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ブルーシャ西村 text by BRUIXA NISHIMURA 
[2014.01.10]

静と動、絶妙のタイミング、完璧の間合いで踊ったアクラム・カーン『デッシュ』

Akram Khan Company アクラム・カーン・カンパニー
"DESH" by Akram Khan 『デッシュ』アクラム・カーン:演出・振付・出演

10月24日から11月23日まで、リンカーンセンター主催のホワイト・ライト・フェスティバルが開催されていました。そこにいくつかのダンス・カンパニーが招聘され、ダンス公演がありましたのでレポートします。
11月6日と7日には、アクラム・カーンの公演、『デッシュ』(2011年初演)がありました。舞台監督、振付はカーン自身によるもので、出演ダンサーはカーン一人だけのソロ公演。休憩なしのノンストップで、1時間20分の作品でした。
舞台美術、衣装、映像はティム・イップ、音楽はジョスリン・プークです。

ny1401c01.jpg Photo Credit: (c) Stephanie Berger

アクラム・カーンは、バングラデッシュ系イギリス人で、今、最も注目されているコンテンポラリー・ダンスの振付家の一人です。シルヴィ・ギエムとのデュオや、ジュリエット・ヴィノシュと共演しています。2012年のロンドン・オリンピックの開会式のダンスの振付と演出を手がけて、自身も出演しました。
カーンは、広い舞台の空間と時間を、ソロで飽きさせずに持たせるほど、迫力のある舞台を創りました。もともと、カタック(インドの古典舞踊)からダンスの経歴をスタートさせたカーンは、やがてカタックとコンテンポラリー・ダンスを融合させて独自のスタイルを完成させ、民族色の強いスタイルとメッセージ性を強く打ち出しています。
伝統的で普遍的なダンス、かつ現代的なダンスがほどよく融合されていて、他では観たことがないような独特な表現です。また、映像、凝った舞台セット、宙吊りになる大掛かりな舞台装置も駆使して、ダンスという枠を飛び越え、一つの完成した舞台作品として見ごたえのある公演を行っています。
公演のタイトル『デッシュ』は、ベンガル語でホームランド(母国)という意味の言葉。カーン自身のルーツをたどる物語のような作品で、自身の父親、母親の様子やエピソードも登場しました。カーンが語るセリフも多く、とても演劇色の濃いダンスでした。

ny1401c002.jpg Photo Credit: (c) Stephanie Berger

最初は、舞台真ん中につくられた小さな土の盛り上がりのところへ、巨大な金づちのようなものを何度も振り下ろし、ものすごく大きな音が響き渡りました。何度も何度も繰り返しました。まず音の大きさで、客席は驚いて圧倒されるところから始まりました。
ダンスは立って踊る部分だけではなく、寝転がったり床をはいずりまわったりするところも多く、また、後半は舞台高く宙吊りになって動き回るところもあり、空間の使い方が低いところから高いところまで縦横無尽に広く、ダイナミックでした。
後ろ向きに歩いていって、踊りながら後ろへ進んでいったり、激しく動いたり変わった動きをたくさんしていました。
激しく動くところと、静かに止まるところ、セリフだけで表現したり、ダンスだけを踊ったり、静と動のバランスと間合いが絶妙で、素晴らしかったです。
ちょうど良い、一番最適な長さでじっと静かに止まるタイミングがピタッと決まっていて、それが全て舞台全体を通してずっと最適なまま続いたので、感心しました。
カーンがコンテンポラリー・ダンスとして世界的に注目されて成功しているのは、この彼独特の静と動の最高のバランスがとても上手いという理由も多いにあるのではないかと感じました。全体を通して、間合いが悪いところが1秒たりとも一つもなく、全て、完璧な間合いとタイミング、バランスだったので、すごいと思いました。これは、上手くバランスをとろうと努力してもなかなか出来ないことだと思うので、カーンは天性の、間合いのバランスと美をつかむ才能が秀でているのでしょう。とにかく、最初から最後まで、全てが完璧にピタッと決まっていました。
ピントがゆるい印象の動きが一つもなかったのが素晴らしいです。これが、一流のパフォーミングアーツの違いかと思いました。

ny1401c005.jpg Photo Credit: (c) Stephanie Berger

客席を大笑いの渦に巻き込んだシーンもあり、印象に残っています。カーンはスキンヘッドなのですが、その広い頭頂を生かして、その部分に顔(目、鼻、口?)を黒く太く描いてありました。途中、カーンは座って、顔を下に向けて頭頂の部分を舞台から客席に向けて、その描いた顔のアゴにあたる部分(カーンのおでこのあたり)を片手の親指と人差し指を当てて、まるでアゴに手を当てて考えごとをしているようなポーズをつくって、セリフを言い続けて演技をしていました。そのままの頭と手の姿勢で、立ったり座ったりあぐらをかいたりして、演技をしばらくし続けていました。パントマイムのようでした。

後半は圧巻で、舞台上いっぱいに張られている薄い蚊帳のようなスクリーンに、風景のようなアニメで動く映像が流れ続け、その背景の絵にあわせてカーンが動き続け、途中は宙吊りになったりしていました。
舞台上のほうから紙を縦長に切ったようなものが一面につる下げられた装置が少しずつ降りてきて、その中にカーンが入って動き回るところも、迫力がありました。
すごい拍手に包まれて、客席は大勢が立ち上がり、感動していました。ソロで飽きさせずに迫力のある演出をしていて、素晴らしかったです。
(2013年11月6日夜  ジャズ・アット・リンカーンセンター、Frederick P. Rose Hall)

 

ny1401c003.jpg Photo Credit: (c) Stephanie Berger ny1401c004.jpg Photo Credit: (c) Stephanie Berger
ny1401c006.jpg Photo Credit: (c) Stephanie Berger