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ブルーシャ西村 text by BRUIXA NISHIMURA 
[2014.01.10]

ABT『くるみ割り人形』のクララを繊細に踊り完璧だった加治屋百合子

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター
”The Nutcracker ” Choreography by Alexei Ratmansky
『くるみ割り人形』アレクセイ・ラトマンスキー:振付

12月13日から22日まで、ブルックリンのBAMにて、ABTの『くるみ割り人形』の公演がありました。毎年、クリスマス時期が近づくと、ニューヨークでもあちこちで様々な『くるみ割り人形』が上演されます。
私が見たのは、12月18日の公演です。大人のクララ役は加治屋百合子、大人のくるみ割り人形(王子)役はジャレッド・マシューズ。ナニーと金平糖の精の役は、コートニー・ラヴィーンでした。休憩をはさんで2幕で構成されており、第1幕が4つのシーン、第2幕は金平糖の精(シュガープラム・フェアリー)の王国のシーンです。
BAMは、普段のニューヨーク公演のメトロポリタン・オペラ・ハウスよりも小さめの劇場で、客席と舞台の距離がとても近いため、ABTのダンサーたちの踊りを至近距離で見られます。オーケストラ・ピットが舞台と客席の間に無いため、迫力満点なうえ、踊りの細かいところまでしっかり見えやすくて、勉強にもなります。
音楽は普段のように生演奏でしたが、オーケストラは舞台から見えないところに控えていて演奏していました。

BAMの演出では、子供のクララ(少女)とくるみ割り人形(少年)が、全体を通してほとんど出演して、彼らも簡単な踊りをします。時々、少しだけメインの踊りのシーンで、大人のクララとくるみ割り人形が出てきて踊ります。
印象に残ったところを書きます。この演出は、ところどころにコメディのような笑わせるギャグを入れてあり、客席では時々、大勢の人々がすごく受けて大笑いしていました。ABTのバレエにしては、いつもと雰囲気が違って、とても楽しくて面白い公演です。ねずみの群れの中に1匹、やんちゃな子ネズミが混じっていて、それを小さな男の子が着ぐるみをかぶって演じていたので、とても可愛かったです。この子ネズミがちょこちょこ出てきて動く度に、お客さんたちは大笑いしていました。
クリスマスパーティが終わってゲストたちが帰り、みんな寝静まった後に、クララは寝かせたくるみ割り人形を見にきました。時計が夜中12時になったら、クララは人形たちと同じくらいの大きさに、小さくなってしまいました。これをABTの演出では、舞台の高さいっぱいの巨大なイス(舞台セット)の上にクララがちょこんと乗っていることで表現しています。
ねずみの大群がでてきて、頭が7つあるネズミのキングに対して、おもちゃの兵隊やくるみ割り人形たちは戦います。ネズミのキングとくるみ割り人形は一騎打ちになりましたが、なんとかキングをやっつけました。みんな去っていったあとで、くるみ割り人形は倒れていました。
クララ(少女)とくるみ割り人形(少年)が舞台前方にいて、その舞台後方に大人のくるみ割り人形(王子、マシューズ)とクララ(加治屋)がここで登場して、パ・ド・ドゥを踊りました。特に加治屋はとてもにこやかで表情も豊かで、手や肩、首の動きもエレガントでなめらかな完璧の踊りで美しかったです。とても丁寧に繊細に踊りました。動きが一つ一つ、とても正確で余裕がありました。

ny1401b01.jpg Photo:by Gene Schiavone.

子供のクララとくるみ割り人形の2人だけになり、やがて林の中で、雪が降ってきました。だんだん雪が強くなり、一人、二人と順番に雪の精たちがでてきました。第1幕で一番美しく印象に残る、雪の精のコール・ド・バレエの踊りです。6名ずつ出てきて、だんだん増えていきました。白っぽい、シルバーがかったキラキラしたパニエの衣装で、フワフワしてとても軽やかで、雪の精の雰囲気がよくでていました。6名ずつのかたまりで4回、重なって次々に出てきてだんだん人数が増えながら、重なりながら踊り続け、24名の大人数が舞台上で同時に踊り、圧巻の大迫力でした。シェネとピルエットが続き、回転が多く、流れるように早い踊りで、吹雪を表しているようです。コール・ド・バレエですが、皆さん、とても踊りのレベルが高くて美しかったです。日本人の小川華歩、相原舞(今年12月にABTに入団)もここで踊りました。ABTのコール・ド・バレエは、他のバレエ・カンパニーならプリンシパルのレベルのような実力だと感じます。雪の精の皆さんはとても上手に踊って、美しくて、鳥肌が立つくらいでした。素晴らしい音楽とメロディと、舞台天井から降り続ける粉雪と群舞が合わさって、幻想的できれいで、癒されました。
クララもくるみ割り人形の少年も、雪の精たちに手をつかまれたりしてからまれて、2人は凍えてきてしまいました。美しい中に、ちょっと恐ろしいシーンです。そこに黒マントを着たドロッセルマイヤーが銀色のソリでやってきて雪の精をはねのけて、2人を助けて乗せて、無事に連れて帰りました。

ny1401b03.jpg Photo:by Gene Schiavone.

第2幕は、クララとくるみ割り人形が金平糖の精の王国、お菓子の国へ招かれてやってきました。様々な国の踊りが披露されていく、有名なシーンです。スパニッシュの踊り、アラビアの踊り、ロシアの踊り、中国の踊り、葦笛の踊り、花のワルツなどです。たくさんの踊りが続いて、楽しくて美しいシーンです。
再び、最後の方で、大人のクララ(加治屋)とくるみ割り人形(王子、マシューズ)がパ・ド・ドゥを踊りました。加治屋の踊りは完璧で、静止するところもピタッと決まり、余裕があってとても丁寧です。マシューズもとても上手で身軽で、ジャンプしてもどのように激しく動いても、着地の音がほとんどしないのです。とても静かにピタッと着地します。ジャンプして動き回ると、ダンサーによってはドスンと音を立てて床に着地する場合も多いのですが、マシューズはほとんど音を立てません。それだけ、全身を上にアップさせていて、上半身を特に上に引き上げて丁寧に踊っています。加治屋は、とてもにこやかにお辞儀をしていて、嬉しそうでした。観ていて感慨深く、幸せな気持ちになりました。

最後は、子供のクララが朝、部屋でベッドの上で目を覚まして、くるみ割り人形の少年も大人の王子も消えてしまいました。幻か夢の世界が全て消えて現実の世界に戻され、クララは泣いてしまっていました。枕の下からくるみ割り人形が出てきて、クララはほっとして思い出しているところに、後ろの窓の外からドロッセルマイヤーが歩いていて、一瞬そっとのぞきこんで通り過ぎて、去っていき、幕が閉じて終わりました。
ABTの演出はとても楽しくてジョークに満ちていて、しかも踊りのレベルも高くて、幻想的で、日常を忘れて客席も別世界へ連れられていくようで、楽しめます。美しい公演を観させていただいて、しばらくはその良い余韻が続きました。
(2013年12月18日夜 BAM Howard Giliman Opera House)

ny1401b02.jpg Photo:by Gene Schiavone.キャプション