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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2016.09.20]

ボリショイ・バレエ団がジャン=クリストフ・マイヨーの『じゃじゃ馬馴らし』を、ロヤル・オペラハウスで上演

The Bolshoi Ballet in London ボリショイ・バレエ団ロンドン公演
'The Taming of the Shrew' by Jean-Christophe Maillot
『じゃじゃ馬馴らし』ジャン=クリストフ・マイヨー:振付

3週間におよんだボリショイ・バレエのロンドン公演も中盤にさしかかった8月3日、ジャン=クリストフ・マイヨー振付『じゃじゃ馬馴らし』初日の幕が上がった。同作品は2年前、当時の芸術監督であったセルゲイ・フィーリンの招きに応じたマイヨーがモスクワに赴き振付、2014年7月に世界初演した作品。今回のロンドン公演の5演目中、唯一の新作ということで、ロンドン公演の演目が発表されて以来バレエ関係者やファンの間で話題になっていた。
今年は文豪ウィリアム・シェイクスピア没後400年という記念すべき年にあたり、世界各国で回顧イベントやシェイクスピア作品の上演が行われている。ボリショイ・バレエもロンドン公演の演目に何か1つシェイクスピア原作作品を持ってくることになったわけだが、グリゴローヴィチ振付の古典的な『ロミオとジュリエット』ではなく、マイヨーの現代作品を選んだのは、欧米と同様に現代作品にも意欲的に取り組む21世紀のボリショイ・バレエを象徴する出来事といえよう。

london1609_01.jpg 『じゃじゃ馬馴らし』ラントラートフ
Photo Mikhail Logvinov

バレエ版『じゃじゃ馬馴らし』といえば、世界的にシュツットガルト・バレエのジョン・クランコ版が有名である。ジャン・クリストフ・マイヨー版は、現代的でファッショナブルな舞台衣装とシンプルな舞台セット、ドミトリー・ショスタコーヴィッチらの音楽をスコアにした2幕物の垢ぬけた作品で、振付家が長らく追及しているという舞踊と官能、美術の融合が見事であった。
初日の配役は2年前のモスクワでの世界初演キャストと同じく、バプティスタ家のじゃじゃ馬娘キャタリーナをエカテリーナ・クリサノワ、妹のビアンカをオリガ・スミルノワ、キャタリーナに求婚するペトルーチオをウラディスラフ・ラントラートフ、ビアンカの3人の求婚者の1人で学生のルーセンショーをセミョーン・チュージン、伊達男ホーテンショーをイーゴリ・ツヴィリコ、グレミオをヴァチェスラフ・ロパーティン、キャタリーナとビアンカの父バプティスタ役をアルテミー・ベリャコフが演じ踊った。マイヨー版では、ホーテンショーが寡婦と、グレミオが女中と結婚して4組のカップルが誕生するストーリーになっており、女中役をアンナ・チホミロワ、寡婦をユリア・グルベンチコワが踊つとめた。

london1609_03.jpg 『じゃじゃ馬馴らし』
スミルノワ、チュージン
Photo Alice Blangero

作品の冒頭、おしゃれなファッションに身を包み、ハイヒールを履いた1人の女性が舞台中央まで歩いてきたかと思うと、観客に向き合うようにステージに腰を下ろし、コンパクトを取り出しお化粧直しをし、ハイヒールからトゥシューズに履き替える場面からバレエが始まる。女中というにはあまりにもファッショナブルなこの女性を演じたチホミロワは輝くばかりのスター性を発揮し、観客に主役のクリサノワや準主役のスミルノワと同等の強い印象を残す。チホミロワのみならず、豪放磊落なペトルーチオのイメージには線の細いラントラートフが、薔薇の花を一輪口にくわえワイルドな男のオーラをまき散らして登場して観客の目を奪えば、じゃじゃ馬娘役のクリサノワは、暴れまわりながらも徐々にペトルーチオに惹かれ、愛ゆえに淑女に変身してゆく過程を演舞で巧みに表現してみせた。真面目な学生ルーセンショー役のチュージンとビアンカ役のスミルノワとのロマンティックなパ・ド・ドゥは白眉といえたし、技巧派のツィヴィリコとロパーティンも持てる技量を全開にして満場の観客にそれぞれの個性をアピール、バプティスタ役のベリャコフも実年齢は役の年齢の半分ほどの若者であるにもかかわらず、熟年男性で一家の家長らしい登場人物の重みを醸し出す事に成功、マイヨーの振付をきちんと体現して作品を大いに引き締めて見せた。
カーテン・コールでは、現代作品を生き生きと踊る多数のスター・ダンサーの姿を目の当たりにした観客が熱狂。満場のロイヤル・オペラ・ハウスのバレエ関係者やファンが口々にブラボーを叫び、拍手して盛り上がりを見せ、楽屋口もダンサーたちを一目見て話したりサインを貰いたいという人々で混雑を極めた。7月25日のロンドン公演初日以来、ザハロワ不在でやや地味な公演を行っていたボリショイが、ザハロワなしでロイヤル・オペラ・ハウスの関係者やファンに君臨することが出来た最初のパフォーマンスであった。
(2016年8月3日 ロイヤル・オペラ・ハウス) 写真提供/ボリショイ・バレエ団

london1609_04.jpg 『じゃじゃ馬馴らし』ベリャコフ Photo Mikhail Logvinov
london1609_02.jpg 『じゃじゃ馬馴らし』
クリサノワ、ラントラートフ
Photo Mikhail Logvinov
london1609_06.jpg 『パリの炎』ロパーティン
Photo By Elena Fetisova
london1609_07.jpg 『パリの炎』
アレクサンドロワ、サヴィン
Photo By Elena Fetisova
london1609_08.jpg 『海賊』ニクーリナ、ラントラートフ
Photo by Damir Yusupov
london1609_05.jpg 『パリの炎』
左より ツィヴェリコ、クレトワ、ロパーティン
Photo By Damir Yusupov
london1609_09.jpg 『海賊』ギュリナーラ役 アンナ・チホミロワ
Photo by Damir Yusupov
london1609_10.jpg 『海賊』 ビルバンド役 デニス・サヴィン
Photo by Damir Yusupov