ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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ブルーシャ西村 text by BRUIXA NISHIMURA 
[2016.06.10]

セネガルの過去と現在のイリュージョンを一つのストーリーとして踊った、ダンスアフリカ2016

Dance Africa 2016 ダンスアフリカ2016
“ Senegal: Doors of Ancient Futures ” Artistic Director : Abdel R.Salaam, Artistic Director Emeritus: Chuck Davis
『セネガル:ドアーズ・オブ・アンシェント・フューチャーズ』アブデルR.サラーム:芸術監督、チャック・デイヴィス:名誉芸術監督

ニューヨークで毎年恒例のダンスフェスティバル、第39回目のダンスアフリカ2016がブルックリンのBAMで開催されました。年々、規模が大きくなってきていて、今年は5月20日から30日まででした。メインイベントのダンス公演は、Senegal: Doors of Ancient Futures(セネガル:ドアーズ・オブ・アンシェント・フューチャーズ)で、メモリアルデー週末の5月27日から30日まで4日間続きました。

ny1606a_01.jpg Director Abdel R. Salaam
Photo Credit:Richard Termine

このダンスアフリカは、全米で最大のアフリカのダンスと文化のフェスティバルです。毎年、アフリカから現地の本格的なアフリカン・ダンスのカンパニーを大掛かりに招聘して、アフリカのダンサーとパーカッショニスト、ミュージシャンの生の公演を観られる貴重な機会です。
同時に、アフリカの小物やアクセサリー、服などや、アフリカの飲食店の屋台が並ぶ路上のバザール、映画上映、音楽公演も数日間開催されました。このバザールは本格派でユニークなのでニューヨークの地元の人々には知られていて、毎年多くの方々が楽しみにしています。実際に私のアメリカ人の友人はわざわざマンハッタンから、毎年このバザールへ来ています。

第38回まで芸術監督を務めたババ・チャック・デイヴィスは御年79歳になり引退なさったので、今年から新しい芸術監督としてアブデルR.サラームが就任して引き継がれました。サラームは、長い時間に培われた伝統と新しいアイデアの繊細なバランスのあるダンス公演を目指しているそうです。
ババ・チャック・デイヴィスは、1977年にこのダンス・アフリカをニューヨークで立ち上げました。アフリカン・ダンス界では大御所で、受賞歴多数、その功績により複数の大学からドクター(博士号)を授与されています。デイヴィスはもともとダンサーでした。1968年にニューヨークで、チャック・デイヴィス・ダンス・カンパニーを創立し、1983年にはノースカロライナ州ダーラムで、アフリカン・アメリカン・ダンス・アンサンブルを創立しました。
アブデルR.サラームは芸術監督であり振付家です。1981年に創立したForces of Nature Dance Theatre ( FONDT )の芸術監督を務めています。サラームはニューヨークのハーレム生まれで、ダンサー、ダンス教師、パフォーミングアーティストとして5大陸で活躍し、45年間のキャリアがあります。受賞歴多数です。バレエの振付も多数しています。(Philadanco, Union Dance Theater(ロンドン), Ballet Islenos(プエルトリコ), Sakoba Dance Theater(ロンドン), Nashville Balletなど。)

ny1606a_02.jpg DanceAfrica Artistic Director Emeritus Chuck Davis Photo Credit:Richard Termine

私が見たのは、Senegal: Doors of Ancient Futures(セネガル:ドアーズ・オブ・アンシェント・フューチャーズ)、5月27日夜の公演です。休憩を1回はさんで、2時間15分の公演でした。客席は、色とりどりに頭の先から全身をアフリカの民族衣装で正装した黒人がほとんどです。その黒人たちはゆったりと余裕がある感じの方ばかりで、ニューヨークは他の地方からの黒人の富裕層が集まっているように見受けられました。平日にダンス公演を鑑賞して楽しむ客層は、黒人のダンスフェスティバルでも裕福な方が多いようです。皆、ニコニコ、ほのぼのとしていました。そして、他の人種や、日本人かアジア系の観客はほとんど見かけませんでした。
今年はセネガルから3つのダンスカンパニーを招聘していました。他にニューヨークの地元の3つのダンスカンパニーも出演しました。出演ダンスカンパニーは以下の通りです。

Les Ballets de la Renaissance Africaine “WAATO SiiTA” (セネガル)
Compagnie Tenane (セネガル)
Germaine Acogny (セネガル)
Dyane Harvey (ニューヨーク)
Reverend Nafisa Sharriff (ニューヨーク)
BAM/Restration Dance Africa Ensemble (ブルックリン)

こ回の作品は、アブデルR.サラームが1978年に初めてセネガルに旅行した時と、続けて2015年にセネガルに戻った時に観た、The Door of No Return(ノーリターンのドア)のヴィジョン、インスピレーションをもとにしています。未来のポテンシャルとともに、セネガルの過去と現在、田舎と都会のビジョンを融合させました。都会的・現代的な踊りと、土着的なアフリカン・ダンスが両方でてきました。全体を通じて、ストーリー性がある作品となっています。
最初は、主にBAM/Restration Dance Africa Ensemble(ブルックリン)で、“SPIRIT WALKERS” (2016)です。その他にも、後半は続々と大勢の人々が舞台に登場しました。振付はアブデルR.サラーム、音楽はWilliam “Billy” Bungoです。舞台の真ん中に巨大なスカートをはいた人形が現れ、その周りを大勢の人々が囲んでいました。やがて、そのスカートの中から男女8名が出てきて、手にキャンドル・ライトを持って歩き、盛大なセレモニーになりました。その8名が激しくハイテンポで踊りました。全員、白い衣装を着ています。楽器だけのジャズ・フュージョンのような、フェラ・クティのようなアフリカン音楽が流れて、客席の後方から大勢の白い衣装のダンサーたちがぞろぞろと出てきて、通路を通り過ぎて踊りながら舞台へ上がっていきました。この演出は面白くて盛り上がりました。

ny1606a_11.jpg WAATO SiiTA and BAM/Restoration Dance Ensemble   Photo Credit:Richard Termine

そして、アブデルR.サラームとババ・チャック・デイヴィスの舞台挨拶がありました。デイヴィスは79歳ですが今も元気で、声も大きく、出てきただけで太陽みたいに明るくて、観客を乗せて笑わせていました。アメリカの黒人の平均寿命は70.8歳なので、黒人の方にしては、長生きで元気な方です。背が高く大きな方で、さすがもとダンサーらしい雰囲気で、ビシッと素晴らしく良い姿勢です。ダンサーとして活躍した方は、お年を召しても基本の身体の姿勢が日頃から崩れないのだなと思いました。ご自身が育てたダンスアフリカがこんなに大きなフェスティバルに成長し、定着して、引き継がれていくことは、さぞ嬉しいことでしょう。

この公演は、複数の作品が続いて組み合わせられていきましたが、全体でセネガルの過去と現在のイリュージョンをつないでいて、一つのストーリーとしてまとめられていました。現在のシーン、過去の時代のシーン、やがて再び現代のシーンに戻って終わりました。
少年が現代のシーンから、大きな門をくぐってタイムスリップして過去の時代へ行き、様々なダンスを見てきて、また大きな門をくぐって現代へ戻ってくるという物語でした。これは今までのダンスアフリカのように、それぞれのダンス作品をバラバラに紹介していく小品集と違って、全体で一つの演目として作り上げたのは初めてでした。ミュージカルのような、演劇のような手法だと感じました。新しい芸術監督サラームのセンスは現代的です。

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ny1606a_10.jpg WAATO SiiTA Photo Credit:Richard Termine

作品が始まると、薄い幕の外は現在のシーンで、iphoneを持って写真を撮っている観光客たちが大勢現れて、がやがやして通り過ぎていきました。薄い幕が開いて、舞台後方は過去の時代、前方が現代という設定でした。舞台前方には7歳位の現代の衣装と髪型の黒人の少年が1人、舞台後方には過去のセネガルの大人の男性が1人いました。2人とも、アフリカのカラフルなシャツを着ていました。その現代と過去の時代の2人が出会い、少年の周りを、男性がぐるぐると周りながらアフリカンダンスを踊りました。
そして、さらに奥の沙幕が開くと、巨大なトーテムポールを組み合わせたような門が置かれていました。その門をくぐって、こちら側へ大勢の男女が出てきました。太鼓をたたくパーカッショニストの男性たち5名、ダンサー11名です。歌う男性もいました。これはカンパニーLes Ballets de la Renaissance Africaine “WAATO SiiTA”(セネガル)による“VILLAGE FISHERMAN’S DANCE”,と“KOKOU”という作品に続きます。振付はMoussa Sonko、音楽監督はBirame Mboupです。シアター風にまとめられていますが、踊りの内容は、本格的で土着的なアフリカン・ダンスです。カラフルな腰みのをつけて顔にペイントをほどこしたアフリカの古代の原住民のような衣装のダンサー達が、激しく早いリズムで飛びはね続けて踊りました。アフリカの伝統的な田舎の生活を祝福する踊りだそうです。パワフルな踊りで迫力満点です。
最初にでてきた現代の少年が1人、肩からつるさげたジンベ(太鼓)をたたいている2人の男性に囲まれていて、彼らは少し踊りました。

次は、場面が変わって、Compagnie Tenane (セネガル)の“WHO ARE WE ?”、振付はMarie Agnes Gomisです。こちらは現代的な踊りです。再び、現代の時代設定に戻った様子です。衣装も現代のもので、男女とも上下パンツスーツを着ていました。ダンサーは4名です。踊りは、アフロ・コンテンポラリーのスタイルで、使っているリズムはアフリカン、クランプ、ヒップホップなどです。演技も混ぜた踊りでした。
途中、ダンサー1人1人が、大きな3〜5リットル入りのプラスチックの空のペットボトルを手に持って、踊りました。ダンサーは鍛え上げられた肉体で、柔軟性もありしなやかでした。

ny1606a_09.jpg Compagnie Tenane (Baidy Ba and Marie Agnes Gomis) Photo Credit:Richard Termine

また場面が変わり、ババ・チャック・デイヴィスと先ほどの現代の少年が出てきて、デイヴィスが少年に話しかけて去り、少年は残って後方に座って見ていました。
再び、Les Ballets de la Renaissance Africaine “WAATO SiiTA”(セネガル)の登場です。
“BALLANTE”で、振付はMoussa Sonkoです。パーカッション(太鼓)の男性5人が演奏し、オレンジや黄色のカラフルな腰みのをつけ、頭に大きな角のついた衣装を着た男性が現れ、激しいダンスをしました。同じような衣装の男性たち数名も出てきて、歌いながら踊り、激しく飛び跳ねて力強いダンスバトルを繰り広げました。手の関節や肩の力を全部抜いていて、ブラブラにした状態で、飛び跳ねて狂ったように踊っていました。同じようなカラフルな腰みのの衣装を着た女性たちも出てきて、飛び跳ね続けて激しく踊りました。16名で踊った時は、すごい迫力とパワーで、劇場いっぱいにはちきれそうなエネルギーが広がり、客席はすごい歓声が起こり、全体が恍惚としているようでした。とても盛り上がり、クライマックスで、すごい拍手でした。

休憩が終わり、第二幕は、ダンス・アフリカから毎年、黒人(アフロアメリカン)のコミュニティーの若者に与えている奨学金を授与、表彰しました。名前が呼び上げられ、一人一人、9名が順番に舞台上に出てきて、授与されました。
ダンス作品の上演は、“A QUESTION OF BEAUTY”から始まりました。出演カンパニー、ダンサーはセネガルとニューヨークの合同で、Germaine Acogny(セネガル)、Dyane Harvey(ニューヨーク)、Reverend Nafisa Sharriff(ニューヨーク)、Kourtney Charles、Faith Mondesireです。振付はAbdel R.Salaam、音楽はTunde Jegedeです。

ny1606a_06.jpg Germaine Acogny and Kourtney Charles
Photo Credit:Richard Termine

これは現代的な作品で、幻想的で、サラームのセンスが光っていました。さすが、デイヴィスの後継者として選ばれたはずだなと、その理由を垣間見ました。
最初は静かに始まり、暗闇で薄い照明の中で、1人の美しい女性が、白いタイトなドレスと来て白いウィッグを着けて、真ん中で後ろ向きに座っていて、うごめいていました。太鼓の音が響き、“ビューティー・・・”“ビューティフル・・・”と、男性や女性が小さな声で次々に小さな声でささやき続けている録音が流れました。その音の効果で、舞台が幻想的、神秘的になっていました。少しその女性がゆっくりと踊り、180度開脚したりしてから床に横たわりました。その両端に、カラフルな衣装の女性が出てきて、ゆったりと踊りました。もう一人女性が出てきて、3人でその横たわっている白い衣装の女性を起こして、祭壇の前の大きなくぼみの中に入れて、そこにスモークがたかれて見えにくくなりました。周りでは魔術のようなものをかけているようでした。
その周りに、カラフルな腰みのをつけた女性達がたくさんでてきて、囲んで飛び跳ねて踊りました。その真ん中で、客席から見えないうちに、白い衣装の女性は起き上がると白い長いドレス姿に変身していました。
先ほどの現代の少年が再び出てきて、太鼓を演奏している男性とともに歩きました。その少年の前で、白いドレスの女性がゆったりと踊りました。

それから、場面が変わり、セネガルのダンサーたちの激しく力強いアフリカン・ダンスシーンになっていきました。時々、叫びながら何かを歌っている方もいました。これはLes Ballets de la Renaissance Africaine “WAATO SiiTA”(セネガル)の“SABAR TRADITIONNEL / SABAR URBAIN”で、振付はMoussa Sonkoです。
男女のダンサーたちが終結して、1人ずつ順番に、ダンスバトルが繰り広げられました。ここでもすごく盛り上がりました。その後全員で踊り、飛び跳ね続けて激しく早いリズムで踊り、パワフルでした。全身がバネのようでした。すごい拍手と歓声で、盛り上がりました。
太古のアフリカで焚き火の周りに集まって一晩中飛び跳ねて踊り続ける儀式をしていたのだろうな、と思い浮かべるような激しいダンスでした。高くジャンプして、着地時にも足を踏みしめて、すごい高速で連続で、ジャンプと左右の足を交互に踏みしめるダンスを繰り返していました。ダンスバトルも激しいテンションで長く続き、すごかったです。あっけにとられるような、爆発しそうなパワーでいっぱいでした。さすが、この公演を締めくくる作品としてふさわしいです。大変な盛り上がりを迎えてから、全員が座って、ライトが消えました。

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ny1606a_05.jpg WAATO SiiTA featuring Moussa Sonko Photo Credit:Richard Termine

再びライトがついて、男性たちが、現代の少年役の子を持ち上げて、皆去り、その少年に最後の男性が「あとは頼んだぞ!」のようなジェスチャーをしてから、その男性も去りました。ライトが消えて終わりました。
またライトがついたら、ババ・チャック・デイヴィスのしめくくりの挨拶、そしてアブデルR.サラームのあいさつで皆一体になり、幕を閉じました。
今年も素晴らしい迫力で、本物のアフリカン・ダンスと生演奏を見ることが出来て、良かったです。
(2016年5月27日夜 BAM, Howard Gilman Opera House)