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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2013.02.12]

タマラ・ロホ芸術監督就任後初めてのロンドン公演、イングリッシュ・ナショナル・バレエ

English National Ballet イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)
"The Nutcracker" Choreographed by Wayne Eagling."Sleeping Beauty " Choreographed by Kenneth McMillan after Marius Petipa
『くるみ割り人形』ウエィン・イーグリング:振付、『眠れる森の美女』ケネス・マクミラン:振付

イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)は12月12日〜1月19日まで、毎年恒例のクリスマス、お正月シーズンのロンドン公演を行った。
12月12日〜1月5日は、前芸術監督イーグリング版『くるみ割り人形』、1月9日〜19日まではマクミラン版『眠れる森の美女』を上演。秋に元ロイヤル・バレエのプリンシパル、タマラ・ロホが芸術監督に就任して以来、初のロンドン・シーズンであった。
『くるみ割り人形』については1年前に特集しているので、今回は『眠れる森の美女』を中心にご紹介する。

12月12日ロンドン・シーズンおよび『くるみ割り人形』の初日をつとめたのは、ENBが誇るパートナーシップ、ダリア・クリメントヴァとワァディム・ムンタギロフ組。
ベテラン・バレリーナと入団4年目、弱冠22歳の若手という年の差のあるペアながら、イーグリング版『くるみ割り人形』を踊る2人の素晴しさについては、イギリスのバレエ関係者やファンには周知の事実。Dance Cubeでも昨年の2月号でご紹介させて頂いている。
12日は、終演直後に新芸術監督のタマラ・ロホが舞台上に現れ、ムンタギロフのシニア・プリンシパル就任を発表し、満場の観客を大いに沸かせたという。

今回私は12月15日のタマラ・ロホ主演日に劇場に足を運んだ。
芸術監督としてバレエ団のダンサーに目を配り、上演演目の選択、配役の決定、バレエ団の広告塔として新聞・雑誌のインタビューに対応するなど多忙を極めるロホは、またダンシング・ディレクターとして舞台にも立つ。
『くるみ割り人形』でロホが共演したのはエストバン・ベルランガ。スペイン出身のファースト・ソリストである。古巣のロイヤル・バレエでは、ダンサーとしてもパートナー技術も世界最高峰であるカルロス・アコスタを中心に踊ってきたロホのパートナーとしては弱いのではないか、という心配があった。だが2人が舞台に登場した直後に「このペアには年齢やダンサーとしてのレベルの相違を補ってありあまる魅力がある」ことに気がついた。
白い肌、艶やかな黒髪、大きく明るい瞳と、視覚的にたいへん似合いのペアである。ロホはロイヤル時代にセルゲイ・ポルーニンと、またENB移籍後にムンタギロフとも踊ったが、スリムで長身の2人と並ぶと視覚的な相違が目立った。ベルランガとは視覚的にも良い並びなのである。
ベルランガにとっては、自国出身のスーパー・スターにしてバレエ団の芸術監督でもあるロホと踊る、という大抜擢はたいへん嬉しく名誉なことだったに違いない。2幕のグラン・パ・ド・ドゥの最後のリフトで破綻したものの、それまではパートナーとしてロホの期待に良く応え、ソロでは華やかな魅力を発揮した。
ロホについては、彼女が登場するだけで舞台が一際華やぐ。美しくたおやかな立ち姿、優れたダンス技術、踊る女優としての技量と、何を取っても世界的なバレリーナである。これまではイギリスのトップ・カンパニーと、コベント・ガーデンというイギリス人にとっても敷居の高い劇場で踊っていた彼女が、チケット料金もより手頃なENBの芸術監督兼バレリーナとなったことで、この冬初めてロホの舞台を生で観る幸運に預かった家族客も多い。ロホは満場の観客に彼女自身の魅力とバレエの魅力を存分に伝え、観客を夢の世界に誘った。
イーグリング版は、くるみ割り人形と王子が交互に登場し、クララと踊る場面がある。この日は立派な体格でサポートに強みを発揮するジュニア・ソリストのマックス・ウェストウェルがくるみ割り人形としてベルランガと交互にロホを支え、好演の影の立役者となった。
ロホ主演当日、古巣のロイヤル・バレエではメイン・ステージでの公演がなかったため、客席にはロイヤルのダンサーたちの顔ぶれも見受けられた。

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1月9日、『眠れる森の美女』のロンドン公演初日を観る。
配役はオーロラ姫をロホ、王子をムンタギロフ、リラの精をクリメントヴァというロホ移籍後のENB最高のキャストである。カラボスはジュニア・ソリストのジェイムス・ストリーター、プロローグの妖精たちもベゴニア・カオ、アデーラ・ロドリゲス、ローレット・サマースケールズ、加瀬栞、ナンシー・オズバルデストンと、容姿や技量に優れたバレリーナを揃えた。
舞台人としてのオーラに人柄の良さがにじむクリメントヴァには、悪を駆逐するリラの精が似合いである。プロローグの妖精5人の中では、シャープなダンス技術を見せたシニア・プリンシパルのカオと歌うカナリアの精を踊った加瀬栞の好演が目立った。
1幕、ロホはローズ・アダージオの場面でのピルエットにトリプルを複数回、アン・ドゥダンのピケ・ターンでは6回転と、得意の旋回技に技巧を奮い、バランスについても男性の手を殆ど必要としない程の強さを見せるなど、登場直後から満場の観客に大いに魅力をアピールしてみせた。
4人の求婚者はイギリスの王子をアリオネル・ヴァルガス、スペインの王子をファビアン・レイマイア、インドの王子をジェイムス・フォーバット、フランスの王子をエストバン・ベルランガ。容姿と技量に優れるバレエ団の精鋭たちである。

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2幕、王子役のムンタギロフが舞台に登場した。片腕を高く上げ、両足で爪先立って長々とバランスを披露するバレエ団最年少のシニア・プリンシパルの姿には、優美さが観客の目を惹きつけるスター性が増し、ダンスール・ノーブルスールとしての更なる成長の跡がうかがえた。
10月中旬の地方公演以来、ロホとこの作品で共演を重ねているとはいえ、ロンドンではこの日が、ロホ、ムンタギロフ組にとって初共演。
『くるみ割り人形』でロホと共演したベルランガですらロホとの共演は大抜擢であった。だがベルランガにはプロになって10年というキャリアの長さ、同じスペイン出身の先輩と踊るという気安さがあったはずだ。その一方でムンタギロフは未だ入団4年目の22歳、ロホとは身長差もあり、決して肉体的にもベスト・マッチとはいい難い。だが2幕の登場より演舞に健闘し、パートナーリングも手堅くまとめた。
舞台前にはいつもナーバスになるというベルランガに対し、ムンタギロフの場合、大舞台前でも殆どあがることはないという。だがロンドンでのデジーレ王子役デビュー、またコロシアム劇場でのロホとの初共演当日は、彼なりの緊張があったのかもしれない。2幕のパノラマの場面で気心の知れたベスト・パートナーのクリメントヴァ(リラの精)と船に乗り、オーロラ姫を求めて旅する場面では安堵の微笑みがこぼれた。
作品のクライマックスである「オーロラの結婚」では、ロホのバレリーナとしての魅力とムンタギロフの若々しさが拮抗し、大いに盛り上がって幕となった。

翌10日は高橋絵里奈とヨナス・アコスタ組を観る。長らくこのバレエ団のシニア・プリンシパルとして君臨する高橋による古典全幕は何を見ても良いのだが、特に『眠れる森の美女』のオーロラ役は、彼女の持つ初々しさと清潔感が役と作品に似合いで、必見である。
1幕の登場の場面も素晴しかったが、「オーロラの結婚」のソロで見せる、腕の運びや足の入れ替えなどに高橋オーロラの若々しさ、愛らしさ、優美が光り眼福であった。
今回高橋は当日がデジーレ王子デビューであったヨナ・アコスタと踊ったが、王子役を得意とする貴公子ダンサー、ズデニック・コンヴァリーナとのパートナーシップを観てみたかった。
たくさんのソリストが登場するこの作品では、日本人ダンサーも大活躍。9日の初日はフロリナ王女を加瀬栞が、10日はブルーバードを猿橋賢が踊り、コロシアム劇場に集まった満場の観客を魅了した。
(2012年12月15日、1月9日、10日 ロンドン コロシアム劇場 10月16日 ミルトンキーンズにて撮影)

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