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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2013.08.12]

ボストン・バレエが30年ぶりに訪英、コロシアムで倉永美沙、市河里恵などが踊った

Boston Ballet LONDON COLISEUM ボストン・バレエ、ロンドン・コロシアム公演
"Serenade" "Symphony in 3movement" by George Balanchine, "Plan to B" by Jorma Elo, Afternoon of a Faum by Vaslav Nijinsky, "Bella Figura" by Jiri Kylian, "Polyphonia" by Christopher Wheeldon "The Second Detail" by William Forsythe
『セレナーデ』『シンフォニー・イン・3ムーヴメント』ジョージ・バランシン振付、『プラン トゥB』ヨルマ・エロ振付、『牧神の午後』ヴァスラフ・ニジンスキー振付、『ベラ・フィギュラ』イリ・キリアン振付、『ポリフォニア』クリストファー・ウィールドン振付、『ザ・セカンド・ディティール』ウィリアム・フォーサイス振付

アメリカ東部の名門、ボストン・バレエは今年創設50年。
バレエ団は本拠地でのシーズンを終えた後、7月3日〜7日まで30年ぶりのロンドン公演を行いこの節目の年を祝った。

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演目はAプロがバランシンの『セレナーデ』と『シンフォニー・イン・3ムーヴメント』、バレエ団常任振付家のヨルマ・エロ振付『プラン・トゥB』とニジンスキー版『牧神の午後』。
プログラムBがキリアンの『ベラ・フィギュラ』、ウィールドンの『ポリフォニア』、フォーサイスの『ザ・セカンド・ディティール』というネオクラシックと現代作品による小品集であった。
場所はロンドン・コロシアム。コベント・ガーデンのロイヤル・オペラ・ハウスとほぼ同じ席数を誇る由緒格式ある劇場である。7月4日と5日にA、Bプロを鑑賞した。。

アメリカ建国記念日である4日に『セレナーデ』を踊った主要ダンサーは、キャサリン・ブリーン・コムズ、ダスティー・バトン、セオ・ヒー・ハン、ボー・バズビー、ネルソン・マドリガル。バランシンの名作を一糸乱れぬ正確さで踊り上げ、ロンドンの観客の目を奪った。
初日と初日の午後に行われたゲネプロには日本人プリンシパルの倉永美沙が出演。モスクワ国際バレエ・コンクール銀メダルを持つ踊り手らしく、バレエ団の中にあっても一際抜きん出た存在感と音楽性で見る者を圧倒した。倉永の姿はバレエ団ロンドン公演のポスターとしても使われ、彼女がボストン・バレエを代表するプリンシパルであることがうかがえた。

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クラシックと現代作品の間に上演されたニジンスキー版『牧神の午後』は、見る者の目に新鮮に写った。当日牧神を踊ったのは東洋系の風貌のジョン・ラム、ニンフはアシュリー・エリス。
コロシアムといえば1世紀前にディアギレフのバレエ・リュッスとニジンスキーがロンドン公演を行った劇場。バレエ・リュッスゆかりの劇場で当時の演目を観るのはいつも特別な気持だ。

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バレエ団の常任振付家ヨルマ・エロ2004年作品『プラン・トゥB』は、今回がイギリス初演。
舞台下手にスクリーンがあるだけのミニマルな舞台に複数の男女のペアが登場する。
女性2人、男性4人の出演者の中で、元バーミンガム・ロイヤル・バレエで活躍したバレリーナ、ダスティ・バトンのパフォーマンスが圧倒的で強い印象を残した。
ただ、この作品1つで振付家のスタイルや個性を知るのは難しい。できればBプロでもう1つ彼の作品を観てみたかった。
Aプロの最後はバランシン72年作品『シンフォニー・イン・3ムーヴメント』。
バーミンガム・ロイヤル・バレエが過去に本拠地で佐久間奈緒とロバート・テューズリー主演で上演しているが、ロンドンではほとんど観る機会の無い作品だ。
かつてのニュ−ヨーク・シティ・バレエを良く知るバレエ関係者によると、ニュ−ヨークの観客はバランシンとストラヴィンスキーのコラボレーション作品をたいへん好み、たとえば『ジュエルズ』の「ルビーズ」なども世界初演の際は盛り上がりだったという。この作品もバレエ団ダンサーが総出演でストラヴィンスキーの音楽をダイナミックに視覚化するインパクトの強いバレエ。
倉永美沙、市河里恵、リア・クリオ、元グルジア国立バレエのラシャ・ホサシビリ、ジェフリー・クリオ、ブラッドリー・シュラーゲックらバレエ団のスター・ダンサーが群舞を率いて踊る姿には、ロンドンの観客やバレエ関係者もおおいに熱狂。アメリカ建国記念日でもあったこの日のパフォーマンスを鮮やかに締めくくった。

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フォーサイスやウィールドンはロンドンでも観る機会が多いが、キリアン作品、というとなかなか目にするチャンスがない。そういう意味でも、また作品が持つインパクトの強さから言っても、Bプロ3作品の中、最も印象に残ったのはキリアンの『ベラ・フィギュラ』であった。
炎の燃える暗い舞台の上に上半身裸体で登場するダンサーたち。イギリスはヨーロッパでも大陸諸国と違い、人間の裸身に対して消極的な国である。ダンス公演でも(特に)女性のセミ・ヌードを見ることはほとんどない。英ダンス・ファンにとってショッキングとも言える女性のセミ・ヌードが多用されたこの作品は、だがキリアンらしいウィットと美にあふれ、見る者を静かな感動でつつんだ。
出演ダンサー9人の中心は日本人バレリーナの市河理恵。
移民による新国家、人種の坩堝アメリカのバレエ団らしく、白人中心の団員の中には東洋系、黒人系ダンサーもちらほらみかけられ、白人ダンサー以上にシャープなパフォーマンスを見せて、観客に強い印象を残した。バレエ団にはロイヤル・バレエのプリンシパル、ゼナイダ・ヤノウスキーの兄弟である入団20年目のベテラン、ユーリ・ヤノウスキーやコレーラ・バレエ・スペインやABTで活躍するエルマン・コルネホの姉のエリカ・コルネホもおり活躍している。
最近コロシアム劇場で行われるダンス公演は空席が目立ち、劇場側が最上階の4階を閉め、観客を1〜3階に移すなどして雰囲気作りにつとめたが、ボストン・バレエの公演はA,Bプロ共にほぼ満席。30年ぶりの来英公演は大成功裏にその幕を降ろした。
(2013年7月4日、5日 コロシアム)