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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2015.02.10]

高田茜とムンタギロフがキトリとバジルを華やかに踊った、ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
"Don Quixote" by Carlos Acosta 『ドン・キホーテ』カルロス・アコスタ:振付

ロイヤル・バレエは11月25日〜1月22日までカルロス・アコスタ版『ドン・キホーテ』全幕を再演。初日は先シーズンの世界初演に続いてマリアネラ・ヌニェズとカルロス・アコスタ本人がつとめた。
今シーズン、ロイヤル・バレエ団は12月に『くるみ割り人形』や『シンデレラ』といったクリスマス・バレエを上演せず、『ドン・キホーテ』と『不思議の国のアリス』という明るく夢あふれるファミリー・バレエを取り上げ、日照時間がめっきり減って鉛色の冬の空に心ふさぐこの時期のイギリスの人々の心を温めた。
この2作品は興行収入的に大成功を収め『不思議の国のアリス』は早くから全公演チケットが完売。一方『ドン・キホーテ』は公演直前や当日になっても少数のチケットがオンライン予約可能であったが、これは冬休みに海外から観光やショッピング・観劇のためロンドンを訪れた観光客や急遽バレエを観ようと思い立った現地のファンを大いに喜ばせた。

london1502a_01.jpg 高田茜、マシュー・ゴールディング ©ROH 2015 Photographed by Bill Cooper.

1月3日、高田茜とヴァディム・ムンタギロフ組による『ドン・キホーテ』を観る。
高田は過去に全幕をスティーブン・マックレーと、サドラーズ・ウェルズ劇場で行われたガラ公演ではセルゲイ・ポルーニンとこの作品のグラン・パ・ド・ドゥを踊っている。一方、先シーズン半ばにイングリッシュ・ナショナル・バレエから移籍してきたばかりのムンタギロフにとっては、12月30日の高田との公演初日がバジル役の全幕デビューであった。
当初、高田は12月末までキトリを踊る予定は無かったが、プリンシパルのロベルタ・マルケスやナターリア・オーシポワが次々と怪我に倒れたため、2人の代役として急遽アレクサンダー・キャンベルやマシュー・ゴールディングとも共演。シーズン上半期にして既に4人のプリンシパルの怪我と不在に泣くバレエ団の危機を救った。

london1502a_03.jpg Phot/Angela Kase

1幕、幕が開くと明るい太陽が照りつけるスペインはバルセロナの街。舞台の上には宿屋の娘キトリに扮した高田とムンタギロフ演ずる床屋のバジルの姿があった。若々しい2人がはじけるパフォーマンスを期待していた私は、シーズン初めの『マノン』に続いてまたもや指揮者による音楽のテンポが気になっしてしまった。観客の耳には美しく響けども、個々のダンサーの音楽性を引き出し、彼らに本領を発揮させるタクトの振れない指揮者である。そのせいかムンタギロフの踊りが一部メリハリが足りず流れてしまい残念であった。また高田もムンタギロフもノーブルな魅力の持ち主だけに、街の娘や床屋といった役よりもお姫様や王子様が最も似合うのではないか、と感じもした。
だが2幕、駆け落ちしたキトリとバジルが赤い夕陽と風車を背に2人きりになると、まるで2人の会話や笑い声が聞こえてくるかのような楽しさがあり、2人の瑞々しさや無邪気な姿を目の当たりにして舞台を食い入るように見ている自分を発見。改めて高田とムンタギロフというペアの持つ相性の良さに気付くのだった。
ドルシネア姫の白いクラシック・チュチュと輝くティアラを身に着けて登場した高田には、眩いばかりの高貴な輝きがあり、お姫さまバレリーナのオーラを大いに堪能することができた。

london1502a_05.jpg ソーンダース、ガートサイド Phot/Angela Kase london1502a_06.jpg ガートサイド、エイヴィス Phot/Angela Kase

3幕、アコスタ振付のロイヤル版『ドン・キホーテ』の結婚式の場面で、主人公の2人が身に着けるのは白の衣装である。姫と王子を本領とする高田とムンタギロフには白が最も似合う。
グラン・パ・ド・ドゥでそれぞれ技巧を披露しながらも品格高くノーブルな魅力を発揮。特に高田はグランド・バレエの主演者として今シーズンになってますます舞台上での存在感やオーラが大きくなってきている。3月の『白鳥の湖』主演が今から楽しみでならない。
ムンタギロフがふわりと跳躍して舞台の中央に高々と浮かび上がり披露するグラン・カテールの優美と、若さの華やぎ、2・3幕と白いチュチュと輝くティアラでプリンセスの魅力を存分に発揮した高田。2人それぞれの人柄の良さもこの作品の端々にうかがえ、ロイヤル・オペラ・ハウスに集ったバレエ・ファンの心を温かいもので満たした。
この日の公演には日本の新春バレエ・ガラを観るような祝祭感があり、高田の美技を観るためコベント・ガーデンに足を運んだたくさんの日本人客を沸かせていた。新年早々忘れがたい舞台を観ることが出来た幸せに感謝したい。
(2015年1月3日 ロンドン ロイヤル・オペラ・ハウス)
(高田は12月20日にオーシポワが降板した後に急遽代役を務めた)

london1502a_02.jpg london1502a_04.jpg london1502a_07.jpg
london1502a_08.jpg 「ドン・キホーテ」Phot/Angela Kase