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三崎恵里 text by ERI MISAKI 
[2016.09.12]

ステラ・アブレラが赤いバラのイメージによるオーロラをゴメスと踊り、情熱的な絵をちりばめた

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター
“The Sleeping Beauty” choreographed by Marius Petipa, Staged by Alexei Ratomansky
『眠れるの森の美女』マリウス・プティパ:振付、アレクセイ・ラトマンスキー:演出

アメリカン・バレエ・シアターの毎年春の恒例の、メトロポリタン・オペラ・ハウスでの公演で、久しぶりに『眠れるの森の美女』を見た。バレエのファンなら誰でも知っているこの作品、私もこれまで何度も見たバレエだが、今年のABTの『眠れる森の美女』はこれまで見たことが無いものだった。
物語は良く知られているので、紹介は省くことにする。
ドラマチックな美しい音楽で緞帳が上がって、まず観客を驚かせるのが、素晴らしく遠近法の効いた宮殿のセットだ。これまでの製作に比べて、うんと舞台が広く見える。そこに美しい衣裳を着た人々が現れる。子供たちの先導で、国王と妃が出てくるなど、今回の製作では多く子供たちの起用している。もちろん、ABTジャクリーン・ケネディ・オナシス・スクールの生徒たちだ。
プログラムには振付の名前はこの作品のオリジナル振付家、マリウス・プティパ(Marius Petipa)とだけある。そしてその下に、ステージングと追加振付として、アレクセイ・ラトマンスキー(Alexei Ratmansky)の名前が掲載されていた。つまり、極力プティパのオリジナルの振付を復元したことを強調している。従って、衣裳も現代バレエのチュチュの起用は少なく、男女ともに宮廷衣裳や当時の庶民の衣裳に近いものとなっている。

ny1609a_01.jpg Stella Abrera in The Sleeping Beauty. Photo: Gene Schiavone.

ラトマンスキーはサンクトペテルブルク生まれ。ウクライナ国立バレエ、ロイヤル・ウィニペグ・バレエ、ロイヤル・デニッシュ・バレエなどでプリンシパルを務め、マリンスキー・バレエを始めとする多くの著名バレエ団に振付家として仕事をしている。2004年にボリショイ・バレエの芸術監督となり、2009年1月からABTの客員アーティストとなっている。ラトマンスキーが手掛けたこの『眠れるの森の美女』の製作は、ミラノ・スカラ座との共同制作で、昨年初演。衣裳やセットもスカラ座と共有するものだという。

ny1609a_02.jpg Stella Abrera and Marcelo Gomes in The Sleeping Beauty.
Photo: Gene Schiavone.

この製作の大きな印象を挙げると、まずは振付が見ただけでも昔のものだと分かる「古風さ」。昔のバレエの絵に見受けられるようなポーズが多く含まれたり、祝いの場でダンサーたちが花輪を持って踊るなど、古き良きバレエの雰囲気がふんだんに組み込まれている。幼いオーロラを祝福する妖精たち全員に男性ダンサーが付き添い、従って男性の踊りも多くなっている。また、これはABTの製作のみの演出かもしれないが、宴会に招待されなかったことを根に持って、赤ん坊の王女オーロラに呪いをかけるカラボスに、思い切って小柄なダンサーを配したこと。大きなネズミが引く馬車に乗った小さなカラボスは、その異様なバランスに加え、演じたナンシー・ラッファ(Nancy Raffa)の迫力のある演技でなかなかのインパクトを与えた。
次に挙げられるのは、リチャード・ハドソン(Richard Hudson)によるセットと美術の美しさで、踊りそのものよりはむしろこちらの素晴らしさが強い印象を残した。オーロラの命名式の宮殿の広間、16歳の誕生日は屋外で行われ、その背景画、オーロラが眠ってしまってからの緞帳に描かれた森と城の絵、デジレがリラの精に出会い、オーロラのヴィジョンを見る奥深い森、そしてデジレ王子がリラの精に連れられて入るオーロラの寝室など、美術が重々しくも美しく、どっしりとした贅沢感を全幕に渡って与えた。ハドソンは衣裳も担当しており、最後の結婚の場は、古式にのっとり、ダンサーたちは宮廷衣裳に白い鬘を付けて踊った。
このバレエの見どころは、最後の結婚の場でのいろいろなキャラクターたちの踊りで、ブルーバードや赤ずきんなど、見せ場が多い。この製作では、あのカラボスさえも宴会に招待されて、本当の意味でのハッピーエンドを表現している。

ny1609a_03.jpg Stella Abrera and Marcelo Gomes in The Sleeping Beauty.
Photo: Gene Schiavone.

有名な猫のデュエットでは、長靴を履いた雄猫役のアレクセイ・アゴウディン(Alexei Agoudine)が大きな猫の頭の被り物を被って踊った。相手のキャスリーン・ハーリン(Cathrine Hurlin)は美しい白猫で、引っかきあうかと思うとじゃれあう、お茶目ながら上品な可愛いデュエットだった。
また、このバレエの大きな見せ場の一つのブルーバードのパ・ド・ドゥでは、青い鳥に扮したガベ・ストーン・シャイアー(Gabe Stone Shayer)が素晴らしい踊りを見せた。この役には珍しくないが、シャイアーは小柄で身軽なダンサーで、高くふわりと跳ぶ。本当に鳥の様に楽し気に跳んで、まるで空気と戯れる様で、これは技術だけではなく演技力も物語っており、将来が楽しみなダンサーだ。
赤ずきんと狼では、これも被り物を被った狼がユーモラスで、赤ずきんが狼に襲われるというよりは、むしろロマンチックなデュエットとなった。美しく赤ずきんを踊ったベッツィー・マクブライド(Betsy McBride)はポアントではなく、キャラクターシューズで踊った。
若干奇異に思われたのが、大きな被り物を導入したキャラクターが多くあったこと。恐らくはオリジナルの製作で、このような趣向があったのだと思われるが、ダンサーたちは踊り辛いのではないかと思われた。また、シンデレラと王子など、普段はあまり見ない、或いは私たちは全く知らないキャラクターのダンスも含まれていた。観客に期待させるような個性的な衣裳を着たキャラクターも現れたが、全く見せ場が無かったりと、いささか拍子抜けする部分もあった。
さて、この舞台でオーロラを踊ったのはステラ・アブレラ(Stella Abrera)、デジレ王子はマルセロ・ゴメス(Marcelo Gomes)だった。アブレラは美しく可憐な赤いバラのイメージを一貫して維持した。また、ゴメスはさすがの貫禄で、周囲を鎮める存在感と安定したサポートで、安心して見ていられた。若いダンサー達によく見られるようなテクニックを強調する場面はないが、美しく情熱的な絵をたくさんちりばめて、絢爛豪華な舞台となった。
(2016年7月1日夜 Metropolitan Opera House)

ny1609a_04.jpg Scene from The Sleeping Beauty. Photo: Gene Schiavone.

お詫び
この記事は一部に事実と違った表現がありました(2016/9/13〜9/14)ので訂正しました。