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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2013.01.10]

平田桃子が妖精の女王を主演! バーミンガム・ロイヤル・バレエ ロンドン公演 

Birmingham Royal Ballet 英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
「Autumn Celebrations 」"The Grand Tour " by John Layton "The Dream " by Frederic Ashton
『ザ・グランド・ツアー』ジョン・レイトン:振付、『真夏の夜の夢』フレデリック・アシュトン:振付

バーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)は、10月23日〜27日まで2つの「バレエ小品集」を持って半年ぶりのロンドン公演を行った。
10月23、24日は10月号でご紹介したビントレー、ラング、ファン・マーネン作品を上演。25〜27日は、8月号でご紹介したビントレーの新作『ファースター』、アシュトンの名作『真夏の夜の夢』と、ジョン・レイトン71年振付作品『ザ・グランド・ツアー』3作品による「オータム・セレブレーションズ」を上演。
今月号ではバレエ団のスター饗宴に沸いた『ザ・グランド・ツアー』リバイバルの模様と平田桃子がセザール・モラーレスと主演した『真夏の夜の夢』をご紹介する。
日本の読者の皆さんはご存知の通り、バレエ団のスター佐久間奈緒とツァオ・チー(曹馳)は、新国立劇場で行われたビントレー振付『シルヴィア』に客演するため、10月中旬にバーミンガムを後にし、東京に向かった。よってロンドン公演には参加せず、また9月下旬に腰の問題が悪化したプリンシパルのジェイミー・ボンドも降板したため、ロンドン公演は人気の3人のプリンシパルの出演なしで行われた。

london1301a_01.jpg photo/Angela Kase

一方この秋からバレエ団に復帰したファースト・ソリストの平田桃子は、10月4日の『白鳥の湖』全幕バーミンガム・デビューに続いて、翌週バレエ団のツアー先プリマス市でアシュトン64年作品『真夏の夜の夢』のティターニア役にもデビュー。ロンドンでは「オータム・セレブレーションズ」初日の10月25日に、平田桃子/
セザール・モラーレス組による『真夏の夜の夢』のバレエ関係者やファンへのお披露目が行われた。
当日はパックをマティアス・ディングマン、ボトムをシーズン初めの怪我から復帰したジョナサン・カグイオア、ハーミアをサマラ・ダウンズ、ライザンダーをトム・ロジャース、ヘレナをキャロル・アン・ミラー、デメトリウスをマシュー・ローレンスが踊った。
バレエ団はシーズン初めから様々な作品のリハーサルで忙しかったため、平田は『真夏の夜の夢』については充分なリハーサル時間が取れずにいたと聞くが、(昨年5月の日本公演で吉田都の相手役としてオベロンを踊ったモラーレスと共に)シェイクスピアが描く森の妖精王と妖精の女王の姿でロンドンの観客の前に登場し、息の合ったパートナーシップを見せた。

『ザ・グランド・ツアー』は、1930年代のヨーロッパ〜アメリカ間を運行する豪華客船での船旅を描いたバレエで、当時一世を風靡した英米のセレブリティーが多数登場する。
アールデコ調の装飾が施された豪華客船のデッキ・チェアに首からカメラをぶら下げた「おのぼりさん」らしいアメリカ人女性が座っている。するとデッキにセレブリティー客である欧米の文化人や映画スターらが現れる。新聞・雑誌やスクリーンで見知ったセレブリティーが多数目の前にいる事実に舞い上がったアメリカ人女性は、胸のカメラで彼らを隠し撮りしたり、はさみで人気映画女優の髪の毛を切り取るといった行為におよぶ。船には有名人ばかりではなく、貧しい密航者のカップルも潜んでおり、スタッフに後を追われている。アメリカ人女性は初めセレブリティーに冷たくあしらわれるが、客室担当乗務員長に親切にされたり、下船直前にはセレブリティーたちの仲間として一緒に写真を撮ってもらう幸運にあずかる。そして彼女は自分の巨大スーツケースの中に、密航者カップルを匿い彼らと共に下船する、というストーリー。
登場人物は総勢15人。ダンディーな脚本家にして演出家、俳優、作曲家、歌手でもあるノエル・カワード、カワードとのミュージカル共演により欧米でたいへんな人気を誇った女優で歌手のガートルード・ローレンス、サイレント映画時代に「アメリカの恋人」の異名をとった清純派女優メアリ・ピックフォードと人気映画俳優のダグラス・フェアバンクス、アイルランドの劇作家・評論家のジョージ・バーナード・ショー、アメリカの女流作家・詩人のガートルード・スタイン、スタインの友人でパリに住みアヴァン・ギャルド・アーティストや作家と交流の深かったアリス.B.トクラス、ハリウッド映画界初の「魔性の女」として知られる女優のセダ・ヴァラなど。ノエル・カワードによるミュージカル・ナンバーを音楽にセレブリティーたちそれぞれの個性と人間模様が描かれている。
今回のリバイバルは5月のスプリット・ツアー(毎年バレエ団が2つの小グループに分かれてイギリスの北東と南西の中都市を公演するツアー)に始まり、6月の本拠地公演、10月のプリマスに次いでの公演となった。

london1301a_02.jpg photo/Angela Kase

5月は引退前のロバート・パーカーがダグラス・フェアバンクスを演じ踊って人気を博したものだが、ロンドン公演初日はアメリカ人旅行客をヴィクトリア・マール、客室担当乗務員長をトム・ロジャース、ガートルード・ローレンスをエリーシャ・ウィリス、ノエル・カワードをマシュー・ローレンス、メアリ・ピックフォードをキャロル・アン・ミラー、セダ・ヴァラをサマラ・ダウンズ、バーナード・ショーをヴァレンティン・オロヴィヤニコフ、ガートルード・スタインをロリー・マッケイ、アリス.B.トクラスをジェイド・ヒューソンが演じ踊り観客を爆笑の渦に誘った。
熟年男性のダンティーな風情が粋なマシュー・ローレンス扮するノエル・カワード、カワードとキセルを持った腕をからませながら物憂げに踊るフェミニンなウィリス、若く美しい女性に偏愛を示すバーナード・ショーをコミカルに演じたオロヴィヤニコフ、レズビアンのガートルード・スタインとアリス.B.トクラスのカップルを無表情に演じて観客を笑わせたロリー・マッケイとジェイド・ヒューソン、活劇のスターらしいマッチョなポーズと眉毛を上下させる振付(?)を見事に体現したI.マッケイ、ピックフォードの少女らしい魅力を闊達に踊ったミラー、3人の客室担当乗務員を踊ったカグオア、ファーガス・キャンベルとルイス・ターナーの音楽性あふれるパフォーマンスが印象に残った。
ロンドン公演直前の10月19日、バレエ団はプリンシパルのマシュー・ローレンスが12月にイギリスを離れ、2013年初めからオーストラリアのクィーンズ・バレエに移籍すると発表。愛妻で元BRBプリンシパル、ゲイリーン・カマフィールドとの間に子供が生まれ妻が引退したことから、馴染みのある南半球での生活を選んだのだという。
ノエル・カワード役で(口パクではあるが)歌も披露し、作品に君臨したローレンス。5月のロバート・パーカー同様、またこの役を演じ華麗にプリマス、ロンドン、カーディフの観客に別れを告げたプリンシパル、ローレンスの勇姿はロンドンのバレエ関係者やBRBファンの胸に長く刻まれ記憶されるに違いない。
(2013年10月25日 ロンドン、サドラーズ・ウェルズ劇場。舞台写真は6月27日、バーミンガムで最終ドレス・リハーサルを撮影)

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写真に登場する人々
アメリカ人旅行客/ジェイド・ヒューソン、客室担当乗務員長/スティーブン・モンティス、ガートルード・ローレンス/サマラ・ダウンズ、ノエル・カワード/ジェイミー・ボンド、ダグラス・フェアバンクス/イアン・マッケイ、メアリ・ピックフォード/ローラ・パーキッス、セダ・ヴァラ/キャリー・ロバーツ、ジョージ・バーナード・ショー/トム・ロジャース、ガートルード・スタイン/ジョナサン・ペイン、アリス.B.トクラス/クリスティン・マクギャリティー、密航者のカップル・男/ジェイムス・バートン 女/ルース・ブリル