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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2015.06.12]

A.フェリがコベントガーデンの舞台にマクレガー新作『ウルフ・ワークス』でカムバック

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ
"WOOLF WORKS" Choreographed by Wayne McGregor
『ウルフ・ワークス』ウェイン・マクレガー (世界初演)

ロイヤル・バレエは5月11日、バレエ団の常任振付家ウェイン・マクレガーの新作『ウルフ・ワークス』を世界初演。5月26日まで全8回公演した。

london1506a_01.jpg 1幕 フェリ、ワトソン
Photo/Angela Kase(写真すべて)

これは20世紀前半のイギリスを代表する女流作家ヴァージニア・ウルフの生涯と、彼女の代表作『ダロウェイ夫人』『オーランドー』『波』を表現した全3幕作品。
昨年のシーズン演目発表以来、巨匠振付家、故ケネス・マクミランのミューズであったイタリア人バレリーナで元バレエ団プリンシパルのアレッサンドラ・フェリが、この作品で古巣のコベント・ガーデンの舞台にカムバックすることがファンの間で話題になっていた。
フェリ以外にも、エドワード・ワトソン、フェデリコ・ボネッリ、スティーヴン・マックレー、サラ・ラム、ナターリア・オーシポワらバレエ団プリンシパルや、ベアトリス・スティックス・ブルネル、フランチェスカ・ヘイワード、高田茜、トリスタン・ダイアーらバレエ団の精鋭が抜擢され、たいへん華やかな舞台となった。

幕が開くとヴァージニア・ウルフに扮したフェリが1人舞台に佇んでいる。
ユダヤ人作家の夫との結婚、夫ある身ながら貴族の女性の愛人を持ち逢瀬を重ねた過去を持つウルフの人生が回想され、ウルフ役のフェリが夫や女性の愛人に扮したエイヴィス、ボネッリ、スティックス・ブルネル、ヘイワードらと踊る。
その後、舞台はウルフの人生から彼女の代表作の一つ『ダロウェイ夫人』に移行。フェリは作者のウルフと作品の主人公であるダロウェイを表す。小説のもう1人の主人公で第一次世界大戦に従軍し、精神を病んだ兵士セプティマス・ウォレン・スミスを踊るダイアーが、同性愛的感情で結ばれていたが戦場で深手を負い戦死した上官エヴァンズを回想。瀕死で戦場を彷徨うワトソン(上官エヴァンズ)と彼を介抱するダイアーの男2人のデュエットが踊られる。

london1506a_03.jpg ボネッリ、フェリ、スティックス=ブルネル、
ヘイワード、エイヴィス
london1506a_05.jpg ワトソン、トリスタン・ダイアー

第2幕はウルフが女性の恋人ヴィータ・サックヴィル・ウェストをモデルにして書いた代表作『オーランドー』が表現されている。小説の主人公オーランドーは、エリザベス1世時代のイギリスに男性貴族として生を受け、若さを保ったまま350年の人生を謳歌。途中で女性に転生する。2幕に登場するダンサーは、エリザベス1世時代を思わせる衣装に身を包み、アップテンポの音楽に合わせて激しく踊り、舞台を駆け抜ける。この幕の最後に多用されるレイザー・ビームもまたたいへん印象的だ。

第3幕、幕が上がるとウルフの晩年の作品『波』にちなんだ海の波のイメージが舞台後方に映し出され、女性の声のナレーションが始まる。59歳でコートのポケットに石をつめ川に入水自殺したウルフの、夫にあてた遺書が観客に紹介されるのである。
舞台に上では晩年のウルフに扮したフェリが子供たちと戯れる中、ラムやボネッリ、バレエ団の若手ダンサーが多数登場。波となって水にたゆたい溺死してゆくウルフをリフトし共に踊る。

london1506a_15.jpg 3幕 フェリ、ボネッリ

振付家のマクレガーはBBCのローカル・ニュースで、「『ダロウェイ夫人』『オーランドー』『波』というウルフの3つの代表作のエッセンスを舞台で表現したかった。」と語り、TVで紹介されることでバレエ・ファンのみならずウルフ作品のファンや、過去に『オーランドー』や『めぐりあう時間たち』といったウルフ作品にちなんだ映画を観た一般客が、この新作に興味を持ったことで公演チケットが売れていった。
才女でありながら若い頃から時おり神経衰弱や鬱病、躁鬱病に苦しんだウルフ役は、儚げで繊細な雰囲気を持つフェリに良く似合い、特に3幕の自死してゆく過程で波と戯れる場面がたいへん印象的であった。
フェリと同じイタリア人であるフェデリコ・ボネッリが、世界初演当日にファースト・キャストでフェリの相手役をつとめ1、3幕で共演。巧みなパートナーリングでフェリの好演の陰の立役者となった。
1幕後半『ダロウェイ夫人』の場面でセプティマス・ウォレン・スミスと上官のエヴァンスを踊ったワトソンとダイアーの男2人のパ・ド・ドゥは、観る者の心を掴み忘れがたい。また2幕の『オーランドー』の場面で煌びやかな技巧を披露したオーシポワとマックレーも印象的だ。

ダンサーのみならず2012年にロンドン・パラリンピック開会式の衣装を担当したモーリッツ・ユングによるコスチューム、ルーシー・カーターによるレーザー光線を含む照明デザイン、クリス・エカーズによる音響などを含めトータルアート(総合芸術)として評価されるべき作品である。
ケヴィン・オヘア芸術監督を迎えて以来、バレエ団は全幕新作の創作と発表に意欲的に取り組んでいる。奇しくも『ウルフ・ワークス』上演後半にウィールドン振付、エドワード・ワトソン主演の『冬物語』が、バレエのアカデミー賞といわれるブノワ賞の振付賞(ウィールドン)、最優秀男性ダンサー賞(ワトソン)、音楽賞(ジョビー・タルボット)を受賞。毎シーズンのように発表される全幕新作がダンサーを鼓舞し、バレエ・ファンや演劇ファン、ロンドン市民を大いに刺激。ロイヤル・バレエの明るい未来の象徴となっている。
(2015年5月11日 ロンドン ロイヤル・オペラ・ハウス 5月9日のドレス・リハーサルを撮影)

london1506a_04.jpg 1幕 ワトソン、トリスタン・ダイアー london1506a_06.jpg 1幕 フェリ、ヘイワード
london1506a_07.jpg 2幕 オーシポワ london1506a_08.jpg 2幕 マックレー london1506a_09.jpg 2幕 ワトソン、高田茜
london1506a_10.jpg 3幕 フェリ london1506a_11.jpg 3幕 フェリ london1506a_12.jpg 3幕 フェリ、ボネッリ
london1506a_13.jpg 3幕 フェリ、テオ・デュブロイ london1506a_14.jpg 3幕 フェリ、ボネッリ
Photo/Angela Kase(写真すべて)