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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2016.03.10]

タップダンスがビートボクサーと競演、息つく間もない圧巻のステージでファンキーに観客を魅了

RAW Dance Company
RAW ダンスカンパニー

子供のためのブロードウェイショーを上演するNew Victory Theaterで、またまたホットなショーが行われた。オーストラリアはブリスベーンに本拠を置くRAW ダンスカンパニーによる『アンタップト(UNTAPPED)!』がそれ。ショーのタイトルとは裏腹に、これはタップダンスのショーだ。
タップダンスはアメリカに発祥したダンスで、もともとアフリカ系アメリカ人によって、ハーレムの道端でジャズ曲とともに踊られた。それが白人社会に受け入れられ、舞台や映画に取り込まれて、燕尾服を着たフレッド・アステアが、イブニングドレスを着たジンジャー・ロジャーズと共に優雅に踊る姿が代表的なイメージとなった。ブロードウエイで踊りたければ、タップが踊れることは最低条件の一つだ。が、正直なところ退屈なダンスだった。タップは人間の足を使った打楽器であり、複雑なリズムを完璧にこなすためには、上半身の動きはどうしても抑制された。しかし、そうしたタップダンスの限界を打ち破ろうと、アメリカのタップダンス界でもジャズダンスを取り入れたり、様々な取り組みが行われた。しかし、やはりアメリカのタップの主流はハーレム。老若男女を問わず多くの黒人フーファー達が、自らの文化と伝統を基にアメリカン・タップを築いてきた。それに対して、「これは、どうよ!」とばかり殴り込みをかけたかのようなショーが、このRAWダンスカンパニーのファンキーな舞台である。

ny1603Untapped02.jpg 『UNTAPPED』(c) Amanda Brenchley

ショーはホットなロックバンドの演奏で始まった。ビートボックサーのジェネシス・セレゾ(Genesis Cerezo)がMCを務め、ラップで5人のダンサーを一人ひとり紹介する。現れたセクシーなダンサーたちは、靴の裏のタップチップを利用して舞台の上を滑りながら、ヒップホップを取り入れた振付を踊る。パワフルなオープニングだ。

genesis01.jpg Genesis Cerezo

このショーは、この5人のダンサーたちと、ビートボックスのセレゾ、そして、ドラム、ギター、ベースの3人のミュージシャンのバンドで構成される。このダンスカンパニーの面白いところは、すべてが楽器であること。タップダンスは足を踏み鳴らして様々な音とリズムを作り出す。ビートボックスは人間の声と口を使って、複雑な音やリズムを表現する。この三つのスタイルの楽器の共演が見どころだ。
その典型的なナンバーと言えるのが、『Air Drums(見えないドラム)』。ドラムのソロの演奏に二人の男性のタップで始まる。息の合った二人のタップに、ドラマーのブレンダン・ラムナス(Brendan Ramnath)が撥をくるくる回しながらドラムを演奏。パワフルな共演が一息ついたところで、ダンサーが急にドラムを持って行ってしまう。
しばらくあっけに取られていたラムナスは仕方なく、撥で空中を叩く真似をする。と、空中からいろんな音が返ってくる。会場の子供たちが笑い出す。すっかり気を良くしたラムナスは空中を叩き続けると、リズミカルなビートがどんどん出てくるばかりか、ついには蚊が飛ぶ音や、それを殺すスプレーの音も出てくる。子供たちは大笑い。ラムナスが水を飲む真似をすると、ごくごくという音が聞こえる。空になった目に見えない瓶を投げると、あり得ない音が返ってくる。やがては携帯まで鳴って、収拾が付かなくなった時、舞台の袖からセレゾが現れ、これらの音は全て彼のビートボックスの演技だったことが分かる。
ビートボックスとダンスの共演が楽しめたのは、「ビートボックス・タップ(Beatbox Tap)」で、ビートボックスの演技に5人のダンサーが加わって、タップの音とセレゾの声で見事なリズムを作りだす。とても楽しくて、失礼な表現かもしれないが、タップのショーを見ているとは思えない。ヒップホップテクニックを入れた踊りを、それぞれのダンサーが競うが、タップとヒップホップの両方がこなせないと、とても踊れない振りだ。最後にダンスキャプテンのジャック・チェンバースがタップシューズで驚異的なマルチターンを見せて、喝采を得た。
また、楽器とタップの共演はジェレミー・オコナー(Jeremy O’Connor)が演奏するエレキベースと男女のタップデュエットによる「ベース・ラップ(Bass Rappin’)」。このナンバーではタップの打楽器性が強調された。また、ドラムのラムナスと男女のタップダンスの共演、「サンダー・ドラム(Thunder Drums)」では、タップはむしろ歌の様に聞こえた。打楽器にもなれば、メロディーにもなれるタップの多様さを披露したといえる。

ny1603Untapped03.jpg 『UNTAPPED』(c) Amanda Brenchley

5人のダンサーたちはいずれもしっかりした技術を備えており、全員が白い帽子を被って踊った「ハイ・ロウ・ハット(Hi & Low Hat)」では、スピーディーな振付に五月雨の様なタップや、靴のかかとや側面を使った技術をどんどん見せ、タップダンスの真髄を見せた。また、タップやヒップホップだけでなく、スパニッシュ・ダンスのナンバーも含まれ、モウリシオ・ホシ(Mauricio Hosi)のフラメンコ・ギターに男女が情熱的なフラメンコを踊る「パッション(Pasion)」も含まれていた。これも最後にはセクシーでファンキーな熱い仕上がりとなっていた。
ダンスの中には草履やダイビングのヒレを履いて踊る等、ユーモアと遊び心満載のナンバーも含まれていた。ペタペタした履物が創りだす余分な音が新しいリズムになったり、それを今度は手に持って膝を叩いたりしてリズムを作り出して、まさに遊びは創造、ちょっとした思い付きが音楽になって、ダンスとはかくも楽しいものだということを思い出させる。そんなアイデアの提示に子供たちの笑い声が絶えない。
ダンスの公演ではあるが、この舞台で何といっても注目を集めたのは、ビートボクサーのセレゾ。彼はワールド・ビートボックス・チャンピオンシップでオーストラリアを代表して出場、見事世界チャンピオンの座を獲得したほか、いくつもの賞を勝ち取っている。まさに驚異的なテクニックで、様々なリズムと音を表現するだけでなく、歌もうまい。セレゾは何度も観客を巻き込んで、ビートボックスを身をもって楽しませた。ショーも最後に近づいたとき、彼が観客にボランティア出演を募ると、子供たちがたくさん手をあげ、その中から9歳の女の子が舞台に上がった。セレゾは簡単なものからだんだん複雑なビートボックスを教える。「デュワッツ、ビップ、プシュー」と女の子頑張るが、セレゾは容赦なく難しくしていく。この舞台を見た子供たちの中から、将来のビートボクサーが生まれるかもしれない。
最後にバンドの演奏とビートボックスでダンサーたちがファンキーにタップダンスを踊った。観客は手拍子で加わり、ダンサーたちが一人一人前に出てタップテクニックを披露。大きなアクロバットを入れたり、女性はセクシーさを強調。舞台の上と下が一つになって、エネルギッシュなエンディングとなった。
休憩なしのあっという間の1時間の舞台。合計18のナンバーが、息つく間もなく踊り、演奏された。観客がスカッとした笑顔で出ていく、この劇場ならではの風景がこの日も見られた。
(2016年2月14日夜 The New Victory Theater)

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