ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From London <ロンドン>: 最新の記事

From London <ロンドン>: 月別アーカイブ

アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2014.08.11]

タマラ・ロホ、高橋絵里奈、デンマーク王立バレエのレンドロフらが踊った『コッペリア』

English National Ballet イングリッシュ・ナショナル・バレエ
"Coppelia" by Ronald Hynd after Marius Petipa
『コッペリア』ロナルド・ハインド:振付、マリウス・プティパ:原振付

イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)は、7月23日〜27日までロンドン・コロシアム劇場にてロナルド・ハインド版の『コッペリア』全幕を4配役7公演行い、イギリス国内での2013ー14シーズンを締めくくった。
 7月26日午後に高橋絵里奈とフェルナンド・ブッファラ、同日夜にタマラ・ロホとデンマーク王立バレエ団より客演のアルバン・レンドロフによる公演を観た。

london1408a_01.jpg photo/Angela Kase

高橋は北海道の釧路バレエ・アカデミーからイングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクールに留学し、96年にバレエ団に入団。2000年にプリンシパル、07年からバレエ団最高位のリーディング・プリンシパルをつとめている。
ブッファラはスペインのマドリッド出身。ロイヤル・バレエ・スクールで学んだ後、2001年にENBに入団。08年から去年までアンヘル・コレーラ率いるバレエ団で活躍し、先シーズンから再びバレエ団に帰属するソリストだ。
 『コッペリア』といえば主役バレリーナによる1幕のソロや麦の穂のパ・ド・ドゥ、2幕の人形ぶりとスペインやスコットランドの踊り、3幕のグラン・パ・ド・ドゥ、男性主役フランツのソロやチャルダッシュ、3幕の女性ソリストによる曙、祈りなど様々な 踊りが披露される。恋人2人の仲違いと仲直り、コッペリウス博士とのやり取りなど、主演ダンサーにはダンス技術と共に演技力の高さが必要とされる。
 これまでバレエ団のほとんどすべての演目を踊り、演舞に充実する高橋と茶目っ気たっぷりのブッファラには、この作品が良く似合った。
バレエ団に長く在籍する高橋だけに1、2幕でスワニルダが友だちと戯れる場面や、女友だちと共にコッペリウス博士の工房に忍び込む場面には、群舞の女性たちとの連帯感やチームワークの良さが光った上に、ソロではアチチュード、アラベスク、アラセゴンド といったクラシック・バレエのポーズの1つ1つが美しく再現され、まるで教習本から抜け出たよう。2幕の人形ぶりからスペインの踊り、スコットランドの踊りが続く場面にも結婚前の娘らしい若々しさと元気さがあふれていた。冒頭のコッペリウス博士の家の2階のバルコニーで本を読んでいるコッペリアに無視されて怒る場面、2幕コッペリウス博士の工房に忍び込んですぐに怖がって震える場面の演技も過剰に走ることなく自然で、かつ品性があった。

london1408a_02.jpg 高橋、ブッファラ photo/Angela Kase

ブッファラは数々の跳躍に勢いがあり、ピルエットなどの旋回技も得意でスピードを緩急自在に操り観客にアピール。1幕の麦の穂を持っての演技や、スワニルダやコッペリウス博士とのやりとりも表情豊かで、コロシアム劇場に集まった家族客を大いに楽しませた。
2人による3幕のグラン・パ・ド・ドゥは華やかで、カーテンコールでは観客から盛んな拍手が送られ、盛り上がって幕となった。
 
夜の部の主役はバレエ団の芸術監督にしてリーディング・プリンシパルのタマラ・ロホと、デンマーク王立バレエのプリンシパル、アルバン・レンドロフ。
レンドロフはデンマークの首都コペンハーゲン出身の25歳で、王立バレエ学校卒業後バレエ団に入団。『ラ・シルフィード』や『ナポリ』などブルノンヴィル作品の主役から『白鳥の湖』のような古典作品、ウィールドン版『眠れる 森の美女』の王子やノイマイヤー振付『椿姫』のアルマンなどをレパートリーに持っている。去年『椿姫』のアルマン役が評価され、昨年バレエのアカデミー賞といわれるブノワ賞の最優秀男性ダンサー賞を受賞している。
 
ロンドン・デビューは2011年夏で、ナターリア・オーシポワとイワン・ワシリエフがペーター・シャフス・バレエ団に客演し、コロシアム劇場でアシュトン版『ロミオとジュリエット』を連日公演した際、準主役のマキューシオを踊っている。ENBには昨年『エチュード』上演時に初めて招かれた。色白で北欧人らしい容姿の持ち主だが、小顔に長い手脚の典型的なバレエ・ダンサー体型ではなく、がっちりとした肩幅に男性的な胸囲を誇る美丈夫で、タマラ・ロホを大いに引き立てる体型の持ち主である。
デビュー当時より「踊る女優」としてジュリエット、オンディーヌ、『マイヤリング』のマリー・ヴェッツラ、マノンやマルグリット・ゴーティエなどを踊って名声を得たロホは、スワニルダとコッペリアの踊りわけも巧みでフェミニンな魅力に溢れ観客の目を一身に引き付けた。
レンドロフは凛とした立ち姿と押し出しの良さ、パートナー技術の巧みさで、大スターであるロホのパートナーをつとめるに充分の資質を持ちながらも、貴公子然とした個性と北欧人らしい控えめな感情表現が災いし、村の若者というには上品過ぎ、かつ落ち着きすぎているように見えた。
 昨年レンドロフと共にブノワ賞の最優秀男性ダンサー賞に輝いたワディム・ムンタギロフはロイヤル・バレエに移籍。シーズン初めの『海賊』全幕に客演したマシュー・ゴールディングも2月にオランダ国立バレエから英国ロイヤルに完全移籍したばかり。
世界的にスター・ダンサーが激減した現在、レンドロフのような才能豊かで体型的にもロホ引き立てる男性を発掘し招いたのは良かったが、作品にフィットする個性の持ち主ではなかった様子。同日昼にこの作品にピッタリの高橋・ブッファラ組を堪能してしまっただけに夜の部の不完全燃焼を残念に感じた。
バレエ団は新シーズンに『白鳥の湖』全幕を再演予定。まだ正式な発表はないが、レンドロフとイワン・ワシリエフをゲストに招く予定があると聞く。どこか影のある美丈夫のレンドロフにはフランツよりジークフリートのほうが似合いであろう。今から新シ ーズンが楽しみである。
 (2014年7月26日昼夜2公演 ロンドン・コロシアム劇場。7月22日に撮影)

london1408a_06.jpg london1408a_07.jpg london1408a_08.jpg
london1408a_03.jpg london1408a_04.jpg london1408a_05.jpg
london1408a_09.jpg london1408a_10.jpg london1408a_11.jpg
photos/Angela Kase (すべて)