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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2014.03.10]

ストラヴィンスキー曲、クランコ振付の『カード・ゲーム』バランシン、マクミラン作品をBRBが上演

Birmingham Royal Ballet バーミンガム・ロイヤル・バレエ
「Three of a Kind」"Card Game" choreographed by John Cranko, "Slaughter on Tenth Avenue" choreographed by George Balanchine, "Elite Syncopations" choreographed by Kenneth MacMillan
バレエ小品集『カード・ゲーム』ジョン・クランコ:振付 『10番街の殺人』ジョージ・バランシン:振付、『エリート・シンコペーションズ』ケネス・マクミラン:振付

デヴィッド・ビントレー率いるバーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)は、9月25日にマンチェスター近郊サルフォード、ローリー劇場でピーター・ライト版『眠れる森の美女』を上演して新シーズンを開幕。10月中旬には『眠れる森の美女』と「ビントレー作品トリプル・ビル」を持ってロンドン公演。11月22日〜12月12日に本拠地ヒポドローム劇場にてピーター・ライト版『くるみ割り人形』を上演。今年は毎年1月にバーミンガム・シンフォニー・ホールで行う一夜限りの音楽とバレエの夕べである「ミュージック&ダンス」を17日に行ったのを皮切りに、1月30日にはローリー劇場でビントレー版『パゴダの王子』をイギリス初演、2月19日〜22日には20世紀の巨匠クランコ、バランシン、マクミラン作品によるトリプル・ビルを上演。バレエ団のスターダンサーと期待の新人たちが各作品に活躍し、首都ロンドン、本拠地バーミンガムをはじめとする英国各都市のバレエ・ファンの心をつかんだ。
今月号ではバレエ団のシーズン上半期を振返り、3月号では『パゴタの王子』ロンドン公演の模様をお届けします。

london1403a02.jpg Photo : Bill Cooper

2014年をマンチェスター近郊のサルフォード、ローリー劇場での『パゴダの王子』イギリス初演で開けたバレエ団は、その後2月19日〜22日まで本拠地ヒポドローム劇場にて20世紀を代表する3人の振付家による小品集を上演した。
オール・スター・キャストの最終日2月22日夜の部を鑑賞した。
『カード・ゲーム(カルタ遊び)』は、1966年にジョン・クランコがロイヤル・バレエのために振付けた作品で、トランプを使っての賭け事であるポーカーを描いたバレエ。ハートの女王、スペードの王、ジョーカーなどトランプのカードを擬人化している。
オリジナルはバランシンと作曲家ストラヴィンスキーによる初のコラボレーション作品として知られる1937年版。「何でも良いから君が好きなテーマでバレエ用のスコアを書いてくれ」というバランシンの依頼に、ポーカー狂のストラヴィンスキーがある日タクシーの中で「ポーカーをテーマにしたバレエ」について思いを馳せ、その後作曲したのだという。
クランコ版はバランシン版をよりシンプルにしており、ポーカーの3回勝負のそれぞれに暗躍するジョーカーにはたいへん高度な技巧を盛り込んでいる。
クランコ版世界初演時のジョーカーは、マクミランもたいへん気に入っていたクリストファー・ゲイブル。だが10回公演中ゲイブルがジョーカーを踊ったのは2回だけで、残りは当時バレエ団のホープとして頭角を現しつつあったアントニー・ダウエルが主演したという。
22日(夜)のジョーカーはマティアス・ディングマン。白塗りの顔にオレンジの髪の毛、ショッキング・ピンクの総タイツに、ある時は女性用のチュチュをまとっての怪演にヒポドロームの観客が沸いた。また当日は周子超(ツ・チャオ・チョウ)、ブランドン・ローレンスら技巧派がセカンド・ディール(3回勝負の2回目)に登場。ハートの女王は清純派のジェンナ・ロバーツ、スペードの王は昨年11月に入団したルーク・シャフス(デンマーク出身の往年の名男性ダンサー、ペーター・シャフスの息子)がつとめ、ダンスール・ノーブルぶりを披露した。
この作品には、多数のダンサーを使って観客が目にしたことのないユニークなフォルムを創り出す鬼才クランコの類稀なる才能と、コメディ・バレエの作者としての手腕が大いにうかがわれたいへん興味深かった。

london1403a01.jpg Photo : Bill Cooper london1403a03.jpg Photo : Roy Smiljanic

当日『10番街の殺人』の若者役を踊ったのはジェイミー・ボンド。イアン・マッケイ共々『パゴダの王子』のタイトル・ロールに配役されながら、それぞれ12月の怪我でリハーサルが出来ず降板。今回久しぶりの主演公演となった。
この作品のフーファー(若者)役は以前から何度も主演を重ねている当たり役。ソロに演技にキャリー・ロバーツ扮する美貌と美脚のストリッパーとのデュエットにと大活躍。マフィアのボス役はタイロン・シングルトン。ここ数シーズンの演舞の充実でこの役も板につき頼もしいところを見せた。
ミュージカル『オン・ユア・トゥズ』からの抜粋であるこの作品には、冒頭でロシア人男性ダンサー(22日夜はヴァレンティン・オロヴィヤニコフ)がギャングにライバルの暗殺を依頼する場面がある。当日のギャングにはマティアス・ディングマンが扮し、観客に持ち前のアメリカ英語を披露した。

london1403a04.jpg Photo:Bill Cooper

マクミランの『エリート・シンコペーションズ』は、「ストップタイム・ラグ」に佐久間奈緒、「フライデー・ナイト」に曹馳(ツァオ・チー)が登場。それぞれがスターらしいオーラを振りまき、短いソロに圧倒的な存在感を見せた。佐久間は当初この作品の見どころである「ベッセナ・コンサート・ワルツ」を新鋭ウィリアム・ブレイスウェルと共演する予定であったが、ブレイスウェルの病気降板により急遽、厚地康雄と組むことになった。当日は厚地が昼夜2公演に様々な役で出演していたため、共演前に2人がリハーサルする時間はほとんどなかった。にもかかわらずまるでこの作品を何度も共演しているかのような好演で、観客に盛んな拍手を浴びていた。
通常背の高いバレリーナと小さい男性ダンサーが踊って笑いを誘う「アラスカン・ラグ」を踊ったのは2006年のローザンヌ賞受賞者ジャン・イージンと2010年の同コンクール受賞者のルイス・ターナー。ジャン、ターナー共に長身で身長差からくる視覚的な面白さはないのだが、ターナーがコミカルな魅力を発揮しヒポドローム劇場に集まった観客を大いに楽しませた。
佐久間奈緒は翌2月23日早朝にモスクワに飛び、セザール・モラーレスを相手役にガラ公演で『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』と『ロミオとジュリエット』を踊ってロシアとベラルーシでデビューした。昨年末にはアルゼンチンのブエノスアイレス、コロン劇場でライト版『白鳥の湖』を主演したいへんな好評を博すなど、世界各地で活躍を続けている。
年末に怪我に倒れたイアン・マッケイの舞台復帰にはまだ当分時間がかかる様子。4月に新国立劇場バレエが再演予定の『カルミナ・ブラーナ』客演からも降板。タイロン・シングルトンが代役をつとめることになった。
(2014年2月22日夜 バーミンガム・ヒポドローム劇場)

london1403a05.jpg Photo:Bill Cooper