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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2013.08.12]

ロホ、ゴールディング、クリメントヴァ、ムンタギロフがロイヤル・アルバート・ホールで踊った

English National Ballet イングリッシュ・ナショナル・バレエ
"Swan Lake" by Derek Deane 『白鳥の湖』デレク・ディーン振付

タマラ・ロホ率いるイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)は、6月12〜23日までバレエ団本拠地に隣接するロイヤル・アルバート・ホール(RAH)でデレク・ディーン振付の円形舞台版『白鳥の湖』を上演した。
ケンジントン・ガーデンズの向かいにそびえるロイヤル・アルバート・ホールは席数6000の巨大な会場で、コンサート他、様々なイベントが行われている。バレエを上演するのはENBのみで、円形舞台版『白鳥の湖』はロンドンの夏の風物詩となっており、これまでもポーリーナ・セミオノワ、ロベルト・ボッレ、フリーデマン・フォーゲルなど豪華ゲストを招いての公演が行われている。
今回はロホが芸術監督になって初めてのRAH公演。初日はロホ本人とオランダ国立バレエの男性プリンシパル、マシュー・ゴールディングが主演した。

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6月12日、初日の公演を観る。
当日はロホ、ゴールディングのほか、家庭教師をマイケル・コールマン、王妃をジェイン・ハワース、ロットバルトをジェイムス・ストリーターが踊った。
RAHの舞台は巨大な楕円形で、四方から観客が舞台を見つめることから、どの席の観客にも主演ダンサーや群舞の姿が正面に見えるよう、主演男女が各ポーズで静止したまま360度回ったり、通常であれば舞台の後方から真っ直ぐ観客に向かって移動する場面を前後左右に移動する、など振付の工夫がなされている他、巨大な会場に集まった6000人の観客への視覚的インパクトを増強すべく、3幕の宮廷舞踏会の場面の冒頭には曲芸師が複数登場したり、2幕・4幕の湖畔の白鳥の群舞も通常の劇場版以上に増員するなどしている。
ポアントでのバランスや旋回技を得意とするタマラ・ロホにとって、アルバート・ホールとアリーナ版の演目はたいへん得意とするところ。ロイヤル・バレエ入団前にENBで活躍した時も、相手役に若き日のロベルト・ボッレを招いてRAHで『ロミオとジュリエット』を踊ったり、ロイヤル移籍後もゲストとして、カナダ国立バレエのギヨーム・コテと共にRAHでの公演を主演している。
この日もロホはバランスやシェネやフェッテ、ピルエットなどの旋回技を大いに奮って、RAHに集った6000人の観衆を魅了。オデットの悲しみ、黒鳥のパ・ド・ドゥでも、美貌やスター性が際立った。
RAHでのバレエ公演では、主演ダンサーや群舞がほとんどの場面で、客席を四方に貫く通路から登場・退場する。ダンサーは巨大なステージで踊り、巨大な会場の長い通路を走り終え、会場のドアの外に出るるまで観客に見つめられ、一時たりとも素の姿に戻れない。長身の男性ダンサーたちの誰もが「まるでマラソン・ランナーになったような気分」と語るRAHの大舞台は、長身でダイナミックなパフォーマンスが身上のゴールディングにたいへん良く似合った。

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1幕の登場やソロで大舞台の上を、疾風のように天駆けるゴールディングは、RAHデビューとは信じがたいインパクトの強いパフォーマンスを見せ、ロホへのサポートやリフトも見事であった。
残念だったのは現代的な容姿の持ち主だけに、佇まいに古典バレエの貴公子ダンサーらしい雰囲気が感じられず、また2・4幕でオデットと踊る湖畔の場面にもリリシズムやロマンの香りが希薄だったことか。ゴールディングの場合、ロホとの共演は『ドン・キホーテ』のような明るい作品のほうが良かったのではないか、と思った。
対して初日前夜の公開ドレス・リハーサルと公演2日目に登場したダリア・クリメントヴァとヴァディム・ムンタギロフの『白鳥の湖』は、珠玉のパートナーシップで知られる2人による感動的な舞台であった。
ベテランのクリメントヴァは、オデット、オディールの踊り分けが巧みで、2・4幕はあくまで美しく、悲しい。クリメントヴァが東欧出身の踊り手らしいアカデミックな舞踊表現を見せれば、ロシア出身のムンタギロフもまた美しいラインや正確なポジションでそれに応える。特に『白鳥の湖』『ジゼル』『ロミオとジュリエット』といった「愛のバレエ」を踊って最も素晴らしいペアだけに、2人のパートナーシップが紡ぐ悲哀と感動は、RAHという巨大な会場の最上階からら見つめる観客の心にもしっかりと届いたようだ。

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コロシアム劇場での春のロンドン公演の観客動員が奮わなかったENBだが、今では名物と化した感のあるアリーナ版『白鳥の湖』は、どの日も巨大なRAHがバレエ・ファンであふれ壮観。
やはり世界のバレエ団にとって『白鳥の湖』と『くるみ割り人形』は、興行成績上欠くことのできない作品であると今更ながらに思い知らされた一夜であった。
(2013年6月12日、13日 ロイヤル・アルバート・ホール。11日公開ドレス・リハーサルを撮影)

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