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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2016.03.10]

マイヨーの斬新な表現と解釈によって描かれたモンテカルロ・バレエの『シンデレラ』

Les Ballets de Monte Carlo モンテカルロ・バレエ団
"Cendrillon (Cinderella)" choreographed by Jean-Christophe Meillot,
『シンデレラ』ジャン=クリストフ・マイヨー:振付

おとぎ話のバレエはたくさんあり、昔々のオリジナル版を真似することから始まり、さらに振付家の想像力が加わって少しずつ、あるいは画期的に変化して、様々なヴァージョンが世に送り出される。その都度、音楽の解釈、物語の解釈などが、ああでもない、こうでもないと論議が交わされる。こうして文化とは発展していくものだなあ、と思わせるのは優れた解釈と演出に巡り合った時だ。今回はそんな感動を与える舞台のひとつであった。

01_ny1603b_4675.jpg (C) Alice Blangero

モナコのモンテ・カルロ・バレエの『シンデレラ』の公演が、ニューヨークで2月18日から20日まで行われた。振付と演出は芸術監督のジャン=クリストフ・マイヨー。小さな子供に絵を描かせると、針金のような体に丸い頭を付けたものがよく見られる。今回の舞台はそれを想像させる、ミニマリスト的ともいえるシンプルかつ抽象的ですっきりしたセットと衣裳に、しっかりしたクラシックテクニック、そして大胆な振付と解釈で構成された。音楽は他の大手バレエ団でも使用される、セルゲイ・プロコフィエフの『シンデレラ』である。今回のマイヨーの製作で一番独創的だったのは、シンデレラの母親に注目し、シンデレラを導く妖精と結びつけていることだった。
舞台は、シンプルな大きなパネルを数枚立てたものに手書きの手紙が映写されている背景の前で、椅子に座ったシンデレラ(アーニャ・バーレンド Anja Behrend)が白いドレスを抱きしめているところから始まる。その後ろでシンデレラの若い両親のデュエットが白いシンプルな衣裳ではつらつと踊られる。母親(小池ミモザ Mimoza Koike)は何度も心臓の不調を示すかのような表現しながら踊り続け、ついに倒れて死んでしまう。その瞬間、天井から銀の粉が舞い落ちて、美しく死を表現した。その母親が着ているドレスがシンデレラが抱きしめているものだと分かる。悲しみと怒りにくれるシンデレラをいたわる父親(アルヴァロ・プリート Alvaro Prieto)。父親は物語を通じて、シンデレラを庇い、愛する存在として描かれている。

06_ny1603b_4937.jpg Victoria Ananyan , Anna Blackwell (C) Alice Blangero 05_ny1603b_5410.jpg 小池ミモザ, Alvaro Prieto (C) Alice Blangero

岩の様なパネルが動いて場面転換すると、そこはシンデレラの家。昔の水着の様な奇妙な衣裳を着た継母(マウド・サボラン Maude Sabourin)と姉たち(アンナ・ブラックウェル Anna Blackwellとヴィクトリア・アナニアン Victoria Ananiyan)が、灰色のシンプルなドレスを着たシンデレラを苛めている。何とかうまくやろうとするシンデレラ。シンデレラを庇って苦悩する父親は、結局新しい妻の色香に負ける。そこへ大きなマントに頭巾を被った老婆が舞踏会の招待状を届ける。マントを取ると、きらきら光るラメを全身に散りばめた美しい妖精(小池ミモザ)の姿が現れる。妖精に母の面影を見つけたシンデレラは懐かしがる。妖精はシンデレラにも招待状を渡す。
全面鏡のパネルの前で継母と姉たちが従僕を追い立てて、大わらわで着飾って出かける準備をするさまが滑稽に描かれる。二人で一人前のチュチュやドレスなど、奇想天外な衣裳で、女たちはうきうきと出かけようとして、自分も行こうとするシンデレラに呆れ果てる。連れて行こうとする父親を継母が色仕掛けで惑わせ、シンデレラに用事を言いつけて出かけてしまう。

07_ny1603b_5001.jpg G Oliveria , A Oliveria, M Sabourin (C) Alice Blangero

舞踏会の準備中の宮殿では、ハンサムだが冷めて退屈している王子(スティーブン・ボウゴンド  Stephan Bourgond)が友人たちと踊る。友人の手配で3人の女性が現れて一緒に踊るが、王子は興味がない。
シンデレラの家では、妖精がシンデレラにヴィジョンを見せる。奇妙な着ぐるみを着たような、男性ダンサーたちによって、ガラスの靴を履いたシンデレラと王子の物語がユーモラスに語られる。妖精はシンデレラを母親のガウンに着替えさせ、ガラスの靴は妖精の従僕たちがシンデレラをリフトして足を水桶の中に浸させ、再びリフトした時に、裸足の両足はきらきらしたラメに包まれて現れるという形で表現された。カボチャの馬車はなく、妖精の後を追ってシンデレラが走り去る事で宮廷への出発を描いた。

宮廷の広間には、上手から中央にかけてゆがんだ階段が設置され、向かって右側は階段がついているが、左側はなだらかな坂になっていて、まるで砂の階段の様だ。妖精が最初に現れ、続いて登場人物が現れる。王子は階段がなだらかになっている側を滑り下りる。王子に気に入られようと女たちが踊る。奇妙な衣裳の継母が王子に抱きついたり、王子と踊りながらいささか破簾恥な視線を送る二人の姉など、彼女たちのなりふり構わぬ野心が描かれる。
マイヨーは二つの目的を持ってこの場面に妖精を出現させている。一つは王子とシンデレラを出会わせること。もう一つは、父親にシンデレラの母親との再会を果たさせることだ。この製作では、妖精はほぼずっと舞台にいる。
妖精が王子に目隠しをすると、シンデレラが現れる。白いドレスにラメの素足。戯れるような二人のデュエットが踊られる。委縮するシンデレラの背中を押す妖精。そして、妖精に死んだ妻を発見する父親。シンデレラのカップルと父と妖精のカップルのユニゾンのデュエットが踊られ、二組が同じ振りを踊っているが、それぞれ別の物語りを踊っていると分かる。ある時点で妖精は継母と入れ替わり、父親が幻想を見ていると分かる。

02_ny1603b_5222.jpg Anja Behrend, Stephan Bourgond (C) Alice Blangero 04_ny1603b_4866.jpg Gabriele Corrado, 小池ミモザ (C) Alice Blangero

互いに惹きつけられたシンデレラと王子のデュエットは、恋の予感にアドレナリンが溢れるものだった。歓喜にあふれる二人の踊りではない踊りは官能的ですらあり、マイヨーの素晴らしい振付と、ダンサーたちの優れた表現が際立った。そして二人は熱烈なキスを交わす。
やがて運命の時刻が来る。シンデレラに帰るように言う妖精。ついに12時の鐘が鳴る。混乱する宮中を走り去るシンデレラ。残されたガラスの靴は、階段の上に差し出された光るシンデレラの足に照明のスポットが当てられて表現された。追いかけた王子は階段を滑り落ちる。

シンデレラを捜して王子が旅に出る場面は、背景のパネルを一列に並べ替えてバタバタと風を受けているようにゆすり、その前に大きな青い布を一枚大きくなびかせて、船に乗って旅をするさまを表現。シンプルだがしっかり意味を伝えて観客を笑わせた。王子は女性に靴を履かせるのではなく、足を見るだけで本物かどうかを判断する。ここでも妖精が導くさまが表現されている。
シンデレラの家では、姉たちが顔と足を包帯で巻いている。王子一行が来ると、継母は娘たちの足の包帯を取るが、醜く爛れて腫れ上がっている。シンデレラが光るガラスの足で現れ、再開のデュエットが踊られる。父と王子にリフトされて空中を輝く足で歩くように浮遊するシンデレラ。

二人が去った後、父親は妻のドレスを見つける。懐かしさにくれる彼の後ろから死んだ妻が現れ、デュエットを踊る。しかし、それもやはりヴィジョンだった。亡き妻のガウンを持つ夫を責める継母の首を、父親は思わず締めそうになり、思いとどまる。ついに継母の色香の罠から抜け出る父親。その時、金の粉が天井から舞い降り、金の衣裳を着た王子とシンデレラが階段をのぼりながら、熱烈なキスをして、結婚する様が表現される。父の手には白いガウンが残されていた。

03_ny1603b_5292.jpg Anja Behrend,Stephan Bourgond (C) Alice Blangero

シンデレラ役のバーレンドは長い長いラインを持った美しいダンサー。また、日本人の小池ミモザも非常に美しいラインと強いテクニックを持った存在感のあるダンサーだ。マイヨーのコンテンポラリーだがクラシックテクニックを大切にした振付で、明確にストーリーが進む一方で、思い切った動きの冒険も多く見られて面白い。バレリーナの美しい足をガラスの靴にしたのも、素晴らしいアイデアだ。この製作では本来の物語に、シンデレラの父親と母親の純愛、そして母親のシンデレラへの愛というサブストーリーが加わった分、幅が広くなり、終わった時に何とも言えない感動が残った。
(2016年2月20日夜 New York City Center)