ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From New York <ニューヨーク>: 最新の記事

From New York <ニューヨーク>: 月別アーカイブ

針山 真実 text by MAMI HARIYAMA 
[2013.06.10]

ヒー・セオ、ヴィシニョーワ、ドヴォロヴェンコなどがタチアーナを踊ったABT『オネーギン』

AMERICAN BALLET THEATRE(ABT) アメリカン・バレエ・シアター
“Onegin” by Johon Cranko 『オネーギン』ジョン・クランコ振付

5月13日のオープニング・ガラに続いて、14日から20日までアメリカン・バレエ・シアターがメトロポリタン・オペラ・ハウスで『オネーギン』を上演した。
主要キャスティングには一番新しい女性プリンシパルのヒー・セオとデイヴィッドト・ホールバーグ、ヴェテランペアのディアナ・ヴィシニョーワとマルセロ・ゴメス、そしてこの『オネーギン』のパフォーマンスを最後にABTを引退するイリーナ・ドヴォロヴェンコとコリー・スターンズのペアなどがキャスティングされた。
3組のタチアーナとオネーギンの舞台を、観ることができたのでレポートする。

ny1306a01.jpg Photo by Gene Schiavone

韓国出身で昨年同バレエ団のプリンシパルとなったヒー・セオが演じたタチアーナは、とてもシャイで物静かな女性で常に何かに怯えているような感じさえした。
タチアーナが恋に落ちるオネーギンを演じたデヴィッド・ホールバーグの演技は少し冷たすぎるような気がした。彼の演技に笑顔はまったく無かった。オネーギンという男性はそんなに気難しい男性だったのかと考えた。常にオネーギンの立場が圧倒的にタチアーナより上になっているような演技だったので、この振る舞い方ならタチアーナが常に少し怯えていても仕方ない。
1幕の最後のタチアーナの夢の中のシーンで、2人が愛し合って踊るパ・ド・ドゥも、もう少し2人の愛が感じられたら良かったと思った。しかし2人ともとても美しいラインの持ち主で、とくに甲のしなりは目を見張る。足を一歩出すだけでもラインの美しさが見られた。
タチアーナの妹、オルガを演じたソリストの加治屋百合子は、とても可愛らしく明るい性格のオルガを自然に演じ、生き生きとしていて役柄にピッタリ。彼女は芯が強くコントロールの効くダンサーなので踊りに余裕があり、いつも安心して見られる。
加治屋の相手役だったジョセフ・ゴラックは、今おそらく最も期待されているダンサー。まだコール・ド・バレエなのだがデヴィッド・ホールバーグに劣らない美しいラインを持つダンサーで今後の活躍が楽しみ。
(2013年5月15日 メトロポリタン・オペラ・ハウス)

ny1306a02.jpg Photo by Gene Schiavone

ディアナ・ヴィシニョーワが演じたタチアーナは、控えめな女性だがオネーギンに恋に落ちたところは一目瞭然。少し恥ずかしがりながらもオネーギンを見つめて想う姿がとても美しい。
そしてマルセロ・ゴメスが演じたオネーギンは好青年という印象で、彼の演技は冷たくも無く浮かれてもいない、このくらいがちょうどいいオネーギンなのではないかと思った。
何と言ってもこの2人のパ・ド・ドゥは圧巻。1幕の最後の見所のパ・ド・ドゥと3幕の最後のドラマティックなパ・ド・ドゥ、両方とも2人の息はピッタリあっていて、2人の愛のケミストリーがとてもよく感じられ舞台に引き込まれた。
妹役のオルガを演じたのはソリストのイザベラ・ボイルストン、そしてオルガの恋人役を演じたのはジャレッド・マシューズ。2人は若々しくとても初々しいカップルに見え、見ているこちらの気持ちも爽やかになった。イザベラはとても美しいダンサーで注目を浴びている。特にジャレッドが女性をサポートすると何でもスムーズに見えて、彼は女性を引き立たせらるダンサーだと思った。
(2013年5月17日 メトロポリタン・オペラ・ハウス)

ny1306a03.jpg Photo by Gene Schiavone

最後に引退公演となったイリーナ・ドヴォロヴェンコ。さすがにキャリアがあるダンサーだけに演技が自然。オネーギンと目があったときに恥じらう仕草やちょっとした表情がとても愛らしく、私が見た3人のタチアーナのキャストの中で一番可愛いらしい少女のようなタチアーナだった。
ダンサーによってこんなに演技が違いストーリーの印象まで異なって見えてくるのだ。ひとつの作品を異なったキャストで見比べることはとてもおもしろい。
イリーナの相手を踊ったコリー・スターンズは私が見た3人のオネーギンの中で、一番性格のよさそうなオネーギン。優しそうで笑顔のオネーギンだった。思わず彼に恋に落ちそうになるくらい素敵な男性だと思った。しかし、オネーギンという役柄にはちょっと明るすぎるかもしれない。ただこれもダンサーのひとつの解釈の仕方なのだと思う。特にオネーギンは三人三様で、それぞれがまったく違う演技だった。
そしてコリー・スターンズの成長ぶりには驚かされた。彼は男性プリンシパルとして一番新しいのだが、技術やオーラを感じさせる踊りなど、昨年からとても成長していると思った。
イリーナとコリーのパ・ド・ドゥもまた、素晴らしかった。
イリーナはアメリカで長年踊っていても、彼女のルーツであるロシアン・メソッドは健在で、高くあがるアラベスクのラインや上半身の使い方が大きくて美しい。まだ踊れるバレリーナが引退してしまうのは残念なことである。
公演の最後には、現在のプリンシパル・ダンサーたちやバレエ団のバレエマスター、バレエミストレス、そして過去に彼女と踊ったパートナーたちが一人ずつ登場して花束を彼女に手渡し、観客席からもたくさんの花が投げ込まれて舞台上は一面花でいっぱいになった。
そしてイリーナの夫と娘も舞台に現れ、イリーナにキスをして強く抱きしめると会場からは大きな大きな拍手が贈られた。
(2013年5月18日 メトロポリタン・オペラ・ハウス)