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ブルーシャ西村 text by BRUIXA NISHIMURA 
[2013.10.10]

現代アーティストのペル・キルケビーとコラボレーションしたマーティンス版『白鳥の湖』

New York City Ballet(NYCB)ニューヨーク・シティ・バレエ
“Swan Lake” Choreography by Peter Martins, after Marius Petipa, Lev Ivanov and George Balanchine
『白鳥の湖』振付:ピーター・マーティンス(アフター マリウス・プティパ、レフ・イワノフ、ジョージ・バランシン)
Scenery and Costumes by Per Kirkeby 舞台セットとコスチューム:ペル・キルケビー

9月17日から10月13日まで、リンカーンセンターで、ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)の公演があります。音楽はすべて、ニューヨーク・シティ・バレエ・オーケストラによる生演奏です。
このニュ−ヨーク公演が終わってから10月後半に、ニューヨーク・シティ・バレエは訪日公演を行います。東京公演は10月21日〜23日、大阪公演は10月26日、27日です。
9月18日夜に『白鳥の湖』の公演を観ました。今回のNYCBのマーティンス版『白鳥の湖』は、1回の休憩をはさみ2幕で構成されていました。このマーティンスの演出による『白鳥の湖』は、1996年デンマーク・ロイヤル・バレエ団初演です。NYCBの初演は1999年です。
舞台セットと衣装は、デンマークを代表する現代アーティストのペル・キルケビーによるものです。衣装デザインは、ペル・キルケビーのコラボレーションによってキルスティン・ルンド・ニールセンと共に手掛けました。ペル・キルケビーは1938年、デンマークのコペンハーゲン生まれで、地理学を専攻した後に美術を学んだ画家、彫刻家であり、作家としても活躍しています。生で鑑賞する機会には、この舞台セットと衣装にも同時に注目して観ると、さらに美術の面でも楽しめます。
NYCBは時々、著名な画家やアーティスト、ファッション・デザイナー、ミュージシャン(ポール・マッカートニーなど)などとコラボレーションして、単なるバレエではなく、さらに舞台芸術として完成度を限りなく高めて上演します。過去にも数々のコラボの演目があり、とても贅沢です。特に近年のNYCBは、その時期で最も注目されているアーティストたちが舞台背景や衣装デザインを手掛けていて、最高の美術とデザインと音楽、最高のバレエダンサーたちが一体となって舞台全体を創っています。

今回は古典の『白鳥の湖』で、著名な現代画家が舞台セットを手掛けているので、舞台全体に彼の抽象画の世界が広がっていました。舞台背景は抽象画なので、くっきりとしたダンサーとのコントラストが浮かび上がって見えました。自然にダンサーの動きへと意識が集中して、観やすかったです。
衣装のデザインも現代的で、特に、白鳥のコール・ド・バレエはスソが横にピンと広がったチュチュではなく、スソが下にやわらかく垂れているパニエ(ロマンティック・チュチュよりもスソが短くひざ上、色は白一色)でした。主役のオデット姫だけ、クラシック・チュチュでした。オデットが頭に乗せている小さなティアラは、端が広い角度で放射状に広がったデザインでした。
主役のプリンシパルは、アシュレイ・ボーダー(オデット、オディール役)、アンドリュー・ヴィエット(ジークフリード王子)です。他に出演したプリンシパルは、第二幕のパ・ド・カトルにアナ・ソフィア・シェラーとゴンザロ・ガルシア、ロシアの踊りにジャニー・テイラーとアスク・ラ・コールです。

ny1310a01.jpgPhoto : Paul Kolnik

第一幕は、お城の庭で、ジークフリート王子の21歳の誕生日に友人たちが招かれて、祝福の踊りを披露するシーンです。道化師(トロイ・シューマッハ)たちが踊り、場を楽しませていました。王妃(ジークフリートの母)が登場し、金色のアーチェリーをジークフリートにプレゼントしました。
男女20名くらいとジークフリートが、全員がワイングラスを片手に持って踊りました。
その後、ジークフリートは物思いにふけっていましたが、やがて友人たちとアーチェリーを持って狩に出かけました。ジークフリートが湖のほとりにいると、白鳥が現れ、追いかけると白鳥は逃げて、また追いかけて、ペアで少し踊りました。そこに悪魔ロットバルトが現れて、その白鳥を連れ去りました。ロットバルト役のサイラス・ファーレイは実習生ですが、とても存在感がありました。長身の黒人系のダンサーで、ロットバルトがピッタリはまっていました。
夜に月明かりが差す中、白鳥が一羽ずつ、たくさん次々に出てきて増えて、集まってきます。幻想的な、有名なシーンです。
月明かりの中、白鳥達が踊りました。大勢の白鳥の群舞は迫力があり美しかったです。ダンサーたちが全員スラッとして手足が長く、スタイルの良い白鳥が揃っていて、絵になります。ワルツの曲でゆったりと6名の白鳥の踊りがあり、また群舞の白鳥の踊りがありました。そして、オデットに惹かれたジークフリートとオデットの踊りがありました。ボーダーは、悪魔の呪いで白鳥の姿に変えられてしまった深い悲しみの演技が見事でした。とても切なく、悲しそうです。静止するところが巧みで、軸が安定しています。アラベスクもきれいにピタッと決まっていて、丁寧な踊りでした。
振付は、大まかな部分は古典のプティパ&イワノフ版と同じで、それがほとんど生かされていました。
群舞の白鳥たちの前に、オデットはシャンディマン、パッセ、シェネを繰り返して前にでてきて真ん中で踊り、ジークフリートがオデットをリフトして止まり、すごい拍手につつまれました。でもオデットは去ろうとしていて、ジークフリートは必死に求愛して引きとめて、オデットは苦しそうに訴えていました。悲しみと苦しみに満ちたように、また2人で踊りました。それでも、オデットは去らなければなりません。そこにロットバルトが出てきて、大勢の白鳥たちもオデットも共にみんな舞台の上手に去っていってしまいました。
一人残されたジークフリートは宙を見つめて、手で宙をつかんで苦しそうに止まり、そこでそのまま幕が閉じました。

ny1310a02.jpgPhoto : Paul Kolnik

第二幕は、お城で、ジークフリートの花嫁を選ぶための舞踏会のシーンから始まりました。各国からお姫様が招待されていました。ロットバルトが、黒鳥の姿に変えた娘のオディールと共に現れました。オディールをジークフリートはオデットだとだまされてしまいます。
お姫様たちはお供の人々と共に、順番に踊りを披露していきましたが、それぞれ、衣装デザインは色使いも現代的で、良かったです。続いてハンガリーの踊り、ロシアの踊り、スペインの踊り、ナポリの踊りです。
ジークフリートとオディールのパ・ド・ドゥは、安定した踊りでとても素晴らしかったです。ボーダーはオディールとして黒鳥らしく、荒々しい激しい気性を大げさなほど強く表現していて、バッサバッサと両腕を強く動かしていました。優雅な白鳥のオデットとは全く正反対の様子を、分かりやすく表していました。ロットバルトがオディールのところに近寄って耳打ちしました。そしてジークフリートのソロの大ジャンプ、オディールのソロの難易度の高い技が続きました。この黒鳥の32回転(1回転と2回転を混ぜて連続していた)は、軸がブレず安定していて美しく決まりました。オデットは後ろで苦しみ、ロットバルトとオディールは喜んで立ち去っていきました。

場面は森の中の湖のほとりに変わり、大勢の白鳥達が羽をたたんで寝そべって休んでいます。月明かりの中にぼーっと浮かんでいるたくさんの白鳥がとても幻想的なシーン。オデットが苦しそうに踊ります。ロットバルトが四羽の黒鳥と共に出てきて、オデットにマントを振りかざす。彼らが去るとジークフリートがオデットを必死で探します。
やがてオデットを見つけてパ・ド・ドゥを踊ります。オデットは魔法が解けなくなり、力が尽きかけていて、2人は苦しそうに悲しみとやるせなさを表現しました。繊細な踊りです。オデットはジークフリートを振り切ろうとして避けますが、激しく求愛されて、2人で抱きしめあってポーズで静止しました。その2人の間にロットバルトが何度も入ってきて邪魔をしようとしますが、それでもオデットとジークフリートは抱きしめあい、2人の愛の強さにロットバルトが苦しみだして倒れました。
オデットとジークフリートは2人で愛の高まりを踊って表現しますが、オデットにかけられた呪いの魔法は解けず、とうとうオデットは、朝日が差してき始めた舞台上手のほうへ去っていってしまいます。白鳥の群れは同じ朝日の方向へ去ります。朝日が差し込んで光が強くなってきて、白鳥たちが幻想的に照らし出されて、美しいシーンです。またオデットとジークフリートは抱きしめあいますが、オデットは離れて、去ってしまいました。
ジークフリートは追いかけようとしますが、みんな消えてしまい、一人その場に残されて、しゃがみこんで、手を胸に当てて上を見つめているところでそのまま幕が閉じました。
悲劇の終わり方ですが、マーティンス版では、はっきりとは2人とも湖に身を投げたわけではなく、様々な解釈の余地があります。
(2013年9月18日夜 リンカーンセンターDavid H. Koch Theater)