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針山 真実 text by MAMI HARIYAMA 
[2015.12.10]

涙する人さえ見受けられた、シルヴィ・ギエムのニューヨーク公演

Sylvie Guillem シルヴィ・ギエム
Life in progress 「ライフ・イン・プログレス」(進化し続ける人生)

バレエをするもの、シルヴィ・ギエムを知らないものはいない。
「彼女のようなキャリアを持つダンサーは他にいない」とニューヨーク・タイムズ紙にもあった。
パリ・オペラ座バレエ学校時代に天才クラッシック・バレリーナとして、世界から注目を浴びて多くの人を驚かせた。私も初めてシルヴィの踊りを見た時はこの人は一体何者かと、同じ人間なのかと衝撃を受けた。
19年間ロイヤル・バレエ団で踊り、クラッシック・バレエ界の歴史に名前を刻み、その後コンテンポラリー・ダンスに転向。現在50歳のシルヴィ・ギエムは踊りから引退を決意し、現在その引退公演で世界中を回っている。
50歳という年齢はダンサーとしてはかなり高齢だ、でも彼女はシルヴィ・ギエム。どんなものを見せてくれるのかと期待が高まった。

最初の作品『テクネ』は、引退するシルヴィのために作られ、シルヴィがたいへん関心を持っているというエコロジー活動、生物とその環境をテーマにしている作品だ。
真っ暗な舞台に一本のワイヤーで出来た木。
シルヴィ・ギエムが蜘蛛のように現れる。地面を這う大きな蜘蛛の様に動く彼女に目は釘づけになった。
スカートから見える足の洗練された強い筋肉、腕の細かい関節一つ一つを自由に動かして表現される巧みな動き、始まってすぐに期待以上だと興奮した。パーカッションの熱い生演奏とシルヴィのスピーディーな動きに更に私の興奮が高まった。
この動き、この身体、やはり彼女はダンスを踊るために生まれてきたのだと改めて思った。
『デュオ2015』は無音で始まりしばらく長い間無音が続く。
髭をはやしダボダボのシャツとラフなパンツを着けた謎の二人の男性が現れる。
無音なので二人でタイミングを合わせて動き始め、ジャンルを決め難いバレエでもモダンでもない型のない動きを、二人は互いに掛け合いのように続ける。この二人がまたよく動き、良く踊り、体が非常に柔らかく、身体能力がとても高い。ニューヨークの観客たちを大いに惹きつけていた。
『ヒア・アンド・アフター』はシルヴィとエマヌエラ・モンタナーリの二人の女性のデュオ。初めは蜘蛛の巣のようにも見える網目の照明の中で二人が絡み合いながら動く。
だんだん網目の照明が広がって行き二人の動きも激しくなっていく。升目の照明になると二人は升目を移動しながら照明の変化を生かして踊る。初めのシルヴィの踊りにインパクトがありすぎて、この作品の印象が少々薄くなってしまった。

最後の『バイ』は振付家の才能が素晴らしい。一人の女性が部屋に入ってくる。スクリーンに映し出される自分の姿を見て、何かを思ったかのように踊る。振付とピアノがとてもよく合っている。衣装はスカートにシャツという質素なものだが、シルヴィというダンサーが着るとその平凡なスカートさえ生きる。今の年齢の今のシルヴィだからこそ出せる表現と雰囲気があり、この作品はより深まったのだろうと思う。周りには涙してみている人さえいた。
今回の公演は私がまだニューヨークに来て間もないころに見たシルヴィよりも格段に良かった。これだけ踊れてまだまだ人々に感動と衝撃を与えられる彼女、引退後は本当にダンスから離れることが出来るのだろうか。
(2015年11月12日 ニューヨーク・シティ・センター)

1510guillem_BYE01.jpg  「バイ」photo/Bill Cooper(写真は 以前の公演より)

『テクネ』Techně
振付:アクラム・カーン
音楽:アリーズ・スルイター
演奏:プラサップ・ラーマチャンドラ、グレイス・サヴェージ、アリーズ・スルイター
出演:シルヴィ・ギエム

『デュオ』Duo(new version 2015)
振付:ウィリアム・フォーサイス
音楽:トム・ウィレムス
出演:ブリーゲル・ギヨーカ、ライリー・ワッツ

『ヒア・アンド・アフター』 Here & After
振付:ラッセル・マリファント
音楽:アンディ・カウトン
出演:シルヴィ・ギエム、エマヌエラ・モンタナ―リ

『バイ』Bye
振付:マッツ・エック
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第32番ハ短調作品111アリエッタ
出演:シルヴィ・ギエム