。バレエの様な美しい動きがあるかと思うとバランスを取るのが難しい、リスキーな動きも入る。ある場面ではダンサーがポーズだけで、全く動かず、それは日本の「間」に似ていた。タイミングがつかみにくい振付であるにもかかわらず、数組のカップルが見事にユニゾンで踊る場面もある。全く音が無くなる場面もあるが、ダンサーたちは見事に揃って踊り続けた。バレエダンサーと言っても不思議ではない洗練されたダンサーたちの中には、日本人の亀井彩花(Ayaka Kamei)が含まれていた。

シンプルなコスチュームにシンプルな動き。カニンガムはシンプリシティー(簡素であること)を尊重し、愛した振付家だった。彼は当時主流だった、バレエやグラハムといったダンススタイルを破ることを模索したのかもしれない。音楽、発想、動きと、あらゆる意味で挑戦的だ。そうした新しいものを追及するパイオニア精神に共感したダンサーたちが関わったのかもしれない。

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作品が踊られた後で、再びレントが解説に立ち、カニンガムが書いたこの作品のメモを紹介したのが面白かった。彼のノートが後ろのスクリーンに射影される。1986という数字と丸で囲んだFabricationsという字があり、7/2/86~9/3/86 New #2? Minneapolis Residencyなどと書かれている。次のページにはフレーズのメモがびっしりと書かれ、64番まである。細かくフォーメーションのメモを書いたもの、クォリティーに関するメモもあり、凄いノートだ。数字と絵、表で作品を書き留めてあり、動きを文字と数字と方式で書いてある。ダンサーの名前、ステージの絵、それに関するメモ。慣れれば翻訳できるのだろうが、まるで数式の様なメモだ。このメモを見ていると、なるほどカニンガムのダンスが幾何学模様の印象を与えるようになるのはこういう作り方をしたからかと頷ける。しかし面白いことにそのメモには、Sorrow(悲しみ)、 Anger「怒り」、 Fear「恐れ」 などの感情表現が書かれたページもあった。
最後のページは、音楽とダンスを縦に並べ、音楽とダンスが一緒に終わるようにプランを立てた表となっていた。音楽のどこからどこまでで、このフレーズを踊る、といったプランを書いたものだ。レントは解説しながら、「このノートが無ければできなかった」と語った。天才の手の内を見せてもらったような会であった。
(2016年4月1日午後 92Y Harkness Dance Center)

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