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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2014.03.10]

水谷実喜がクララ役で主役デビューを果たしたBRBの『くるみ割り人形』

Birmingham Royal Ballet バーミンガム・ロイヤル・バレエ
" The Nutcracker " choreographed by Peter Wright, Lev Ivanov, Vincent Redmon
『くるみ割り人形』ピーター・ライト、イワーノフ、レドモン:振付

バレエ団は本拠地ヒポドロームで11月22日〜12月12日までライト/イワーノフ/レドモン版『くるみ割り人形』を上演。毎日のように地元の家族客でにぎわった。
BRBが本拠地で『くるみ割り人形』や『シンデレラ』のようなクリスマス・バレエを上演する場合、劇場に足を運ぶほとんどの観客はバーミンガムとその近郊在住の一般客。だが毎年この時期は、バレエ団が多くの精鋭に主役を踊るチャンスを与えるため、首都ロンドンやイギリス北部などイギリス国内に点在する熱心なBRBファンがお目当てのダンサーのデビューを一目見よう、とバーミンガムに集う時期でもある。
今回は計11組がこの作品を主演。タイロン・シングルトンとセリーヌ・ギッテンズの黒人系ペアをはじめウィリアム・ブレイスウェル、厚地康雄らが金平糖の精や王子役を踊り以前から彼らを応援してきたBRBファンを喜ばせた。
ブレイスウェルはプリンシパルの佐久間奈緒を相手役に2度王子を踊り、関係者に「完璧」と言わしめたし、厚地康雄は長身の美人バレリーナ、イベット・ナイトと共に2度作品を主演し、好評を博した。またクララ役に入団2年目のローラ・デイや水谷実喜が抜擢され関係者やファンを驚かせた。

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london1403c02.jpg Photo/(C)Angela Kase

水谷は12月1日のギッテンズ・シングルトン組主演公演でクララ役デビュー。その後、5、8、11日と計4回同役を踊った。8、11日はマティアス・ディングマンとナターシャ・オートレッドとの共演であった。

水谷にとってのクララ役最終日12月11日の公演を観る。
小柄で少女のような容姿の水谷にクララ役は良く似合う。ダンス技術には定評がある上、ローザンヌ・コンクールの古典ヴァリエーションやその後のイングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクール(ENBS)留学時代の学校公演でもその才能の片鱗を垣間見せていたように、演技も達者で入団2年目のバレリーナとは思えぬ充実したパフォーマンスを見せてくれた。
1幕クリスマス・パーティの場面で水谷のダンス・パートナーを踊ったのはウィリアム・ブレイスウェル。期待の新人2名の共演は身長差やそれぞれの容姿の良さも相まって美しく新人らしいフレッシュな魅力にあふれていた。
王子役を踊ったファースト・アーティストのマティアス・ディングマンは06年のヴァルナ国際バレエコンクールの金賞受賞者。近年は演技力も増し、12・13シーズンは10年ぶりに再演されたビントレー振付『遥か群衆を離れて』の準主役ガブリエル・オーク、先シーズンは『アラジン』のタイトル・ロールに抜擢され、それぞれ演舞に素晴らしいパフォーマンスを見せている。だが「貴公子」というより「若者」が似合うタイプのダンサーであるため、王子としての雰囲気が希薄である。『くるみ割り人形』のような古典バレエの場合、やはりナターシャ・オートレッドの相手役はジェイミー・ボンドがふさわしいと痛感した。
当日のドロッセルマイヤーは今シーズン満を持してプリンシパルに昇進したタイロン・シングルトン。舞台での存在感は圧倒的で威厳もあり作品に奥行と深みを与えていた。
毎年BRBによるクリスマス・バレエの集客は良く『くるみ割り人形』も興行的に大成功を収めた。
一方で疲弊から怪我に倒れるダンサーも多く、12月6日の公演で王子役を主演していたイアン・マッケイが金平糖の精とのグラン・パ・ド・ドゥの後半で怪我をし、パ・ド・ドゥの最後を相手役のジェンナ・ロバーツが一人で踊り、王子がクララを肩に乗せ暗闇に消える部分は、当日ドロッセルマイヤーを演じていたシングルトンが受け持ってことなきを得た。またプリンシパルのジェイミー・ボンドも怪我に倒れ『パゴダの王子』イギリス初演前に主要男性プリンシパルが2人も降板してしまった。
(2013年12月11日(昼)バーミンガム・ヒポドローム劇場。同日夕方撮影)