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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2015.01.13]

崔、ムンタギロフ、オーシポワがアシュトンの代表的名作に挑戦した、ロイヤル・バレエ公演

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ
"Scenes de Ballet" "5 Brahms Waltzes in the manner of Isadora Duncan" "Symphonic Variations" "A Month in the Country" by Frederick Ashton
「アシュトン小品集」
『バレエの情景』『イザドラ・ダンカン風5つのワルツ』『シンフォニック・ヴァリエーションズ』『田園の出来事』フレデリック・アシュトン:振付

ロイヤル・バレエは10月18日〜11月12日までフレデリック・アシュトン振付小品4作品による「アシュトン小品集」を7公演、11月7日〜17日まではキム・ブランドストラップ、リアム・スカーレット、クリストファー・ウィールドンによる「現代作品小品集」を7公演。11月25日〜1月22日までカルロス・アコスタ版『ドン・キホーテ』全幕を、12月4日〜1月16日までウィールドン振付『不思議の国のアリス』全幕を公演している。
シーズン開幕よりプリンシパルが次々と怪我に倒れ、現在イギリス人プリンシパルであるローレン・カスバートソンとエドワード・ワトソンが休演中。ロベルタ・マルケスも故障中、ナターリア・オーシポワは12月20日(土)夜にマシュー・ゴールディングと『ドン・キホーテ』の1幕を公演中に舞台で怪我をし、1時間の幕間休憩の後の2・3幕は高田茜が急遽代役をつとめた。オーシポワは、その後の公演を全降板。1月5日の『ドン・キホーテ』はオランダ国立バレエのアンナ・ツィガンコワが客演し、代役をつとめることになっている。
 Dance Cubeでは2月のfrom Londonで、高田茜とワディム・ムンタギロフによる『ドン・キホーテ』新春公演の模様をお伝えする予定。今月は昨年10月後半と11月の小品集の模様をお伝えする。

london1501a_04.jpg 「バレエの情景」マックレー
Photo: Angela Kase(すべて)

10月22日にアシュトン小品集のセカンド・キャストによる公演を観る。
かつて吉田都とイヴァン・プトロフが主演したことのある『バレエの情景』の、今シーズンのセカンド・キャストをつとめたのはファースト・ソリストの崔由姫とヴァレンティーノ・ズケッティ。崔はバレリーナとしての容姿の良さが際立ち、持ち前のフェミニンな魅力と相まって香り立つようなバレリーナぶり。ズケッティは5番ポジションをはじめとする足や腕のポジションが正確で、バレエの基本を見せることの多いこの作品の男性主役の舞台上での存在感を高めてみせた。
今回バレエ団は「アシュトン小品集」に新人を多数起用。ズケッティと共に女性主役の崔を引き立てる男性群舞4人は、マシュー・ボール、デイヴィッド・ドネリー、トマス・モック、ドナルド・ソムで、すべてコール・ド・バレエの団員で、ボールとドネリーは入団2シーズン目の新人である。女性の群舞は12人で、2011年のローザンヌ国際コンクールの受賞者であるブラジル出身のマヤラ・マグリ(入団3シーズン目)が関係者や玄人ファンの目を奪う活躍を見せた。

london1501a_01.jpg 「バレエの情景」サラ・ラム、スティーヴン・マックレー london1501a_02.jpg 「バレエの情景」
london1501a_03.jpg 「バレエの情景」

『イザドラ・ダンカン風5つのワルツ』は、当初全公演プリンシパルのローレン・カスバートソンが踊るはずであったが怪我で降板したため、ファースト・キャストはファースト・ソリストのヘレン・クローフォード、セカンド・キャストはファースト・アーティストのロマニー・パジャックが踊った。パジャックは過去にバレエ団が『ラ・シルフィード』を上演した際に、男性主役ジェームスの婚約者エフィーを踊ったことがあるが、一般客にはほぼ無名のバレリーナ。ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)の大舞台の上で踊るソロ作品だけに、ファースト・アーティストの起用を心配したのも束の間、エキゾチックな美貌のパジャックの思い切りの良いパフォーマンスとフレッシュな魅力が光り、なかなか印象的であった。

当日『シンフォニック・ヴァリエーションズ』の中心の男女を踊ったのは、ファースト・ソリストのメリッサ・ハミルトンとプリンシパルのワディム・ムンタギロフ。男女各3人によって踊られるこの作品の残りの4人はファースト・ソリストのズケッティ、ソリストのヤスミン・ナグディ、日本出身でファースト・アーティストのアクリ瑠嘉、コール・ド・バレエのレティシア・ストックであった。男性3人は実力派揃いながらムンタギロフだけが左回りであり、そのまま踊ったため、3人でトゥール・ザン・レールを見せる場面に視覚的な違和感があった。また女性2人のナグディとストックがこの作品を踊るには存在感が希薄なのが残念だった。

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london1501a_06.jpg 「シンフォニック・ヴァリエーションズ」

最期を飾った作品はアシュトンの名作『田園の出来事』。シルヴィ・ギエムがこの作品主演を好み、日本でも公演したのでご存知の読者も多いことだろう。原作はロシアの文豪ツルゲーネフが1855年に発表した小説。
裕福な地主の夫を持つ優雅な人妻ナターリア・ペトローヴナ29歳は、退屈な夫ではなく息子の家庭教師の21歳の大学生ベリャーエフに秘めた恋心を抱いている。魅力のあるベリャーエフにはナターリアのみならず、養女のヴェーラや小間使いのカーチャも心を寄せており、それぞれベリャーエフにアプローチするも、ベリャーエフ自身は女盛りのナターリアを思慕していた。だが2人の抱擁を目にしたヴェーラの嫉妬により、ベリャーエフは家庭教師の職を辞し家を出てゆかねばならなくなる、という悲恋物語。
アシュトンの1976年作品で、世界初演のナターリア・ペトローヴナはリン・シーモア、ベリャーエフはアントニー・ダウエルであった。
私が観た日の配役は、女性主役をナターリア・オーシポワ、ベリャーエフをフェデリコ・ボネッリ、夫役をジョナサン・ハウエルズ、養女ヴェーラを大型新人フランチェスカ・ヘイワード、息子のコーリャをジェイムス・ヘイ、人妻であるナターリア・ペトローヴナに心を寄せるラキーチンをヨハネス・ステパネク、小間使いのカーチャをターラ・ブリジッテ・ブハヴナニが演じた。

london1501a_07.jpg 「田園の出来事」オーシポワ、ボネッリ

当日はオーシポワの作品デビューにあたったため、たくさんのバレエ関係者や熱心なロシア・バレエ・ファン、ロイヤル・バレエ・ファンがROHに詰めかけた。オーシポワは登場からベリャーエフへの恋に深く思い悩み「心ここにあらず」といった風情で、演技に重点を置いた役作りを見せ、関係者やファンの意表を突いた。人柄の良さや優しさといった人間的な魅力がこぼれるボネッリのベリャーエフなら、たくさんの女性たちに関心を寄せられるのも大いに頷ける。ボネッリの細く長い四肢が舞台上に描くラインの美しさは、世界初演のダウエルさながらであるし、オーシポワ、ボネッリ、ヘイワード、ヘイの4人が踊る場面では、このメンバーそれぞれの音楽性の素晴らしさやスター性が発揮され大変な盛り上がりを見せた。

私はかつてシルヴィ・ギエムがロイヤル・バレエとこの作品を踊ったデビュー公演を観ている。当時さほど演技が得意ではなかたギエムに比べると、オーシポワのデビュー当日の演技は、彼女なりに考えられ練り上げられており、新鮮であったし、オーシポワが「踊る女優」になるべく努力を重ねた姿もうかがえ大いに感心した。
ただ「美貌と優雅さで年若いベリャーエフの心を掴む年上の貴婦人」というにはオーシポワの容姿は幼く、また当日は養女ヴェーラを美貌と性的魅力を兼ね備えた入団4年目の大型新人のヘイワードが踊り、アシュトン作品につきものの小さくスピード感あふれるステップや上半身のオフバランスを事もなげに披露。登場直後から関係者や観客の目を奪ったため、それと比べられるとオーシポワは分が悪かった。
当日私は1階下手寄りのサイド席から観ていたため、カーテン・コールに登場する直前のステージ上のオーシポワとボネッリの姿を観てしまったのだが、オーシポワ自身は健闘したにも関わらず、当日の自分の演舞に納得がいかない様子で、始終うつむいて相手役のボネッリに何かつぶやいてこぼしており、そんな彼女の肩を優しく抱いて笑顔で慰めるボネッリの様子が微笑ましかった。

バレエ団黎明期の振付家アシュトン4作品の今回の上演は、『田園の出来事』の配役は充実していたが、プリンシパル以外の起用があまりにも多く、そのすべてが成功していたわけではなかったのが目に付き、失望を感じた。もう一つのロイヤル・バレエであるバーミンガム・ロイヤル・バレエがアシュトン小品を上演する際は、プリンシパル中心のスター・ダンサーを配し、プリンシパル以外を起用する場合でも技量に優れた次期スターしか配役しないのに対し、今回のロイヤル・バレエによるキャスティングは、まだ作品デビューするには早すぎる群舞のダンサーを一部含んでおり何とも残念であった。
(2014年10月22日 ロンドン ロイヤル・オペラ・ハウス)

london1501a_08.jpg 「田園の出来事」フェデリコ・ボネッリlondon1501a_09.jpg 「田園の出来事」ナターリア・オーシポワ
Photos: Angela Kase(すべて)

お詫び
文中、代役キャストの表記に誤りあり修正させていただきました。ご覧いただいた皆様、関係者の皆様には大変ご迷惑をお掛けいたしました。謹んでお詫び申し上げます。
※修正箇所「金子扶生」→「高田茜」(2015.1.14)