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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2014.01.10]

『ジュエルズ』を踊って輝いたスティックス・ブルネル、崔、トルゼンヒミエッヒ、平野

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
”Jewels” by George Balanchine 『ジュエルズ』ジョージ・バランシン:振付

ロイヤル・バレエは12月17日〜1月7日までジョージ・バランシンの『ジュエルズ』をダブル・キャストで9公演開催した。
12月28日(昼)若手精鋭が名を連ねるセカンド・キャストの公演を鑑賞した。
第1部「エメラルド」の中心を踊ったのはベアトリス・スティックス・ブルネル、ラウラ・モレーラ、平野亮一。
スティックス・ブルネルの若さに似合わぬスター・オーラの大きさ、長身に長い四肢という素晴らしいプロポーション、平野の静謐で求心的なパフォーマンスがたいへん舞台に映えた。モレーラは先シーズンのベンジャミン、ガリアッツィ退団後、バレエ団になくてはならないオールマイティなベテラン・バレリーナとして物語バレエから抽象バレエまで作品を問わず踊りこなすバレリーナ。持ち前の音楽性を観る者に印象付けるソロを踊り観客の目を楽しませた。
3人以外ではヴァレリー・フリストフとダヴィッド・トルゼンヒミエッヒの両ソリストが素晴らしかった。フリストフのロマンティシズムは今のロイヤル・バレエでは貴重であるし、トルゼンヒミエッヒのラインの美しさと音楽性は、このダンサーが真のバランシン・ダンサーとなり得る大きな将来性を感じさせた。
当初「エメラルド」のパ・ド・ドロワはスティックス・ブルネルと平野、そしてやはり長身の金子扶生が踊るはずであった。大型新人として知られる2人が予定通り共演していたら舞台は一体どのような輝きを放ったのだろうか。シーズン初めカルロス・アコスタ版の新『ドン・キホーテ』全幕を主演した金子は、2度目の主演公演冒頭の跳躍の着地の際に膝の靭帯を痛め、1週間後に手術を受け、現在ロンドンで復帰に向けてのリハビリに励んでいる。金子の一刻も早い舞台復帰を祈りたい。

london1401a_01.jpg 「ルビー」ヤノースキー photo/Angela Kase

「ジュエルズ」というバレエの魅力は何だろうか。振付家バランシンはエメラルド、ルビー、ダイヤモンドという3つの宝石をテーマの3部作それぞれに雰囲気の異なるスコアを用い、「エメラルド」はパリ、「ルビー」はニューヨーク、「ダイヤモド」はロシアの帝都ペテルブルグという世界の3つの都市をあてはめている。3部作にはバレエ団の様々なスターダンサーが配役されることから、観客は一夜にして10人の主演ダンサーの魅力を目の当たりにする。
この作品を創作していた当時のバランシンは、当時16歳の少女バレリーナ、スザンヌ・ファレルがたいへんにお気に入りで、「ジュエルズ」世界初演にあたり3部作最後の「ダイヤモンド」を踊らせて、ニューヨークのバレエ関係者やファンにこのバレリーナを紹介しようと考えていた。だが世界初演当日、振付家にしてニューヨーク・シティ・バレエの芸術監督バランシンも予期せぬ事が起きてしまった。ニューヨークの観客が最も熱狂したのは3部作最後の「ダイヤモンド」ではなく、ストラヴィンスキーのジャズ曲を使い女性2名のスターダンサーが美と華を競うダイナミックな振付の「ルビー」だったのである。「ダイヤモンド」で、ファレルのバレエ団内での地位とニューヨークでの人気を確立しようとしたバランシンは、2日目が始まる直前に「ルビー」を踊るバレリーナ2名をよび、初日より地味に踊るように言い渡したという逸話が残っている。
「エメラルド」「ルビー」「ダイヤモンド」それぞれ魅力があるが、世界初演のエピソードにもうかがえる通り、3つの中で最も華やかで一般観客にアピールするのは「ルビー」であろう。

london1401a_05.jpg 「ルビー」サラ・ラム
photo/Angela Kase
london1401a_06.jpg 「ルビー」ラム、マックレー
photo/Angela Kase
london1401a_08.jpg 「ルビー」ラム、マックレー
photo/Angela Kase

ロイヤル・バレエの今回の再演のファースト・キャストで「ルビー」を踊ったのは、ゼナイダ・ヤノースキーとサラ・ラム、スティーヴン・マックレー。私が観たセカンド・キャストはメリッサ・ハミルトンと崔由姫、リッカルド・セルヴェーラ。
崔由姫とセルヴェーラは持ち前の魅力と音楽性でこの作品のパ・ド・ドゥでスリリングなかけあいを見せ、コベント・ガーデンに集まった観客を沸かせた。残念だったのがメリッサ・ハミルトンである。3部作を踊るバレリーナの中で最もカリスマに満ちた女性が踊るべきパートに抜擢された彼女は、美貌にしてたいへん柔軟な身体の持ち主であり、特に背中が柔らかいため「ルビー」の中心バレリーナへの抜擢について異議はない。だが陰性の魅力の持ち主であるため、この作品中1人スポットライトを浴びて踊ることが似合わず、大きな印象を残せずに終わったのである。
「ダイヤモンド」の中心となる男女を踊ったのは、ファースト・キャストはマリアネラ・ヌニェズとティアゴ・ソアーレスの夫婦ペア。セカンド・キャストはローレン・カスバートソンとルーパート・ペネファーザーのイギリス人プリンシパル。ロマノフ王朝華やかなりし頃の帝都ペテルブルグと、宝石の王ダイヤモンドにふさわしい光芒を放ったのはセカンド・キャストの2人ではなかったか。長期にわたった脚の怪我を克服したカスバートソンの舞台復帰をアピールするにはふさわしい作品であった。

london1401a_02.jpg 「ダイヤモンド」 photo/Angela Kase
london1401a_10.jpg 「ルビー」 photo/Angela Kase

『ドン・キホーテ』『ロミオとジュリエット』とシーズン最初の全幕作品の女性主役にヤナ・サレンコやエフゲーニャ・オブラスツォーワを招聘。また今シーズンからナターリア・オーシポワがバレエ団に正式入団したこともあり、シーズン冒頭は、この3人のバレリーナにイギリスのメディアやバレエ関係者、ファン、一般人レベルの関心が高まってしまい、以前からバレエ団に在籍する次期スターの存在にあまり脚光があたらないでいた。
今回セカンド・キャストによる「ジュエルズ」を鑑賞し、スティックス・ブルネル、トルゼンヒミエッヒ、平野、崔由姫、カスバートソンら、バレエ団精鋭の魅力を再発見。たくさんの異なる作品で彼らのパフォーマンスを観てみたい、という気持ちがますます強くなった。バレエ団芸術監督ケヴィン・オヘアが、今後彼らを様々な作品に抜擢し、踊り手としてのさらなる成長や完成のチャンスを与えてくれる事を切に希望する。
(2013年12月28日 ロイヤル・オペラ・ハウス。16日ファースト・キャストのドレス・リハーサルを撮影)

london1401a_07.jpg 「ルビー」ラム、マックレー
photo/Angela Kase
london1401a_14.jpg 「ルビー」サンベ、トルゼンヒミエッヒ、ズゲッティ、ダイヤー
photo/Angela Kase
london1401a_03.jpg 「ダイヤモンド」ヌニュズ、ソアーレス
photo/Angela Kase
london1401a_12.jpg 「エメラルド」高田茜、キャンベル、ハロッド
photo/Angela Kase
london1401a_04.jpg 「ダイヤモンド」ヌニュズ、ソアーレス
photo/Angela Kase
london1401a_09.jpg 「ルビー」ラム、マックレー
photo/Angela Kase
london1401a_11.jpg 「エメラルド」ワトソン
photo/Angela Kase

写真に登場するダンサー
「エメラルド」高田茜、エリザベス・ハロッド、エドワード・ワトソン、アレクサンダー・キャンベル
「ルビーズ」ゼナイダ・ヤノースキー、サラ・ラム、スティーヴン・マックレー
マルセリーノ・サンベ、ダヴィッド・トルゼンヒミエッヒ、ヴァレンティーノ・ズケッティ、トリスタン・ダイアー
「ダイヤモンド」マリアネラ・ヌニェズ、ティアゴ・ソアーレス、ほか