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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2015.07.22]

ブノワ賞受賞のワトソン、カスバートソン、小林ひかるのカムバックにわいた英国ロイヤル・バレエ

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ
"Afternoon of a Faun " "In the Night" by Jerome Robbins,
"Song of the Earth " by Kenneth MacMillan
『牧神の午後』『イン・ザ・ナイト』ジェローム・ロビンズ:振付、『大地の歌』ケネス・マクミラン:振付

英国ロイヤル・バレエは5月29日〜6月4日までジェローム・ロビンズとケネス・マクミラン振付の小品3作品による「バレエ小品集」を2配役4回公演し、2014-15年バレエ・シーズンを締めくくった。
演目はロビンズ1953年振付作品『牧神の午後』、同じくロビンズ1970年作品『イン・ザ・ナイト』、マクミラン振付作品『大地の歌』によるトリプル・ビルであった。
この公演はバレエのアカデミー賞と言われるブノワ賞の授賞式の直後に行われた。今年ブノワ賞の最優秀バレリーナ賞に輝いたのはボリショイ・バレエのスヴェトラーナ・ザハロワ。最優秀男性ダンサー賞は『冬物語』主演を評価されたロイヤル・バレエのエドワード・ワトソンが受賞。振付家賞には同じく『冬物語』のクリストファー・ウィールドン、作曲家賞も『冬物語』のジョビー・タルボットが受賞するなど、英国ロイヤル・バレエと『冬物語』に一際脚光があたった年となった。

5月29日「ロビンズとマクミラン小品バレエの夕べ」の初日に『大地の歌』の死の使者を踊ったのは、『ウルフ・ワークス』の公演スケジュールの関係でブノワ賞のモスクワの授賞式に駆けつけることが出来なかったワトソン。また今シーズン初めから怪我で降板していたイギリス人プリンシパル、ローレン・カスバートソンがこの作品でカムバック、翌5月30日の昼公演では女児出産のため、産休を取っていたファースト・ソリストの小林ひかるが『イン・ザ・ナイト』でカムバックを遂げ、関係者やファンを喜ばせた。

london1507a_02.jpg 「牧神の午後」サラ・ラム、フェデリコ・ボネッリ
photo/ Angela Kase(すべて)

初日に『牧神の午後』を踊ったのはサラ・ラムとフェデリコ・ボネッリ。
サラ・ラムは品性にあふれ、禁欲的でもありニジンスキー版『牧神の午後』の女性主役のニンフを彷彿とさせた。ボネッリは美しいバレリーナに魅了される男性ダンサーをロマンティックに踊り、バレリーナが去った後のスタジオで一瞬、性的な雰囲気を醸し出しながらも、観客にすべてを夏の午後のまどろみの中に見た美しい一遍の夢であるかのように感じさせた。

初日にロビンズの『イン・ザ・ナイト』を踊ったのはエマ・マグワイヤーとアレクサンダー・キャンベル、ゼナイダ・ヤノースキーとネマイア・キッシュ、マリアネラ・ヌニェズとティアゴ・ソアーレスの3組。
ロンドンのバレエ・ファンは、ロビンスの「イン・ザ・ナイト」というと、2011年のマリィンスキー・バレエのロンドン公演で、ロパートキナやテレシキナ、ソーモワ、オブラスツォーワらによって踊られた公演を今も鮮やかに記憶している。今回ロイヤル・バレエによる公演を観ることで、2つのバレエ団のスタイルの違いやダンサーたちの作品や役の解釈や表現の違いを感じることが出来た。
マグワイヤーとキャンベルによる若い恋人たちは瑞々しく品性に溢れ、たいへんイギリス的。ヤノースキーは貴婦人のような落着きを持った女性として舞台に登場。相手役のキッシュの一歩下がってバレリーナを引き立てようとする紳士的な姿もまた、英国バレエ的な品位に満ちており好感度が高かった。ヌニェズとソアーレスが踊ったペアはマリィンスキーのロンドン公演ではロパートキナとテレシキナが踊り、パートナーの男性ともつれた関係を激情的に演じ踊ったものだが、ヌニェズとソアーレスは大人の男女の心のすれ違いをしっとりと表現し、役の解釈と巧みな演技や表現力でロイヤル・オペラ・ハウスに集まった筆者を含む観客の多くに「英国ロイヤル・バレエのスタイル」について教えてくれたのであった。

london1507a_06.jpg 「大地の歌」
平野、カスパートソン、ワトソン

『大地の歌』でローレン・カスバートソンが舞台に登場した時、当日観客席に集ったイギリスのバレエ関係者やファンの多くが「バレエ団が失っていた才能の大きさ」を痛感した。
カスバートソンはまるで身体の内側から光を放っているかのような静謐な存在感にあふれ、観る者の目を惹きつけたのである。初日はやはりイギリス人プリンシパルのルーパート・ペネファーザーが相手役を踊って、死の使者のワトソンと共演。3人すべてイギリス人プリンシパルが踊る予定だったが、直前になってペネファーザーはセカンドキャストを務めることになり、ファースト・ソリストの平野亮一がカスバートソン、ワトソンと共演した。
カスバートソン、平野、ワトソンは並びも良く、フレッシュで4月にも上演されたこの作品に新しい息吹を吹き込み関係者や観客を魅了した。

翌5月30日昼の公演では『牧神の午後』にメリッサ・ハミルトンとワディム・ムンタギロフが登場。元ボリショイのプリンシパル、イレク・ムハメドフ夫人、マーシャ・ムハメドヴァを師と仰ぎ、個人指導を受けていたハミルトンとムンタギロフは共に、ロシアとイギリスのバレエ・スタイルを併せ持つダンサー同士。初日にこの作品を踊ったラムとボネッリが「夢物語」のような作品風景を紡いだのに比べ、ハミルトンとムンタギロフによる『牧神の午後』は、実際バレエ・スタジオで起こった恋愛劇を再現しているかのような現実味のある舞台となり、たいへん興味深かった。禁欲的な雰囲気のラムに比べ、この作品を踊るハミルトンには魔性の魅力が漂い、男性客を魅了。美貌と才能豊かなこのバレリーナの新シーズンの不在は誠に残念でならない。

小林ひかるはヴァレリー・フリストフと『イン・ザ・ナイト』の2組目のカップルを踊って舞台に復帰。カーテン・コールにはたくさんの花束が贈られた。人生のパートナーである夫フェデリコ・ボネッリとの間に愛娘が生まれ、女性としてますます輝きを増した小林。今後の舞台での活躍に期待したい。
シーズンの終わりに筆者が感じたのは、たくさんの外国人ダンサーや外国人プリンシパルを擁しながらも、英国ロイヤル・バレエは今また英国的なエレガンスに満ちあふれ、固有のスタイルを保持している、ということ。秋からの新シーズンが待ちきれない。
(2015年5月29日、30日昼 ロンドン ロイヤル・オペラ・ハウス 撮影は28日スタジオ)

london1507a_01.jpg 「牧神の午後」ラム、ボネッリ london1507a_04.jpg 「牧神の午後」ハミルトン、ムンタギロフ london1507a_05.jpg 「牧神の午後」ハミルトン、ムンタギロフ
london1507a_03.jpg 「牧神の午後」
メリッサ・ハミルトン、ワディム・ムンタギロフ
london1507a_07.jpg 「大地の歌」
平野、カスパートソン、ワトソン