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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2016.06.14]

グロテスクなモンスターをめぐる残酷なドラマを尖鋭な美意識で描いたスカーレットの最新作『フランケンシュタイン』

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
'Frankenstein’ Choreographed By Liam Scarlett
『フランケンシュタイン』リアム・スカーレット:振付

ロイヤル・バレエは5月4日リアム・スカーレット振付の『フランケンシュタイン』を世界初演。27日まで計10公演を行った。
同作品はメアリ・シェリー原作の『フランケンシュタイン』を3幕仕立てにした全幕バレエ。
世界初演キャストは、モンスター(英語名はザ・クリーチャー)の創造主である若き医学生ヴィクター・フランケンシュタイン役をフェデリコ・ボネッリ、ヴィクターの両親に引き取られ彼と一緒に育った孤児で、その後、彼と結婚するエリザベス・ラヴェンツァ役をラウラ・モレーラ、ヴィクターの手で世に生み出された醜いモンスター役をスティーヴン・マックレー、ヴィクターの父アルフォンスをベネット・ガートサイド、母をクリスティーナ・アレスティス、ヴィクターの年の離れた弟ウィリアム役をロイヤル・バレエ・スクール生のギレム・カブレラ・エスピナッチ、フランケンシュタイン家の使用人を束ねるハウス・キーパー役をエリザベス・マクゴリアン、その娘で一家の使用人ジャスティンをミーガン・グレイス・ヒンキス、ヴィクターの親友で医大の同級生ヘンリーをアレキサンダー・キャンベル、医大の教授をトマス・ホワイトヘッドが踊った。

london1606a_15.jpg エリザベスとヴィクター
photo/Angela Kase(すべて)

ストーリーは1775年のスイスのジュネーブを舞台に始まる。孤児エリザベスはヴィクターの両親に助けられ、フランケンシュタイン家の養女になる。兄と妹のように育った2人の間にいつしか愛が芽生え、年とともに確かなものとなる。大学進学のため、故郷を後にすることになったヴィクターは、両親に「卒業後はエリザベスと結婚する」と告げ、一家は喜びに包まれるが、それも束の間、ヴィクターの弟を身ごもっていた母が難産のため命を落としてしまう。10代で最愛の母を失ったヴィクターは暗い心で郷里を後にするのだった。
インゴルスタット大学での初日に、ヴィクターは彼と同じように医師になる夢を心に抱く、心優しい同級生ヘンリーと出会い、友情をはぐくむ。ほとんどの医大生は勉強が終わると、酒場で討論しながら食事や酒色に余念がないが、ヴィクターは日々勉学に励み、食事が終わると一人研究室に戻るのだった。
ある夜、研究室で一人最愛の母の人生と早すぎる死について思いを巡らせたヴィクターは、死者に命を与え、命ある者を生み出すことを思いつく。毎夜たった一人研究室で実験を繰り返した後、ヴィクターの実験は成功。だがヴィクターによって命を与えられたモンスターは、醜く、人間とコミュニケーションするすべをもたない。創造主であるヴィクターとその手により生み出されたモンスターは共に事の成り行きに怯え、おののく。醜い生き物を生み出してしまった事実に衝撃を受けたヴィクターを一人残し、モンスターは彼のコートを持って夜の街に消える。ヘンリーは研究室で呆然としているヴィクターを発見。親友をジュネーブのフランケンシュタイン家に連れてゆくのだった。

london1606a_02.jpg モンスターの誕生 london1606a_03.jpg モンスターの誕生
london1606a_07.jpg 大学の研究室で london1606a_04.jpg 誕生日を祝う舞踏会
london1606a_11.jpg モンスターの誕生

2幕。ジュネーブのわが家に戻ったヴィクターは病に侵され、夜ごと悪夢にのたうちまわる。心配するエリザベスや親友のヘンリー、年の近い女中で幼馴染のジャスティンにも、自分がモンスターを生み出したと告げることが出来ない。モンスターはヴィクターの後をつけ、ジュネーブにたどりついていた。
時は移り7年後のフランケンシュタイン家では、ヴィクターの弟ウィリアムの誕生日を前に、野外パーティーの準備が行われている。夜の庭に森から姿を現したモンスターが近づく。自分をこの世に送り出し、その後、捨てた父であるヴィクターの愛を得たいのだが、それが無理であると悟り、ヴィクターと彼の家族に復讐を決意する。
ウィリアムの誕生日は盛大に行われた。余興の一つで目隠しされたウィリアムは、いつしか友だちから離れ一人になってしまう。そんなウィリアムに近づいたのはモンスター。驚きから叫び声をあげるウィリアムを黙らせようとしているうちに彼を殺め、逃亡。女中のジャスティンが、ウィリアム殺害の無実の罪を着せられる。
一人家の庭に佇むヴィクターの前にモンスターが姿を現す。ウィリアムを殺したのは自分だと告げ、ヴィクターの愛と、自分に女性のパートナーを造り、与えてほしいと懇願するが、ヴィクターは彼のたっての願いを受け入れてはくれない。絶望したモンスターは、ヴィクターに彼の結婚式の夜に再び現れると告げ、その場を後にする。

london1606a_06.jpg 研究室のヴィクター london1606a_09.jpg ヴィクター、エリザベス、ヘンリー
london1606a_08.jpg 舞踏会の男性群舞 london1606a_01.jpg ヴィクターとエリザベス

3幕。フランケンシュタイン家の舞踏会場では、ヴィクターとエリザベスの結婚式の後の宴が開かれている。着飾った招待客はダンス・パーティーを楽しむが、新郎はモンスターの残した言葉に怯え、ダンスに気もそぞろだ。そんな中、ヴィクターの父アルフォンスが死んでいるのが発見される。モンスターの仕業だと信じたヴィクターは、妻となったエリザベスと親友ヘンリーを残して殺害者を探しにその場を離れる。その隙にモンスターはヘンリーを殺害。ヴィクターの目の前でエリザベスをも殺める。ヴィクターは今では殺人鬼と化したモンスターに銃を向けるが、すべての非はモンスターをこの世に生み出した自分にある、と自殺。モンスターは死んだヴィクターを抱きしめ号泣。その後フランケンシュタイン家をつつむ炎の中に消えてゆくのだった。

london1606a_12.jpg モンスター(マックレー)

グロテスクで醜い容姿のモンスターが踊るタイトル・ロール、主要登場人物の殆どが死んでしまう物語は、観る者にはたいへん重く暗い内容である。だが振付家スカーレットの著しい成長がうかがえる作品であり、心に残るのは、美意識の高い振付や作品にあふれるロマンティシズムである。
特に1幕のヴィクターとエリザベスの愛のパ・ド・ドゥや3幕の結婚舞踏会のデュエット、1幕後半のヴィクターの研究所でのソロの振付が美しく印象的。またスカーレットは人間の登場人物には古典バレエの振付を与え、グロテスクなモンスターにはコントラクションを多用したコンテンポラリー・ダンスの振付を与えた。このダンス・スタイルの相違が2幕最後のヴィクターとモンスターの再会のユニゾンをたいへん興味深いものにしていた。
世界初演キャストも振付家の期待によく答えた。ボネッリは感情表現的にも難しい役を良く練り上げ、演じ踊った。ボネッリとモレーラというベテラン2人のパ・ド・ドゥは、振付とともに心に残る。マックレーもグロテスクなモンスターの残虐性と悲しみを表現し名演ともいえるパフォーマンスで観客を圧倒した。
英国ロイヤル・バレエ団は、マクレガー、ウィールドン、スカーレットと現代を代表する3人の振付家を擁し、新作を世界に送り続けている。3人の振付家の今後の新作が待ちきれない。
(2016年5月18日ロンドン ロイヤル・オペラ・ハウス  5月2日の最終ドレス・リハーサルを撮影)

london1606a_10.jpg モンスターは幼いウィリアムを殺める london1606a_13.jpg モンスター london1606a_14.jpg モンスター
london1606a_05.jpg モンスターは炎の中に消える photo/Angela Kase(すべて)